【短編小説】薔薇と少年 後編『ある男の子が私を見つけた』
全部貴方が悪いのよ。そして私も悪いのね。
私は泣きたくなるほど温かな体温の中、真っ赤な夕暮れの隅っこでそう思った。
ただ枯れていくだけならこんなに哀しいことはなかったのに。
ある男の子が私を見つけた。
その男の子は美しい赤の花弁に目を奪われた。
それは普通のことだったから私もそこで凛と咲いているだけだった。
「君はいつだって美しいね」
その子はいつも何か言っていた。
それは、単に感想ではなくて私に向かって話しかける言葉だった。
「みて、水たまりに君の姿が反射しているよ。とってもすてきだなぁ」
私は答えないでいようと決めていた。もう最初から終わりが見えているのだから。
「君はどんな色が好きなの? やっぱり君みたいに美しい赤色なのかな? それとも、空みたいな爽やかな青だっていいね」
それでもあの時、答えてしまった。その純粋な瞳が私にそうさせてしまった。
「私は、紫色が好きよ。貴方の瞳みたいなね」
そう言葉を交わした瞬間は幸せだった。
「君と、赤焼けの湖に行けたならとっても幸せだろうな」
男の子がそう言った。
じりじりと日の照り付ける夏の日。
どうしてか、それが男の子の願望のようだった。
それは、できることならば貴方の願いを叶えてあげたい。
私はこの男の子にそう思うようになっていた。
それでも、私には……
「そんなこと無理よ」
その日から数日経った、少し暑さの和らいだ日。
男の子は私と出会ったときのことを話してくれた。
「僕、君が返事をしてくれたあの時、このまま消えてしまってもいいって思えたんだ」
そう言ってその子は笑った。私はこう返していた。
「そうね、どうせ消えるなら、幸せで一杯の中消えたいわね」
その時、思ったの。湖に行きたいと。
「一緒に、行きましょう? 赤焼けの湖へ」
「え? どうして?」
「……夏が過ぎるから」
そうして、私は夕暮れの赤の中、貴方の手の中にいた。
随分長く枝から離れた私の体は間もなく最期を迎えようとしていた。
薔薇はひと夏の命。こうなることは最初から分かっていた。
ふと、貴方が泣き出してしまいそうな顔で何か言った。
「笑ってちょうだい? もう、最期よ」
私はもう意識を保ってはいられない。私は最期に自分にこう問いかけた。
こんな最後だと分かっていたのにあの男の子と言葉を交わしてしまったこと後悔していないかしら? それで本当に良かったのかしら?
空が紫色に染まっていくのが見えた。私はそっと眠りについた。