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【短編小説】暇人 第四話 (全八話)

 僕らはぱちぱちと拍手をした。
しかし、二人分の拍手では少しばかり寂しい雰囲気が漂った。ありがとうございますと紙芝居の男は頭を下げる。

「それでは、少しばかりはなしやすいようわたくしから二つほど質問させていただきましょう」

 まずは……と紙芝居を巻き戻しながらこういった。現れたページは蟹がひそひそ話を陰で隠れて聞いている所だった。

「蟹が猿を可哀そうだと言ったところ。蟹はどんな思いで猿にそう言ったんでしょうねぇ。なあに答えはありませんとも。もちろん。十人いれば十人違う答えがあるものですよ。それから、もひとつ」

 次に出したのは最後の絵で、今だニヤニヤ笑っている猿とみんなに囲まれて笑っている蟹がいた。

「どうして蟹は猿を痛めつけなかったんでしょうか?
わたくしなればビューンと空のかなたまで飛ばしてしまうのですがねぇ~」

 そう言って男はにやりと笑う。
僕も物語の中でぐらい猿が報復されてくれればよかったのにとぼんやりそう思っていた。
それでは……と男が言ったのでそちらのほうに意識を向ける。

「シンキングタイムと行きましょう」

 男の瞳が賢そうに輝く。
隣の彼も顎に手を当てうーんと唸っていた。
僕も視線を紙芝居に寄せて思考を巡らせる。
もしも、僕があのような立場に立たされたらどうだろう。僕はきっと猿が憎くてたまらないだろう。まるで紙芝居の中に沈んでいくように思った。
僕は俯きこぶしを握り、猿がニヤニヤ去っていくのをただ黙って見送ることしかできないのだ。
嘲笑する声が聞こえるようだ。
ふと場面が切り替わり、気が付くと動物たちがこそこそと猿の悪口を言い合っているのが耳に聞こえてくる。
確かにそうだ猿は意地悪で、自己中心的で嫌いな奴だ。でも僕は言うのだ。

「猿は可哀そうなやつだなあ」と。

 どうしてかって? それは、
僕は悪口も言えないからだ。
そんな風に陰で悪口を言うような人ではありたくない。だから吐き捨てるようにそう言ったのだ。本当にそう思ったのか思ってなかったのかなんて関係ない。
そう考えるとおのずともう一つの問いの答えも導かれるような気がした。
どうして蟹は猿を痛めつけなかったか。
でも、こんな答えで良いのだろうか。
僕はふと気が気でなくなる。こんな考え大っぴらにできるものじゃない。取り繕うように新たな案を考えるがどれもこれも嘘くさくて、気分が悪かった。
何かいい答えはないだろうか。

「そろそろ、思いついたころではないでしょうかねぇ」

 声がして顔をあげる。
男は笑っていた。
さも楽しみだというように。

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真昼ノ星
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