【SS】偶然か必然か 〜ペットボトルは愛を運んでくるのか〜
この部屋の人間は微妙にものぐさだ。
なぜなら、ペットボトルである私がこの部屋に一年もいるからである。
しかも、微妙とつけたのは、なぜか私だけ放置されているからである。
本来ペットボトルとは、1日で消費され、1週間のうちにゴミとして収集されリサイクルや焼却に回されるはずである。
私なんて、ただのぶどうジュースのペットボトルだ。紫色のラベルが体に巻き付けられている何の変哲もないペットボトル。
だが、この家主は私を放置したまま1年が経とうとしている。
もともと片付けが苦手な家主ではあった。
他にも同胞たちが床に転がり、無惨にも散らばっていた時期があることを覚えている。
しかし、ある時から急に部屋を片付け始めたのだ。
そして、同胞たちは片付けられ、正規のルートをたどってペットボトルとしての生を全うしていた。
あの時、おそらくだが家主は私のことを忘れていたのだ。
水曜の朝、ペットボトルたちがひしめき合う袋を2、3個ほど持ち外に出た家主。戻ってきた途端に私を見つけて「あっ」といった表情をしていた。とんだ阿呆である。
ただ、その時の家主は何かを思い出したかのように顔が明るくなり、「これだ〜」と言って私を窓際に置いた。
それから、おそらく捨てる機会なんて何度もあったはずである。
だが、家主は私を捨てるどころか。いつまで経っても窓際から除く気配がない。
正直、この家主は女で、なんの変哲もないジュースのペットボトルである私を窓際に置いておくなど見栄えも悪いはず。一体何の意図があって……いやきっとこの娘には大した意図なんてないのだ。
そんな中、ある男が家を訪ねてきた。
「ねえ、もしかして、このペットボトルが占いのやつ?」
「そう!」
「いや、確かに紫のものを窓際におくと良いって言ったけどさ」
「捨てるの忘れちゃった時、やっちゃったな〜って思ったんだけど、紫色だったからついピンときて……捨てられなくなっちゃったの」
家主は男と仲睦まじそうに話をしている。
「でも、占い通りになったでしょ?」
「縁結びがペットボトルって、なんかやだなあ」
「こうして恋人もできたわけで、部屋も片付いてハッピーだね!」
なんてことはない、私はただうまく使われただけのようだ。
だが、縁結びのペットボトルというのも悪くない。
このままもう少しだけ飾られていようかと思う。
「確かあの恋愛占いって、ここ一年間のことだったでしょ。ラッキーアイテムの効力は一年間だよ」
「え、じゃあもう捨てなきゃかな?」
この家主は占いよりも先に、人と学ぶべきことがあるのではないだろうか。