【短編小説】通り雨 第二話
僕は今しがたの自分の行動を後悔していた。
雨は僕らをあざ笑うように強さを増す。
この近くにある高台に彼を連れていくつもりだった。歩いて十分くらいのところだ。
ただ、それはあくまで僕の歩調での話で隣の男の子は雨具の重さと小さな歩幅のせいで随分とのろのろ歩いているように見えた。
折り畳み傘では覆えない肩のあたりが雨粒を受けて冷たく感じる。
こんなことだから人助けなんてするもんじゃない。
僕は無意識のうちにため息をつき頭の中では覚えたばかりの英単語を忘れないように繰り返していた。
ぱしゃぱしゃと水たまりを踏んで男の子が駆けてゆく。
今までは従順についてきていたものだから僕は驚いてとっさに追いかける。
男の子の行き着く先には男の子よりも少し年上くらいの少女がいた。ポニーテールに結った髪にピンク色の可愛らしいスカートをはいている。
彼女は閉店している店の前に立って雨宿りをしていた。その顔にはこの雨がいつ止むのかという不安がにじんでいた。
「だいじょうぶ?」
そう男の子が声をかける。僕は少し後ろからその様子を見ていた。
雨でベールがかかり僕は疎外感を感じた。
「急に雨が降ってきて……雨宿りをしていたの」
少女は困ったように笑いそう言った。
男の子はぱあっと笑い
「それならぼくのカサをあげるよ!」
という。女の子は面食らったようにえっとつぶやくと
「そんな……悪いよ……」
と申し訳なさそうになった。
それもそうだろう突如現れた見知らぬ子供に傘をあげるなんて言われてもそう簡単に受け取れない。
「わるくないよ?」
と子供ゆえの無邪気さから男の子はそう言った。
その優しさは美しく僕はどうしてか胸が痛くなった。
やがて少女は男の子がにっこりと差し出す傘をいとおしそうに受け取る。
「ありがとう」
少女はただ一言そう言った。
その声は雨のように静かにそれでも確かに溢れんばかりの感謝を伝えていた。
急な雨で不安だった少女はこの傘によって救われたのだ。