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ゆりかご

ここは、どこかな?
寒くて暗くて、暖かいのは隣にいる妹だけ。
お腹が空いてしまって、もう僕も妹も少しも動けないみたいだ。
このままここでまた眠ったら、どうなるんだろう?
 
そんな事をぼんやりしながら考えていたら、外から声が聞こえてきた。
「こっちこっち!声が聞こえるの、段々弱くなってくの!」
女の子の声?
僕は力の限り叫んだ。どうか、妹だけでも……!
次の瞬間、目の前が急に明るくなった。
眩しくはない、優しい、暖かな光。
久しぶりだ……あれは、いつの事だったろう?何だか懐かしい感じがした。
「ほら、ここに居たよ!小さくてこんなに可愛いのに……二匹も居るよ、お兄ちゃん!」
続いて男の子の声が聞こえてきた。
「随分冷え切って痩せてるな。もう長いことずっとここに捨てられていたのか?」
「ねぇ、お兄ちゃん……パパとママに、家で飼ってあげられないか、お願い出来ないかな……?」
 
兄妹の会話が続く中、僕は思い出していた。
捨てられていた?そうか、僕らは……。
思い出した。産まれて直ぐの明け方、僕らはこの箱に入れられて捨てられたんだ。
段々と光が消えていって、薄暗く、そして最後には真っ暗になって。
そして、今はまた朝日を浴びている。
 
「それにしても酷い事を……俺らと同じ命だと言うのにな。」
「じゃあお兄ちゃん、パパとママを説得するのを手伝ってくれるのね?」
女の子が笑顔でお兄ちゃんと呼ぶ男の子に詰め寄る。
「仕方ないな。放っておける程、俺は薄情じゃないからな。」
肩をすくめながら男の子がそう言う。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「でも、母さんや親父がまだいいって言うと決まった訳じゃないからな?」
「分かってる、そこは甘え上手な私に任せて!」
「全く、お前は本当に可愛くて優しくて、強い妹だよ……。」
笑いながらそう呟く男の子を見て、女の子が何かを思いついた様に提案した。
「そうだ!お兄ちゃん、先に名前を付けてあげようよ。そうしたらもうこの子たちは家の子だよ!」
「まだ母さん達のOKも出ていないのに。でも、そうだな。本気度は伝わるかもしれないな。」
「朝のお散歩で拾った子たちだから、何がいいかなぁ?」
「そうだな……そう言えば、この前に高校で習った英単語にいいのがあったぞ。」
「どんなの?早く聞きたい~!」
「『twilight』って言って、明け方前や夕暮れ時の事を言うんだそうだ。」
「んー。よく分からないけど、響きは素敵ね!じゃあ、二匹居るから『トワ』と『ライト』でどうかな?」
「『イ』がどっか行ったけど、いいんじゃないか?」
 
その後、僕たちはその男の子に箱ごと抱えられてどこかへと連れて行かれた。
話から察するに、恐らくこの兄妹の家なのだろう。
その時、男の子が女の子には聞こえない小さな声でボソッと僕と妹に向かって囁いた。
「本当はな『twilight』には別な意味もあるんだよ。お前たちを家に迎えられるよう、期待を込めて、な……。」
 
その後、その男の子の「期待」は叶えられ、僕と妹は「トワ」と「ライト」として兄妹とその両親の家族になった。
僕たちが入っていた箱、唯一の持ち物だったダンボールは、新しい家族によって作り替えられ、可愛らしい僕たちの家になった。僕たちを寒さから守っていてくれていた、恩人の様な存在だったから残したいと家族が考え、作ってくれたんだ。
 
ここから僕たちの『twilight』…新しい物語が始まっていった。

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