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マシーナリーとも子EX ~事故物件との戦い編~

 ガチャリと重みのあるドアを開けるとまっすぐ伸びる廊下と階段、右手には書斎にぴったりな部屋がひとつある。 家族向けの物件だからか備え付けの下駄箱もそれなりの大きさがある。まあ、サイボーグは靴を脱ぐことはないのだが。ベルヌーイザワみはある種の感慨深さを持って首をグルリと回した。ここが、私らの新しい家か。

 先日ザワみとジャフトディフェンス澤村はこの物件……ネットリテラシーたか子が言うにはおそらく事故物件……の内見にやってきた。当然というかそんなもんというか、内見の際にはこれといった心霊現象も起こらず、押入れの天井にお札が……とか排水溝に不自然な量の髪の毛が……といったいったこともなかった。スタッフもボロを出さないためか具体的なことは知らされてないらしく、諸事情で借り手がつかず、安い物件だとしか答えなかった。 物件は丁寧に手入れされていて壁に汚れや傷はなく、フローリングも張り替えられていて日当たりは良好、周囲は最寄りのコンビニまで2分、5分歩けばスーパーやドラッグストアもあり、気の利いた飲食店もあって住み心地はよさそうだった。まいばすけっともあった。 なのでふたりは即刻契約を決め、本日、引っ越してきたわけだが……。

「んじゃ早速荷解きしようぜぇーっザワみーっ!」
「ちょーっと待て澤村ーっ! お前その段ボールに何が入ってるか把握してんのかあ?」
「ばかにすんなよなーっ! この中に入ってんのはマンガとかゲーム機だぜ! あとパソコンも入ってる……」
「馬鹿ーっ! そういうことじゃあねえよ! こういう時はまず掃除だろうが!」
「ええっ!? 掃除の必要なんかねーだろ! 業者がキレイにしてるんだし第一誰も住んでないんなら埃とかも出るはずないじゃねーか!」
「そういう考えがよくねえんだよーっ! 何もないってことは一番掃除しやすいってことじゃねーか! まずは掃除機とクイックルワイパーを出すんだよっ! ほら!」
「ウッゲェーッ! めんどくせーぜ……」
「Y5UK75T79w」

 ザワみと澤村の動きが止まる。

「……聞こえたか?」
「なんか……変な音聞こえたよなぁーっ」
「どこから聞こえたかわかるか?」
「多分あの……押し入れじゃねえか?」

 リビングの隣には一段床が上がった畳張りの和室があり、そこには押し入れがあった。来客用の布団などを入れておくスペースとして用意されていると思われる。

「でもよ……内見のとき見たときはお札とか貼ってなかったぜぇー」
「お札なんて非科学的なモン聞くかよ! ネットリテラシーたか子の言うところの“まとも霊能力者”が来たんだろ……。どっちにしろ開けたら捕捉して殺す! それだけだぜ。徳なら幽霊なんてあっという間に蒸発だ」

 ザワみはドスドスと和室に歩いて行くと躊躇うことなく押し入れを開ける! 中には……何もない。二段になった棚があるだけだ。

「いない……。捕捉できないぞ? 何も感じねー。痕跡すら……」
「気のせいだったのかな? ネズミがいたとか……」
「whBWnRMVch」

 ふたりは固まる。今度はリビングにいる澤村のすぐ後ろから声が聞こえる!

「なんだぁ!? オイ!!」

 澤村は指のビーム砲を構えながら振り向く! そこに幽霊の姿はスキャンできない! あるのは……先ほど開けようとした引っ越し用の段ボールだけ! いや、何かがおかしい……。段ボールの上から細く、線香のような煙が上がっている!

「なんだあああ!?」
「おいっ! なんか臭えぞ! 焦げ臭いだけじゃねえ、変な匂いだっ!」
「とりあえず水ーっ!!」

 澤村はキッチンに走り、水道を捻る! だが水が出ない!

「なんで!?」
「バカ! まだ水道局に連絡してねーから水は出ねーよっ!」
「あああーーっ! 段ボールが燃えてるぞっ! なんかで! なんとかしなきゃーっ!」
「待ってろ! 今外で飲みもん買ってくるから!」

 ザワみがダッシュで外に出る! 澤村はその間落ち着いて段ボールを観察しようとした。なぜ目を離した隙に段ボールは燃えた? あの声みたいなものはなんだ? よく見ると火元には何か物体が見える。あれはなんだ?

「ハァーッ、よく見ると変だな……あの炎」

 気づけば傍らにはミネラルウォーターを持ったザワみが立っていた。
「ザワみ! 速ぇな」
「お前の自称高速移動モードと一緒にすんな。こっちにはイルカどもに備え付けられたホバークラフトがあるんだよ……。見ろ」

 ザワみはだんだん大きくなってきている炎を指さす。

「炎の色が青い。まるでガスみてーだ」
「確かに変だな。普通燃えるってんなら赤く燃えそうなモンだけど……。そんなことより他に燃え移る前に水かけてくれよ!」
「ああ」

 ザワみはバシャりと段ボールに水をかける。そこには黒く焦げた粉のようなものが残っていた。

「なんだこりゃあ?」「私に聞くなよなーっ。わかるわけねえだろ」
(フムこれは……硫黄のようですねえ)

 いつの間にか澤村とザワみの間に挟まるように入り込んでいたトルーが答える。

「…………」「…………」(…………)

「「ドワーーーーーっ!!?!?!?!?!?」」
(グギャーッ!!!! 耳元で大声を出さないでください! うっるさい!!!! 殺しますよ!?!?!?!?!)
「お、お、お前いつの間に入ってきたーッ!?」
「大声出されたくねえんだったらちゃんと挨拶してから入りやがれーっ! 脅かしやがって!!!!」
(むぅ……私はドアチャイムというものが嫌いでしてねえ。ところでどうですか具合は? ああ良いです、今あなた達のここ30分ほどの記憶を読まさせていただきましたので。何か妙ですねえ)
「だっ、大体てめぇー何しに来やがったんだよ!? ああ!?」

 ザワみがシャキンと指からアイアンネイルを展開する! 

(まあまあそう剣呑になさらず。今日はあなた方のお手伝いに来たのですよ)
「手伝いだあ?」
(ネットリテラシーたか子から頼まれましてね。実は私、こう見えて軽ーくですが除霊もできないことはなくて)
「超能力だけじゃねえのかお前ーっ。まあ似たようなもんっちゃ似たようなもんかもしれねえけどよ」
(前に霊能力者と戦ったこともありますんで。その経験と見よう見まねと元元の能力の応用で、まあ軽くね)
「怪しいもんだなぁーっ。まあいいか。そもそもお前の能力なら色々なんとかなりそうではあるもんなーっ。それで? なんかこの辺にいるのかよ?」

 澤村はある程度の得心を示してトルーの肩をポンと叩く。トルーは(フム……)と呟き……正しくは呟きのような思念波を飛ばし……ピカピカのリビングをぐるりと見渡す。

(確かに……いますね。何かが)
「やっぱいるのか! で、なんなんだ? 幽霊か? それとも別の生きもんか?」
(うーーーーーん………)

 額に袖を当てて集中するトルーを、澤村とザワみはハラハラしながら見守る。やがてトルーは困惑しながら答えた。

(これは……どちらでもない……?)
「「はあっ?」」
「fVBiWLYHeEQ!!!!!!」

 みたび、謎の声が響いたかと思うとドカン! と家が大きく揺れた。

「今度はなんだあッ!?」
「ウワーッ!? お、おいザワみーっ!」

 澤村の叫び声にザワみが振り返る。そこには狼狽えた澤村が宙に浮かんでいた。

「お前……なにやってんだ? ていうか飛行能力なんかあったっけ?」
「違ぇよぉーっ! なんか急に……なんだこれ!? 上と下の感覚がねえよーっ!!」
「なぁに言ってんだあ? おいトルー、お前がなんかしたのか?」
(するワケないじゃないですか……)
「気持ち悪いよーっ! なんか宇宙みてえだよぉーっ!!」
(宇宙……!?)

 ハッとしたトルーがこめかみに指を当てて集中する!

(そうか……! そうだったのか! わかりました!)
「なんだ!?」
(これは……幽霊でも他の生き物でもないと勘違いしましたが違った……! その逆だったんです! 両方だったんですよ!)
「だから何!?」
(この家に憑いているのは……宇宙人の幽霊です!)

***


読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます