【短編小説】通り雨 第三話
困っている少女がいようと太陽が見たい男の子が願おうと雨は無情にも降り続ける。
それはまるで僕の心の意地悪な部分のようだ。
僕は今さっき見た光景を否定しようとしていた。
どうして。
きっとそれは……
あれが正しいことだと認めたくないからだ。あれが美しいことだと思いたくないからだ。あれが僕の憧れる姿ではないからだ。
僕は陰鬱な雨の香りで肺を埋めてすべてを忘れようとまた頭の中で英単語を唱え始めていた。
「にもつ重たくなぁい?」
そんな声が聞こえてふと男の子を見る。
気が付くと僕らの距離は少し開いていて僕は慌てて男の子のほうへ戻る。
見るとそこには沢山の荷物が入ったレジ袋を引きずるようにして運んでいるお婆さんがいた。
腰が曲がっていて僕よりも小さいそのお婆さんは細い目を最大限に開いて僕たちを代わる代わる見ている。
「ぼくも運んであげるね」
「おやまあ、でも、坊やには少し重いんじゃないかしら……」
遠慮がちに目をそらすお婆さんは優しい声で、小さい掌を目一杯に広げて満面の笑みを浮かべている男の子に言った。
「だいじょうぶ、ぼく力もちなんだから!」
やがてお婆さんは根負けしたように微笑みそれじゃあ……と男の子にレジ袋を渡した。
雨合羽の顔の部分から雨に濡れた男の子の髪から雫が落ちる。
さっき傘をあげてしまったからだ、
と僕は思った。
男の子は重い荷物で顔を真っ赤にしている。
お婆さんを助けようとするから。
そして僕は雨の中、家に帰れないで町を歩き回っている。
男の子を無視しなかったからか……。
やっぱり人助けなんて馬鹿馬鹿しい。僕にとって大事なことは勉強することなのだ。今はこれっぽちも楽しくない毎日だけれども将来、何かすごい人になってお金を稼いで悠々自適な生活を送る。
人にかまって時間を無駄にはできない。情けは人のためならずとは言うけれど、この世界に神様はいないし、馬鹿を見るばかりだ。
雨がこの世を嘆くように僕の傘を打つ。
そうだ、僕は何も間違っていない。この世界、綺麗ごとだけでは生きていけない。僕はそう思って息を吐きただぽつりこういった。
「僕も運ぶのを手伝うよ」