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マシーナリーとも子EX 〜呉越の探検隊篇〜
「オギャーっ……ギャっ! ギャッ! クッサ!!!」
ポカーンとしているジャストディフェンス澤村をよそに、ワニツバメは高速で回転して身体中に付着したトリケラトプスのよだれを吹き飛ばした! 仕上げに左腕のワニの口から大量の水を噴き出してシャワーにし、再び回転、ようやくツバメは落ち着いた。
「はあ、はあ、ひどい目にあった……」
ツバメは肩で息をしながら周囲に目を配り、ようやく澤村の姿に気づく。
「ゲッ! お前はジャストディフェンス澤村!? 何でこんなとこにいるんでス!?」
「反応おっせ! それはこっちのセリフだっつーの! だいたいお前なんでトリケラの……」
「ゲギョーーーーーーーッッッッ!!!」
ふたりが言い争いをしているところにトリケラトプスが突撃!
「ウワーーーっ!!!」
「ぎゃわーーーーーッ!!!」
その圧倒的体重から繰り出される衝撃に澤村とツバメはなすすべもなく吹き飛び、それぞれヤシの実にしこたま頭をぶつけた! だがこれくらいのダメージで済んだのはあくまで彼女らがサイボーグであったからだ。もし、この話を読んでいるあなたが同じ目にあったとしたら痛いと思う間も無く身体は粉々、秋の銀杏の木の下の身の如く醜い姿と悪臭を晒すことになっていただろうことをここに記しておく。
「ちくしょ! やってらんねーー! まずはあいつ殺すッ!!!」
澤村の腕の戦車を水平に突き出すと天面から砲塔がガシャンと現れ、砲撃を開始する! 装填されているのは爆発力に優れる榴弾砲だ!
ドゴン!
轟音を立てて発射された砲弾がトリケラトプスの足元で爆ぜる!
「ゲギョーーーーッ!?」
爆発力でトリケラトプスの前脚が浮き上がる! 澤村はその瞬間を逃さず、僅かにのぞいたトリケラ腹部にビームとグレネードランチャー、ミサイルを殺到させた!
「オラーーーーっ!!!」
「ゲギョ、ゲギョーーーーッ!!!」
身体の下方から連続した衝撃を受けたトリケラトプスは徐々に徐々に身体を仰け反らせ……やがて耐えられずに仰向けにひっくり返った!
「ゲギョーーーッ!!」
「よっしゃー! これで身動き取れねえだろ」
「ほう…やりまスね、サイボーグ」
澤村ははしゃぎ、ツバメは敵ながらその戦い方に感心していた。数秒間、彼女らは精神を弛緩させていたのだ。だから気づかなかった。背後から襲いくる新手に……。
「ピィーーーっ!!!!!!」
「うわ!? 何だああ!?」
甲高い鳴き声をあげて澤村の背後に迫る影! その大きさは澤村の腰くらいまでであろうか? 小さい! そして細長い! 頭から尻尾までの長さは2メートル強ある! 小さなその影は3つで澤村に襲いかかる……。小型恐竜のディオニクスだ!
「ピィーーーっ!!!」
「うギャーッ!」
澤村は咄嗟に頭部を腕でガードする! ディオニクスの爪や牙から身を守るためだ! だがディオニクスはその身体を素早く澤村の後ろに回り込ませ、素早い技で背負っていたリュックを奪いとった!
「おおっ、お見事!」
その恐竜ながら器用で素早い動きにまたもやツバメは感心してしまった。ディオニクスたちはリュックを咥えたまま、洞窟へと走り去っていった……。
「ンギャーっ!」
澤村はというと、リュックをひったくられた勢いでコロンと転がり込んでしまった。その際に足元の石に頭をしこたまぶつけ、ゴロゴロと悶絶している。
「ンギャーッ! ンギャーッ! 何だあいつら!」
「さ、澤村さーん! 大丈夫ですか!」
ハンバーグが冷や汗をかきながら(この表記は正しくない。寿司は汗をかかない。実際のところハンバーグは結露を起こしているだけだった)澤村に駆け寄る。ツバメもため息をつきながらとりあえず澤村の元に向かうのだった。
「あいつら、あんたの荷物を奪って行きまシたよ……」
「チッ、畜生〜〜! あんなかにゃショゴスが入ってるんだッ! あれがないと帰れないよ〜〜」
「ショゴスぅ?」
(灰色の不定形生物だ……。あらゆる動物に変身し、地を疾走ることも空を翔ぶことも、海を進むこともできる器用なヤツよ)
ツバメの左腕のワニ……セベクが補足を入れる。
「詳しいですねセベク!」
(奴らは私たちの不倶戴天の敵、旧支配者の手のものだからな)
「ナルホド」
かつて地球は宇宙から来訪した旧支配者と、動物の頭を持つ獣人、エジプト神たちによって覇権を争われていた。セベクはそのエジプト神の生き残りなのである。
「取り返さねーと……オイワニ! お前結局何でここにいるんだよぉー」
「私たちは仕事で来たんでス。この島に太古の恐竜の生き残りがいると聞いて……N.A.I.L.の戦力増大のため、エンハンス素材としての恐竜を求めに来たのでス……。最強の恐竜、ティラノサウルスを捕らえるためにね」
「え! それって……」
「チームは私のほか、N.A.I.L.の工作員五人で編成されていまシた。そのうちふたりは私と同じくどうぶつの力をエンハンスされた強力な戦士でシた。ですが……洞窟に入る前に、門番のように構えていたトリケラトプスにやられてしまったのでス。私以外の全員が体当たりで弾けとび、私は食べられてしまいました……。ま、ヤツが草食だったおかげで何とか咀嚼も消化も免れて何とか脱出できまシたがね」
「なんだよ! 恐竜ハンターってお前らのことかよー!」
「あ? なんのことでスか?」
「私、この島に来たハンターを殺しに来たんだよ。でもトリケラがやってくれたみたいだな」
「ゲギョーっ!!!」
澤村はちらりとトリケラトプスに目を向ける。トリケラは依然、仰向けのまま四肢をバタバタとさせていた。
「なるほど……。もう少しタイミングが悪かったら私たちは殺し合いをしていたわけでスねえ」
「あ? なんだその言い方。私は別に今からお前とタイマンしたっていいんだぜーっ!」
「ま、そうカッカしなさんな澤村サンよ。同じ“票田”同士じゃあないでスか」
「ム……」
そう言われると弱いな。澤村はファイティングポーズを取っていた腕を下ろした。
「どうでス? 取引しまセんか? 私もこの洞窟の奥にいるティラノに用がある。あんたも奪われたリュックを取り返さなきゃあ帰れないし旧支配者にの連中にも顔が立たないでシょう。互いに目的を達成するために一時的に手を組みまセんか?」
「何ーっ! じゃあお前がティラノを捕まえるのを見逃せってのかよぉー! 私はハンターを殺すのが仕事なんだぜ!」
「でも恐竜の保護が目的ではないのでシょう? 現にトリケラを迷いなくやっつけてたではありまセんか」
「グムっ……」
「私たちの目的はぶつかり合わないはずでス。無論、私が無事帰るのには目をつぶっていただきたいでスが……。逆に言えばそれくらいでスよね? 私がここで死ぬことはマシーナリーとも子や鎖鎌もよく思わないのでは?」
「グムムーッ」
澤村は唸る。確かにそうだ。多分ここで勝手にワニツバメを殺したら、仕事をサボった時よりも怒られる。なんか時空がどうたらとかで勝手に死なれたらマズいし、選挙もあるのだ。
「もうひとつ……アンタに耳よりな提案がありまス」
「なんだよーっ!」
「洞窟探検隊の隊長はアンタに譲りまスよ。この島を出るまでは私はアンタの部下です」
***
澤村とツバメはキャンプ跡で火を起こし、軽食とお茶で小休止を取った。先んじて洞窟内を軽く偵察に行っていたハンバーグ寿司が戻ってくる。洞窟はところどころの天井に大穴が空いており、日が差してくるらしい。暗いところもあるが、大部分はたいまつ無しでも踏破できそう、逆に言えば陽が傾く前に探索をした方が良さそうとのことだった。ツバメは時計を見る。現在時刻は朝の10時。
「お誂え向きな時間じゃないでスか? 出発しましょうや、“隊長”」
「おうっ! ……よーし! シンギュラリティ洞窟探検隊、出発だぜー!」
澤村は隊長の証だとしてN.A.I.L.の工作員の慰留品であるピスヘルメットを被ると、意気揚々と洞窟へと向かっていった。
「ふふん、チョロいもんでスねえ」
「あ? いまなんか言ったか〜?」
「いえいえ何も! さあ我々の目的を達成しに行きまシょう、隊長!」
「オッシャー!」
***
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