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【短編小説】暇人 第五話 (全八話)

「えっと……」

僕がふと漏らすようにそう言うと

「あんまり時間をかけると率直な意見は隠れてしまいますからねえ。最初に思いついた答えで良いんですよ。何も思わなかったならそれもそれなんですからな」

 僕はどきどきしていた。
こんな意見でもいいのだろうか。
今までこんな素直に語る場はあっただろうか。
不安もあるけれど、どんな意見でも喜んで聞いてくれそうな男の姿を見ていると語ってみたいとも思う。
隣を見ると、彼も不安げな表情を浮かべている。
それでも自分の意志は決まっているようで口を真一門に結び決意を表しているように思えた。

「じゃあまずは、君から行きます?」

男はそう言って僕のほうに手をやる。
誘うように。
驚き慌てた僕に、小声で

「先に言っていた方が楽になりますぜ」
といい

「さあ、どうします?」

とまた今までの調子に戻ってそういった。
僕は頷き、それじゃあ、と語り始めた。

「僕は、どちらの問いも蟹の正しくありたいという気持ちから来てるんじゃないかと考えました」

そう形式ばった形で淡々と答える。

「猿の悪口を言わなかったのは、自分はそういう奴とは一緒になりたくないと思ったから。猿に仕返しをしなかったのも、同じように猿に仕返しをするのは悪い行いだと感じたから……」

 言っているうちに不安になってだんだんと声が小さくなる。
僕が言い終わると少しの間誰も何も言わなかった。
僕の心臓だけが馬鹿らしく大きな音を立てている。
男はしばらく吟味するように目をつむるとやがて

「素晴らしい……」

と拍手をした。
ゆったりとした味わうような音はやがて止んだ。

「それが貴方の率直な意見ですね。
正しくありたい、そう生きる蟹はきっと心が疲れた、苦しいと感じることもあるでしょうね。周りがみんないい人とは限らない。だから、それに逆らっていくのが嫌になるときもある」
 男は苦く笑いこう続ける。

「でも、そんな蟹の姿は美しいでしょうねぇ。自分を持っている……。わたくしにはそう思えますよ」
 そして憧れるように僕のほうを見ると

「ありがとう」

と一言そう言った。
僕はひどく心をかき乱される。
まるで、僕が悩んでいたことを言い当てられたようだ。そして、ありがとう、その一言に涙が零れそうだった。すべてが報われるように感じるのだ。大きく息を吸って心を落ち着かせる。僕はただぼそぼそとどうも、と言って俯くのだった。
 男しばらく感傷に浸るようにくうを見つめやがて

「それじゃあ……」

と隣の彼に視線を向ける。
彼は静かに語り始める。その顔には自分はこう考えるという強い意志が溢れていた。

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真昼ノ星
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