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マシーナリーとも子EX ~鳥頭の巣編~

 錫杖に連れられた謎の酒場……。その店の奥からグッさんと呼ばれるワシ頭の亜人が現れた! ジャストディフェンス澤村は慄きながら対話を試みる!

「わ、ワシの亜人かあ?」
「ワシィ!?」

 亜人の鋭い眼光が澤村を貫く! そのにらみつけに澤村は戦慄し、まるで防御力が下がったかのような感覚を味わう!

「あーあー、グッさんがいちばん嫌がることを言うたなあ澤ちゃんや」
「わ、悪かった……。違うのかあ?」
「俺はグリフォンの亜人だっ! ワシと一緒にするな!」
「グリフォン!?」

 澤村は眉を顰めた。グリフォンは頭がワシ、身体が獅子という構造の合体生物だ。じゃあ服着てたらわかるわけが無ェじゃねえか!

「……それでその……私は速くなりたくて来たんだけど……」
「この店かあ?」

 グリフォンは大きなあくびをする。寝ていたのだろうか。とはいえバーに昼間に来れば当然かもしれないが……。

「まぁ見ての通りいまは開店休業状態でな。知っての通りいまは副業でメシ食わせてもらってんだ」
「いや知らねーんだけど。私はここに来れば速くなれるって……」
「およ? 話してなかったっけ?」

 いつの間にか厚かましくカウンターに座っていた錫杖がとぼけた声を出す。グリフォンは呆れながら水を注いだコップを錫杖に出すと、カウンターの内部に仕掛けられたスイッチを押した。
 すると店の奥の壁……グリフォンがあくびをしながら出て来たところ……が音を立てて天井に吸い込まれ……バーの倍はあろうかと言う面積のガレージが姿を現した。そこには数台の車やバイクが転がっている。

「こりゃ……」
「カスタム屋ってやつだ。錫杖が原付買ったらイジってやるよと言っておいたんだが……」
「グッさんとはガネーシャさんの店で知り合ってのう。すぐに意気投合してイジってもらえることになったんだ!」
「意気投合だとお?」

 グリフォンがワシの眼光で錫杖を睨みつける! だが錫杖はどこ吹く風だ!

「お前がマシンを見てくれなきゃあアーティファクトを売らねえと言ったんじゃねえか! 商品を人質にしやがって!」
「売らないなんて言っとらん! ただ見てくれるなら安くしとくぜ〜〜と言っただけだ」
「2億円を5000円にするのは割引とは言わねえんだよ詐欺だ詐欺ッ! クソっ、まあなんやかんや言いくるめられてこの有り様だ。こいつは店は閉めてるって言ってるのにマシンを買う前からここに通いやがる」
「はぇーっ。この時代の社会でうまく立ち回ってんじゃねえか錫杖。大したもんだぜ」

 澤村は素直に感心した。自分でもこのような交渉はできないかもしれない。
「そういうのマシーナリーとも子から教わってんのか?」
「ママがこんなこと教えてくれるわけなかろ〜? 本で読んだのよ本で」
「どんな本読んでだよお。それで……」

 澤村はグリフォンに視線を向ける。グリフォンはクチバシを大きく開いてあくびをしていた。

「金さえ払えば見てやるぜ。外に置いてあんのか?」
「私のマシンはこれだぜーっ!」

 澤村は腕を掲げ脚を上げて自らの戦車をアピールする。その……四肢に取り付けられた回転体を!

「ああ?」

 グリフォンはカウンターから這い出るようにして近づくとその手……近くで見ると確かにライオンの手だった……で澤村の腕をペタペタと触り、下から見上げたり関節部を覗き込んだりした。

「なんだこりゃあ。見たこともねえ身体だ。動力はどこに入ってる?」
「こんなこともできるぜーっ!」

 澤村は得意げに力を込めると、腕戦車の天面に穴が開き、そこからすばやく砲塔があらわれた。

「おわあ!」

 突如現れた砲塔にグリフォンは慄き、数歩後方に飛び退った。その様子を見て澤村は満足そうに微笑み、さらにグルグルと砲塔を旋回、砲身に仰俯角もつけさせるなどガチャガチャと動かしてみせた。グリフォンは懐から老眼鏡を取り出すとふたたびしげしげとその様子を観察する。
 だがしばらくするとため息をつき、懐からメモとペンを取り出して何やら書き始めた……。観察結果をまとめているようだ。

「こらあ俺の手には余るかもしれねーぞ」
「えぇー!!」
「おいおいおいグッさん! また見る前から諦めないでくれよお。モーターを積んでるなら戦車でも飛行機でもイジれるって言ってたじゃないかよお!」
「だからこうやって見ててもさっぱり仕組みがわかんねえんだよ! 腕についてるんだろ? なのにどうやって動力を確保してる? なんで砲塔が出る? 無限軌道のようだが車輪は3つしかねえ! 全然履帯に噛み合ってないぞ。どうなってるんだ? 本当に走るのか?」
「うるせえなーっ! 見てろよ!」

 澤村は店の中で四つん這いになってみせた。自転車ほどのスピードで決して広くない店内をグルリと回る。錫杖が脚を上げて走りまわる澤村にルートを開いた。

「これで加減してるわけじゃなくて全速でこの程度なんよ」
「確かに速かねーな」
「なにをーっ!!」

 プライドを傷つけられた澤村は飛び跳ねるようにして変形を解除した。

「私の高速移動形態を馬鹿にするのかてめえーっ!」
「いや……速くしてもらいたくて来たんだろ!?」
「そりゃそうだけど私は遅くねぇーっ! もっと早くしてくれってことで来たんだよ!」

 ジタバタする澤村。勝手にカウンターの中に入り込んでピーナッツを漁り始めた錫杖。グリフォンはため息をついた。

「ま、いいや。とりあえず見るだけ見てみよう。金はあるんだな?」
「金には困ってねーぜ!」
「結構」
「あ、外した方が見やすかったりするか?」
「へ?」

 グリフォンは四肢を分離された澤村を見て叫び声を上げた。

***


読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます