【SS】火傷、繰り返し
ヘアアイロンで火傷した。
ほっぺたの右、にっこり笑うと頬骨が出てくる部分。
すぐに冷やせば良かったのに、何が起こったのか一瞬でわからなくなってしまい、冷やすのが遅くなった。
そのせいで、少し跡になってしまったのだ。
化粧で隠せるだろうか。
すぐに、「髪の毛のセットをしてるということはもう化粧をしたあとだ」と気づき、この傷跡とは当分一緒に過ごさねばならないのだと悟った。
髪の毛を巻くのは苦手。
鏡の前でどちらに手を動かせば良いのかわからず、手首を右往左往とクルクルさせる。鏡の前に座る自分があまりにも必死で、滑稽に見え、自分でも情けない。
なんて不器用なんだろう。雑誌で見るようなゆるふわ系女子に憧れるが、実際に出来上がるのは形の崩れた縦ロールの残骸。
中途半端に上瞼だけ塗られたアイシャドウ、失敗するのが怖くて目尻に少ししか入れないアイライン、つける予定のないカラーコンタクト。ネットで見るようなフルメイクをする勇気が湧いてこない。
可愛くなりたい、そんな柄にもないことを思ったのはいつからだろう。昔から私は全てにおいて自信がない。だって、周りを見て、自分の方がいいと思える部分がないのだ。
周りと比べて自分の方がいいと思える部分を探している時点で浅ましく、狭い心を持っていることに変わりはない。そんな気持ちでいると、周りの人はなんて純粋で素敵な人たちなんだろうと思ってしまう。
しかし、人とは誰しも浅ましいはずなのだ。
さりげなく感謝を伝えるのがうまい彼も、言葉遣いがいつも綺麗な彼女も。きっと誰にも言えない黒い気持ちを胸ポケットにしまい込んでいるはずなのだ。
そうであって欲しい。
メリーゴーランドのように思考が回る。一周するまでは、色々な景色を観れるが二周目からは同じことの繰り返し。
この思考にハマると終わりがないのだ。解決策を求めずに、ただグダグダ相談してくる女子となんら変わりないのだ。
そして私は、そんな彼女たちを普段無意識に下に見てしまっている。
私だって結局、馬に乗る彼女たちを同じメリーゴーランドの馬車から眺めているだけなのに。
今日は出かける予定だった。午前11時の新宿ALTA前。人と映画を見る予定だった。
けど、数分前にその予定は無くなった。
私がほっぺたを火傷する数分前。
なんで無くなったんだろう。日頃の行いが悪かっただろうか。
「分かった。次はいつ会える?」
小さなグラスからこぼれ落ちそうな言葉たちをグッと押し込んで、私はやっと返事をした。
ネットで「ヘアアイロン 火傷 すぐ治す」と検索を掛けながら、私は返事を待つ。
今日は、綺麗に巻けてたと思ったんだけどな。
ほっぺたの傷が、チリッと痛んだ。