マシーナリーとも子ALPHA ~繋がる飛翔物篇~
「どうだネギトロ……さん! 私たちの新しい姿は!」
頭に1基、胸と肩を取り待つ左右2基、腰に1基、そして四肢に2基ずつファンネルが連結し、人型となって吠えた!
「きっ、気持ち悪いーー! おいたか子、いいのかよあれ。ネットリテラシーが低くないか?」
「は? 別にネットリテラシーは関係ない。なんでもネットリテラシーにするな。ただ……まあ気持ち悪いわね……」
ファンネルマンは両腕を高く掲げ、ネギトロに覆いかぶさるようにして威嚇した!
「姿を変えられるのは、歩けるのはお前……あなただけじゃないんです! 私たちファンネルもこうして歩くことができる! それも二足歩行で」
「ふーん」
犬姿のネギトロはどこ吹く風でファンネルマンを見上げる。
「それで、その姿で何ができるんだい?」
「何?」
「人型になって、それで何が変わるんだい? ファンネルくんのさ」
「何がって……」
ふむう、とファンネルは考え込んだ。そこまで考えてなかった。
「ああその、いかにも人類って感じのアゴに手を当てて考えるポーズは、人型になった甲斐があるかもねえ」
「むむ!!」
ファンネルは焦った。せっかくフォームチェンジしたのにもう上から目線を取られている! 実際のアイレベルは私たちの方が高いのに!
「例えば……私たちはいままで宙に浮いてるだけでしたが歩いたり走ったりできる! このように!」
ファンネルマンがネギトロの周りを円を描くように走る!
「ふーん。それでそのメリットは?」
「メリット?」
「なんで歩いたり走ったりできると宙に浮くよりいいんだい?」
「なんでって……」
なんでだろう? ファンネルは不思議に思った。しかしネギトロを羨ましく思って人型を選んだのは確かだ。ファンネルは苦し紛れにネギトロを責めた。
「じゃあ、そういうあなたこそなんなんですか。寿司に脚が生えて、歩いて、何の得があるってんですか?」
「僕かい?」
今度はネギトロがよちよちとファンネルマンの周りを歩いて回った。
「愛らしいだろう?」
「何ぃー! なにをそんな! どうですかたか子さん!」
「わからん。感情が無いから」
「とも子さん!」
「まぁ……かわいいと思う」
「じゃあ私はどうですか! このファンネルマンの姿は」
「気持ちワリぃ」
「えぇー! たか子さん!」
「気持ち悪い」
「アーーッ!」
ファンネルマンはショックで背中から倒れる!
「おっ、その倒れるって動作も人型ならではだねえ。ふだんはそんなことできないもんねえ」
「アーーッ!」
ネギトロの煽りにファンネルが悶える!
「ちょっと待って……待ってください!」
青色吐息でファンネルマンは立ち上がった。
「人型であることを活かすこともできるはず……。例えば夜道で横を歩いていれば、遠くから見れば完璧に人に見えるはず……。ボディガードができます」
「いらないわよ」
「なんでシンギュラリティ最強のサイボーグにボディガードがいるんだよ。誰から守るんだ」
「ぐぬーっ。えーっと後は……」
ファンネルは考えこむ。考えろ考えろ。どうにかしてこの姿のメリットを探し出すんだ!
「例えば……」
「例えば?」
「……高いところにあるものを取ることができます」
「いやそれならくっつかないで普通に空飛んでとってきたほうが早いだろ!」
「ぐぬぬーっ」
ぐうの音も出ない。なぜこうなってしまったのか。
ネットリテラシーたか子が見てられないという様子で歩み寄ってくる。
「ねえファンネル、あなた……」
その時である! たか子の頭上からボトンと異物が落ちてきた!
「え?」
「ハチだー!!」
落ちてきたのはスズメバチの巣だ! 落下した衝撃で大量のスズメバチが巣から脱出、意思を持った煙のように一塊となったスズメバチが周囲を飛び回る!
「うおおお!!! ハチ!!!!」
ネットリテラシーたか子が混乱してチェーンソーを振り回す! だがハチが小さすぎ、軽すぎるので有効打にならない!
「たっ、たか子さーん!」
ファンネルマンがたか子を救うためハチに突撃する! だが丸くて滑らかな腕から繰り出されるパンチやラリアットは有効打になりえない!
「うおお! どうしよう!」
ビームも撃てない! なぜならファンネルのビーム発射口は吸盤も兼ねている。いまは人型を維持するため頭の1基を除いてはそれぞれのくっつき維持のため砲口を向けることができないのだ! ファンネルマンは必死で頭部の1基で射撃を行うがとても間に合わない! マシーナリーとも子とネギトロはとっくに逃げて遠くの木の陰から様子を見ている!
「うわあ!」
「このっ……ファンネル! なにをやってるの!!」
見かねたネットリテラシーたか子から激が飛ぶ!
「あなたのいちばんの長所は機動力でしょッ! 周囲の情報に惑わされて持ち味を見失うなッ! それは……ネットリテラシーの低い行為ですッ!」
「はっ!」
「徳を高く持ちなさい……! 私のスレーブユニットならば! 分離ッ」
「はい」
ファンネルマンが放射状にバラバラになる……12基のファンネルたちだ!
ファンネルたちはビームを発射しながら各々が縦横無尽に飛び回り、ハチを薙ぎ払う! 突破口を開いたファンネルはやがてハチたちを取り囲むように円を描き……お互いのビーム発射後から力場を発生、円柱状のエネルギーフィールドを形成する! ハチたちは2秒ほど塊のままガタガタと震えたかと思うと電子レンジに入れたウインナーのように破裂した! チームワークの勝利!
「や……やった!」
「ファンネル」
勝利の余韻にひたるファンネルたちを、たか子がチョイチョイとチェーンソーを振って呼びつける。
「破裂したハチが頬についたわ。取って頂戴」
「あ……はい」
ファンネルは素早くたか子のそばに飛んでいき、ハチのかけらを取り除く。
「やはりあなた達は人型になるよりそのままのほうがずっといいわ。便利だし、かわいらしいしね」
「た、たか子さん……!」
ファンネルたちはポッドに収まり、入り切らない者はたか子の周囲を舞った。たか子は穏やかな表情でファンネル達を見つめると、帰路につくのだった。
***
「……ってぇことがあったんだよ今日」
「フーン、ファンネルたちもいろいろ大変なんだなァ」
ジャストディフェンス澤村は話を適当に流しながらスマホをイジる。
「ネギトロもよぉ~、あんまりファンネルいじめんなよな」
「ごめんごめん。彼らみたいなタイプはからかうと楽しいんだよね」
「う~~ん」
そこにフヨフヨとハンバーグ寿司が飛んできて唸る。ジャストディフェンス澤村のスレーブユニットだ!
「どしたハンバーグ」
「いや、ファンネルさん達の話を聞いてると私もなにかガンバったほうがいいのかなって思っちゃいまして。ネギトロさんも脚が生えたし」
「なんならハンバーグくんも脚を生やすかい?」
「うーん」
「オメーこそそのままでいいんだよハンバーグ! こっち来い」
「はい」
ハンバーグがふよふよと澤村の眼前に飛んでいく。澤村はスーッと深呼吸をした。
「ハンバーグはいいにおいがするからな!」
「澤村さん……」
「おめぇーらは平和そうでいいなー」
「まぁ、いざとなったらとも子くんに酢飯を作ってもらえばいい話だからね」
「そんな"いざって時"来るかねぇー」
マシーナリーとも子はため息をついて立ち上がった。そろそろ食事の時間だ。酢を用意しなければ。
ネギトロは食事の気配を察するとぴょんぴょん跳ね回ってとも子の後をついていき、無いしっぽを振るような仕草を見せた。
「お前どんどんイヌ化してんぞ! 大丈夫かよ~! 魚介類の誇りを取り戻せよ」
「そのうちワンワン鳴くかもね」
***