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【短編小説】暇人 第二話 (全八話)

 こっちだと道案内をしながら彼はそう言った。
僕は自分の名前こそ言ったもののそれほど話が得意でもなく、彼も無理して話すことはしないようで静かな時間が流れる。
やがて馴染みの商店街が見えてきた。

「この辺りで祭りがあるんだって」

 商店街は静かで人通りがほとんどない。
アーケードをくぐり中に入ると確かに祭りのポスターや赤い提灯の装飾、後は落ち葉の形にかたどられた画用紙がところどころに飾られていた。
こんな祭りがあるとは聞いていなかった……僕はあっけにとられただぼんやりと前の背中を追いかける。

「こっちに簡易な舞台が設置されてるんだ。この祭りでは舞台で語られる物語についてみんなで意見を交換し合うんだってなかなか面白そうだよな」

 前の彼は軽く僕の方を振り返りながらそう言った。その笑顔がなんとも楽しそうだったから僕はうらやむ。
こんなふうに生きれたのならきっと幸せなのだろう。
何も考えたくない。
こんな思考を振り払うようにそう思った。考えるから苦しいのだ。
それからまた辺りに目を向ける。
いつもと同じ石畳の地面に、立ち並ぶ商店。それなのにいつもと違う特別な感じが漂う。お祭り特有の空気感だろうか。
不思議と気分が高揚するあの空気。
きっとここを出ればまたすべての重圧が戻ってくるのだろう。それでも、今だけは。幻にすがるようにこの空気を味わう。
前にいる彼は僕の顔が少し明るくなったように感じたのか来てよかっただろうと笑った。
肯定の意を込めてゆっくりと頷き返す。
ただ少しこの時間に終わりがあることを寂しく思うばかりだ。


 商店街の丁度真ん中あたりにさっき彼が言ったように簡易な舞台が設置されていた。
木製の舞台で地面より少し高くなっている。
シンプルなものだが注目を集めるには十分だろう。あたりにはござが敷かれておりその上には座布団が置かれている。
その舞台の傍らに紙芝居の枠を持った一人の男が佇んでいた。
黒い着物の彼は辺りをきょろきょろ見渡し、僕たちのほうを見やる。そして、いいところにとにこやかに笑いこっちによって来た。

「いや~わたくし明日の祭りで紙芝居をする予定なんですがね、どんな風に思われるか少し意見を聞きたいと思っているんですよ。もしよければ、聞いていただけませんかねぇ?」

 僕はどうするかというように彼を見た。
彼もまた同じように僕を見る。
僕はどちらでもよかったから彼に任せるというと彼は男に笑いかけ、もちろんですといった。男はよかったと顔をほころばせ僕らに座るように促す。

「今宵は、暇人による暇人のための語らいの時間。まあ、この時間ばかりは面などつけずに正直に語り合いましょう。論じ合いましょう。なあに、個々の意見に間違えなどないのだから、心配する必要などありゃしません。自由に率直に感情的に思ったことを述べればよいのです」

 それでは、と紙芝居の一枚目が見せられる。それと同時に僕は自分に意見が述べられるのだろうかと不安になった。
今から語られる物語についてみんなで意見を交換しあうのがこの祭りの趣旨ならばもちろん僕も何か意見を言わなければならない。
緊張して紙芝居に目を向けてもどこかおぼろに見える。男はちらりと僕のほうを見る。

「何も意見がなければそれでもいいんですよ。それだって率直な意見だ。なあに、もし口に出してだとうまく伝えらんないってんなら紙と鉛筆も用意しましょう。だから、そんな怖い顔しなさんな」

 僕は申し訳なくなった。そんなに顔が曇っていただろうか。隣の彼も大丈夫だというように優しく笑う。僕はありがとうと礼を述べ、少し落ち着きようやく紙芝居の一枚目をしっかりと見た。
そこには猿と蟹の絵が描かれている。

「これは猿と蟹のだあれも気に留めぬような簡素な物語」

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真昼ノ星
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