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マシーナリーとも子EX ~大仏に消えたロボ編~

 シンギュラリティ池袋支部の第三会議室。その壁面に据えられた大判のディスプレイ。13時を50秒ほど過ぎたかと思うとその画面がブンと波打ち、編笠を被ったサイボーグが映し出された。

「どうも、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。14連斬笹平です」

 笹平はペコリと頭を下げながら手に取付けられたリボルバーピストルのトリガーを引き、ハンマーが落ちた。カチンと音が鳴り、弾が込められていないシリンダーが回る。彼女はリボルバーの回転で擬似徳を得るサイボーグなのだ。

「笹平さん!」
「お久しぶりです!」

 画面の手前に座った2対のサイボーグ、ダークフォース前澤とパワーボンバー土屋が溌剌と挨拶をする。

「おお前澤! 土屋! 久しぶりですね〜。元気にやってますか?」
「はは、私はつい最近まで壊れてましたよ」
「おっとそうでした」

 笹平は、かつてロールアウトしたばかりの前澤、土屋両名の教官役を務めた。奈良という平和で徳の高い地で、両者は笹平からシンギュラリティとは、サイボーグとは何かを叩き込まれたのだ。

「笹平、今回は災難だったなあ」

 エアバースト吉村が頬杖をつきながら画面にニカッと笑いかける。

「やあ吉村さん、フィンランド以来ですね。なんとか命拾いしましたよ。でも災難というなら池袋支部の方が大変だったでしょう」
「まぁ〜なんとかな」
「じゃ、ひと通りあいさつは済んだかな。……私たちは直接話すのは初めてだね笹平。ゆずきだよ」

 最後に、吉村の向かいに座ったドゥームズデイクロックゆずき……現在の池袋支部のリーダー……が名乗った。

「これはこれは! 本当に今回はご面倒をおかけしまして……」
「ま、ま、これが私の仕事だからねえ。じゃあまずは改めて今回の顛末について改めて共有してもらえるかな。笹平」
「はい。2日前の明け方でした。奈良支部の管理する東大寺・大仏殿に正体不明のサイボーグが侵入。私、14連斬笹平が単機で応戦。しかし阻止すること叶わずアンノウンは大仏の腹部に消えていきました」
「腹部に消えた?」

 ダークフォース前澤が疑問を差し込む。隣の土屋も要領を得ない表情だ。

「ああそうか、前澤と土屋には伝える機会が無かったね……。奈良の大仏はね、タイムマシンなんだ。池袋支部にあるものと同じようにね」
「タイムマシン!?」
「うん……奈良は歴史の長いパワースポットだからねえ。時空移動が可能なくらい徳が練られてるんだな」

 ゆずきが巨大な人差し指をくるくると回しながら続ける。

「そういう、パワースポットに作られたシンギュラリティのタイムマシン施設は全世界に7つある。そのうち二つがこの日本にあるわけだよ」
「はえ〜〜……。じゃ、うちの施設ってめちゃめちゃ重要じゃあないですか」
「そうだよ。ここを手に入れるのだってなかなか苦労したんだ」
「で、そのあと大仏の使用履歴を調べたんです。アンノウンが飛んだ先は2020年でした」
「いま、まさに我々の時代とリンクしているたか子たちの時空の波に乗ったわけだ。先日鎖鎌やワニツバメがそうしたようにね」
「わざわざその時代に飛ぶからにはなにか企みがあるんでしょうが……そいつの狙いはなんでしょう?」

 前澤が腕を組む。

「うむ、その調査が笹平から私に依頼されてたってわけさ。笹平、みんなにわかるようにアンノウンの特徴を教えてくれ」
「はい。現場は暗くて正確にはわからなかったんですが……やつは背中に4つのスクリューを持ったユニットを背負っていました。おさらく回転体はこのスクリューでしょう。他にも背中には一対の平たい火器を装備し、目を覆うバイザーをつけていました。そして手は大きく、5本指。指からは大振りの爪が生えていました。交戦はしましたが私から撃っただけであちらはすぐに大仏内に入ってしまったため攻撃方法はわかりません」
「変なサイボーグですねえ」

 土屋が不思議がる。

「なんか……いま聞いた話から想像する姿がちょっとチグハグっていうか。あんまりかわいくないですよね」
「私も変だと思った……。爪を生やしてるってことは多少なりとも格闘戦を想定してるってわけでしょう。でもバイザーは主に射撃管制に身につけるサイボーグが多いはずです……。その、背中の火器というのは大きかったんですか?」

 前澤も土屋に同意しながら持論を展開する。

「うん。確かにヘンなやつだった。土屋の言う通りどうも……装備というよりはコーディネートというのかな。それが出鱈目に思えてね。背中に装備されていた火器だが、メインアームには見えなかったな。長さは私のリボルバーより少し短いくらいだったと思う。そうだな、カードケースのような見た目だったよ。前澤も言っていたがバイザーとの取り合わせが妙だ」
「服は? どんなの着てた?」

 今度は吉村が質問する。

「うん。丈が短くて……エリがたったシャツだったと思う。ちょうど土屋みたいな服でしたねえ」
「うんうん、みんなキチンと意見を言い合って模範的な会議だね」

 ゆずきが大きな手のひら同士をガツンガツンと叩き合わせて意見交換を打ち切った。

「で、そうした情報を合わせてシンギュラリティのデータベースを調査してみたんだけど……そうしたサイボーグは現在も、過去も存在してないんだ」
「存在してない……? それは、情報が少なくて検索に引っ掛からなかっただけでなくですか?」
「そもそも背中にスクリューという回転体を持つサイボーグがシンギュラリティには存在しないんだ」
「なんと……」

 一向は沈黙した。

「では……最近のサイボーグの中で姿を消したものを探してみるというのは? 不審な動きをしていたヤツとかがわかるかも……」
「うん。その可能性も考えてみたがここ数ヶ月、ワニツバメに破壊されたもの以外で姿を消したサイボーグというのも存在しなかった。やっこさんはかなり前からはぐれサイボーグをやっているらしいね」

 ゆずきは腕を組んで考え込む。これは厄介な分析になりそうだ。

「可能性としては……それこそワニツバメのように別勢力が作り上げたサイボーグということも考えられるけど……」
「まあ前例がある以上あり得なくはないですが……。考えたくは無いですね。確証を得るのにも手間取りそうだし」
「あ、そうだ! 私思いついたんですけど!」

 土屋がガタンと椅子から立ち上がる。

「そもそもサイボーグじゃ無いってことは無いですか!? ヘンな格好してるのもサイボーグを装った変装なんですよ! きっとどっかの宇宙人かなんかだ」

 土屋は自分の説に自信があるらしく、腕をブンブンと振り回しながら熱弁する。前澤と吉村もなるほどと感心している様子だ。だが……。

「それも……あり得なくはない。だが、そうするとなぜ大仏がタイムマシンなことを知っていたか。そしてなぜ大仏をアクティベートできたかが説明できなくなる」
「あ……それは……」
「だけどそうだね……。その、変装というのは思いつかなかったな。意外といいセンかもしれないぞ。正体を掴まれないために変装したはぐれサイボーグの可能性もある……。笹平くんさ、もっと変わった特徴とかはなかったかい?」
「なにせ10数秒程度しかやり取りしてなかったもんで……。……あ! そういえば」

 笹平はふと違和感を思い出す。

「コイントスを……していました。何の意味があるのかはわからないんですけど」
「コイントス? 表が出たから笹平さんに攻撃しなかったとかかな?」
「呑気な侵入者だなあ。それとも余裕ですかね」
「コイントス……なるほど?」

 ゆずきは右手の指を展開させると無数のサブアームを伸ばした。さらに左手の甲表面がパカリと開き、中からキーボードが顔を出す。彼女が簡単な仕事をする際に使うガントレットコンピューターだ。無数のサブアームを高速で動かし、凄まじい速度のタイピングを行う。2秒ほどでその動きは止まった。

「……いた!」
「え!?」
「コイントスでわかったんスか!」
「いやはや、盲点だったよ。そいつはコイントスで徳を得るサイボーグなんだ。本徳だね。よく見るとコインにマントラが刻まれていたはずだ」
「ええ! じゃああのコイントスは何かを決めかねてたわけじゃなくて単に徳を得るために!?」
「そういうことだね……。五年前に行方知れずになっている。装備は予想通り異なってるけど服装は一致してるね。しかしスクリューはこのころから背負ってるんだな。ややこしいやつだ」
「で……そいつはなんなんです!?」

 ゆずきはサブアームを伸ばすとディスプレイの入力端子に差し込んだ。笹平に変わってガントレットコンピューターからの映像が出力される……。果たして、そこには大型のスクリューユニットを背負い、丈の短いシャツを羽織った、コインを持つサイボーグが映し出された。

「……ベルヌーイザワ美。おそらく、こいつがくだんのはぐれサイボーグだ」
「ベルヌーイザワ美……」
「一体何が目的なんだ……」
「んん? ん〜??」

 一同が未知のサイボーグに唸る中、吉村は一機首を捻っていた。

「なんかコイツ……雰囲気が澤村に似てるな……?」


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マシーナリーとも子
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