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【短編小説】暇人 第六話(全八話)

「僕は、きっと言葉のままだと思うんです。蟹は猿が皆に疎まれているのを知って、それは可哀そうなことだと、そう思ったんじゃないかと。
仕返しをしなかったのも、ただそんな風にやり返すのは可哀そうだし、どうせならみんなで仲良くしたかった……そうじゃないかなぁ……?」

 彼は恥ずかしくなったのかごまかすようにへへっと笑ってそう言った。
僕は蟹はそこまで優しいのかそんな純粋だろうかと思ってしまう。
自分をいじめている猿に対してそう思えるものだろうかと。でもそう信じてやまない彼の瞳はたいそう美しく輝いているようだった。

「美しい」

 そう男はつぶやいた。

圧倒されるように。

「世界が貴方がたのような人ばかりならきっと幸せなんでしょうね」

 それから夢を見るようにため息を吐く。
はあ、もしそうだったならどんなに素晴らしいだろうかというように。
そして、隣の彼を見て言う。

「貴方の考えを馬鹿にする人だっているでしょう。その考えはあまりに眩しすぎる。心が曇っている人たちにはうそぶいているように聞こえてしまうんですねぇ。綺麗ごとのように……」

 男の話を聞いている彼の顔は少し悲し気に見えた。
心当たりでもあるのだろうか。
さっき僕が当てられたように。

「でも、僕は本当にそう思うんです」

 彼は焦るようにそう言った。僕にはそれが痛いほど分かったそれに……

「もちろん、貴方がそう思っていることは分かっておりますよ。それに決して非難したい訳ではないのですから」

 男もそのことを十分に理解しているようだった。
ほっとしたように微笑んだ少年は

「ごめんなさい」

とそう言った。
その顔はとても嬉しそうで頬は恥ずかしさからか喜びからかりんご飴のように真っ赤であった。

「何も貴方が謝ることはないですよ。ええ、ええそんなことは決してないのです」

そして男は少年に近づいて諭すように言った。

「いつか、そんな風に考える自分に嫌気がさすかもしれない。それでもその考えはきっと貴方を、いいや、貴方の周りの人をも幸せにしてくれるでしょう、だからどうか……」

それから懇願するように彼を見たがその先は言わないで、こんなことは言うもんじゃないというように首を振った。
それから、紙芝居のほうに戻って

「ありがとう、ありがとう。こんなに素晴らしい意見を聞けるとは思いもしませんでしたよ。ああ、まだ祭りの前日だというのにとても気分が高揚していますよ」

そう笑った。
ふと、隣の彼が質問を投げかける。
男は戸惑うように大きく目を見開いた。

「貴方はこの物語を聞いたとき、その質問に対してどう思ったんですか?」

「いやはや、やはりここでわたくしが意見を述べるというのは無粋なことでしょう」

 男が逃げるようにそう言う。
少年はただ何も言わない。
ずっと真っすぐに男を見つめていた。
あたりには妙な緊張感が漂う。
僕は何も言えず丁度二人の間をきょろきょろと行き来していた。

「本当は」

 そう男が沈黙を破る。

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真昼ノ星
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