【短歌】 ラス続き 寒き秋風 胸を裂き 残る悔しさ 指を震わす
「ラスか……」
思わず声に出してしまった。
対局を終えた雀荘のドアを押し開けると、冷たい秋の風が頬を撫でる。
背中を丸めて、街灯の下を歩く。
冷えるな……秋って、こんなに寒かったっけ。
いや、それとも俺の心が寒いのか。
ラスはきつい。精神的にも、物理的にも。
財布の中身は軽くなり、家路は妙に遠く感じる。
「次は勝つ」なんて、ありきたりな決意も湧いてこない。ただ冷えた夜の空気が、俺の胸にしみるだけだ。
少し歩いて、ふと足を止める。
「そういえば……飯、食ってないな」
麻雀に夢中になると、つい食事を忘れる。この空腹、今日の悔しさを癒やしてくれるだろうか。
店を探して歩き出すが、どこも馴染みのない店ばかりだ。温かいものを食べたい……鍋か、ラーメンか。だが、何を食べても今日の敗北を洗い流すことはできない気がして、足が前に進まない。
秋風が吹き抜ける商店街の路地裏。
静かな夜に、自分の足音だけが響く。
こんなとき、何をするのが正解なんだろう。
運動でもして気分転換するべきか。
それとも、素直に家に帰って寝るべきか。
いや、それ以前に食べ物だ。
胃袋を満たさないことには何も始まらない。
小さな焼き鳥屋の暖簾が目に入った。
中から聞こえる炭火の音と、漂う香ばしい匂い。
ああ、これだ。
こういう場所で、熱いお茶を飲みながら串をつまむ。それが今の俺に必要な慰めだ。
店に入り、カウンターの端に腰を下ろす。
串をいくつか頼み、熱燗もつけてもらう。
焼き鳥が出てくるまで、手元の湯飲みに口をつける。じんわりと体が温まる。
「焼きたてですよ」
そう言われて出てきた串を一口かじる。
炭火の香りが口いっぱいに広がる。焦げ目のついた皮がパリッとして、身はジューシーだ。
うまい……うますぎる。さっきまでの悔しさが一瞬だけ遠のいていく。この瞬間のために、生きてるのかもしれない。
食べ終え、暖かい体で店を出る。夜風はまだ冷たいが、さっきより少しだけ優しく感じる。
「明日もラスだったら……どうするか」
そうつぶやきながら、俺は家路についた。
勝ち負けに振り回されるのも悪くない。だが、次こそは勝つ。勝つためには、まず今日を乗り越えなければならないのだ。