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マシーナリーとも子ALPHA 〜限られた殺人篇〜
「……はぁ〜〜……」
ジャストディフェンス澤村はため息をつきながら腕の履帯を取り外した。そして人差し指にくるくると巻き付けたかと思うと、また机の上に垂らして転輪に巻きつける。彼女はもう30分以上をそうしてボンヤリと過ごしていた。
その姿を心配そうに見つめるマシーナリーとも子、ネットリテラシーたか子、アークドライブ田辺。いったい何があったのか!?
「……もうず〜っとあの調子なんですよ午後から」
「欲求不満が溜まりに溜まってる感じね」
「なんとかならねーのかよたか子ォ」
「無理に決まってるでしょ……アイツがいるんだから」
3人は振り向いて応接テーブルに座っているサイボーグを見た。ヒドラの首を思わせて長く垂れ広がったオレンジイエローの髪、アニメロボットの鋭い目つきを連想させる吊り上がった輪郭のメガネ、そして何よりも肩から凶悪に伸び、頭上で回転しているパラボラアンテナ……。
彼女こそオーストラリア支部より派遣された本徳サイボーグ……それも“本会議”に出席できるほどの政治力を誇る実力者、サンダガイラカエラであった。
カエラは池袋支部に備蓄されていた最後の味好みをザラザラと食べ終わると自らに集まる視線に気づいた。
「なあに? 今夜こそ歓迎会をしてくれるの?」
「……初日に伝えたとおり我が支部は歓迎会だの送迎会だのは開かない主義です。無駄なので」
「アラ残念」
カエラを睨みつけるたか子、それをカラカラと笑ってやり過ごすカエラ! ため息をつく澤村! 一体何が起こったのか? はじまりは1週間前のことだった……。
***
「人類保護法ォ?」
「そう。先週のはじめに可決されたのよ」
オーストラリアから派遣されてきたサンダガイラカエラは池袋支部の面々に告げた。
「そして調査の結果、ここ池袋支部が保護法にとってもっとも危険で、管理が必要な地域と判定されたわけ」
「待った待った。その人類保護法ってのぁなんだよ。そもそも人類滅ぼすのが私たちの仕事だろーが」
「そーだそーだ」
「勘違いしてもらっちゃ困るわ。滅ぼすというより支配して管理するのが私たちの仕事。現に労働力として生かしてる人類もいるでしょうが」
カエラは口を挟んできたとも子と澤村を睨みつける。その肩の上では回転していたパラボラアンテナが威圧的にふたりの方を向いた。そのパラボラアンテナにはマントラが刻まれている。回転して徳を集めたパラボラアンテナは徳を利用しメーサービームを発射することができる。その破壊力は275tにも及ぶという。カエラは話を続ける。
「……で、簡単に言うと池袋支部は殺しすぎている。このペースで殺人を続けていると5年とかからずに池袋の人類は存続が困難になると監査局は判断したわけ」
カエラは勿体ぶって人差し指を宙でクルクルと回し、自分を指差した。
「そんで池袋支部の殺人をコントロールするために、特別に私が監視役として派遣されたってわけ」
「監視役ゥ?」
面白くないのはネットリテラシーたか子だ。支部長として能力不足と言われたにも等しい。たか子は威嚇するようにチェーンソーの速度を倍に上げるとカエラを睨みつけた。
「なにを監視するというのかしら?」
「結論から言うとこれから池袋支部の殺人は1日につき30人に制限されます」
「30人!?」
ジャストディフェンス 澤村が悲鳴を上げた。30人なんて人通りが多いところで暴れれば5秒とかからず殺せる人数だ! それが、1日の上限だって!?
「少なすぎる!」
「おめェーらが殺しすぎるからだろうがッ!!」
「んぎゃーっ!」
キレたカエラはメーサービームを発射! 澤村の足元が高熱で焼かれ穴がうがたれる! 澤村はビックリしてひっくり返ったがすかさずマシーナリーとも子がキャッチして衝突を抑える! とも子はカエラを睨みつけたがカエラはパタパタと煙を手ではたき、話を続ける。
「私はこの徳パラボラアンテナで池袋エリア全域の人類の数を正確に把握することができる。もし1日に31人以上を殺してしまうようなら、減俸、謹慎、降格、左遷と行った制裁が加わります……。おわかり?」
***
「よっしゃー! やるぜー!」
ジャストディフェンス澤村が手から10本のビームを斉射!
「ウギヮーッ!」
「アァーア!!!」
「くうぅ〜! こたえらんねえなあ!」
澤村は殺人の快感に身震いしながら背中のグレネードランチャーを前に向ける。が、その時マシーナリーとも子がつかみかかった!
「ストーップ! 澤村待った待った!」
「ンガーッ! なんだよマシーナリーとも子! 止めんなよ!」
「規制! 忘れたのかよ! 30人以上殺しちゃダメなんだぞ!」
「んあ〜っ!」
「吉村っ! 死体の数調べろ」
「アイヨ〜」
とも子がジタバタと暴れる澤村を抑え付け、エアバースト吉村が観測用インクガードリッジを飛ばし全身のセンサーとレーダーを起動させる。
「いま17人だなあ。うまい具合に貫通してんなあ」
「澤村、あと13人だ。大事に殺せよ」
「13人ンンン!?」
澤村は目を見開いて叫んだ。少なすぎる!
「マ、マシーナリーとも子、なんとかなんねぇのかよぉ〜」
「どうにもならん。少なくとも今はな……」
「私どうにかなっちまうヨォ〜〜……」
澤村はエグエグと泣き出した。泣きながら履帯の連結を解いて伸ばすとムチのようにしならせ、人類を一人ひとり叩いていった。
「澤村のやつ大変そうだなあ……。人類殺すのは澤村のいちばん好きな趣味だもんなあ」
「どうにかしねえとなあ……」
***
カエラが昼食を食べに出た隙を見てネットリテラシーたか子はマシーナリーとも子を支部長室に呼び出した。徳の高い池袋支部の長たる自分がこのようなコソコソした動きをしなければならないというのは大変腹立たしいが仕方がない。
「……それで澤村は大丈夫そうなの?」
「大丈夫ってのはどっちの意味でだ? 澤村がか? 殺人人数の方がか?」
「両方よ……。あなたまでピリピリしないでちょうだい。ただでさえカエラの存在がうっとおしいのに」
「……澤村は大丈夫といえば大丈夫だがダメと言えばダメだ。元気がすっかりなくなっちまった。食欲もないみたいだ」
「人類を殺すことが澤村の悦びでしたからね……。私も色々なサイボーグと関わってきたけど、あれだけ人類を楽しく殺せる子ははじめてよ」
「ちょっと……残酷だよな。あれは才能ってヤツだぜ。雀将打ちの名人から雀将取り上げるようなもんだ」
「そうね……。元気もなくなるってもんだわ。殺人の方はどうなの?」
「ここまで一週間、間違いなく30人ぴったりで止めてるよ。アイツは殺しはめちゃめちゃやるし普段はガキみてーなやつだけどそういうとこはしっかりしてんだ」
「そうよね……澤村はそういう子だわ……」
「なあたか子、何度も言うけどどうにかなんねーのか? このままじゃ澤村が気の毒だぜ。本当にあいつどうにかなっちゃうかもしれないぞ」
「このまま我慢し続けて抜け殻のようになるか……あるいは精神的限界を迎えて暴走、そして粛清か……どちらにしても愉快ではないわね」
「勘弁してほしいな」
ふたりはしばし沈黙した。どうしてこんなことになってしまったのか。少し前までは何も気兼ねすることなく楽しく人類を殺戮できていたのに……。
ネットリテラシーたか子は椅子から立ち上がるとファンネルを飛ばし、カーテンを閉めた。
「マシーナリーとも子……部屋の鍵はかかってる?」
「わざわざかけるわけねーだろ」
「じゃあ閉めて来て頂戴。あとついでに1回外を見て、誰か聞き耳を立ててないか見てきて」
マシーナリーとも子はなんじゃそら、と思いながら外を検め、ドアを閉め、鍵を閉めた。
「別になにも……。澤村はしょげてるし吉村はパソコンでビデオ見て遊んでるし田辺は昼寝してるけど誰もこの部屋のことは気にしてねーよ」
「カエラはいつから昼食に出てます?」
「ホワイトボードには30分前に出ていったって書いてあるな。まああと30分は戻らんだろ」
「なるほど……」
たか子は再び着席し、深呼吸した。呼吸に合わせてマフラーが上下した。
「あなたに周囲を検めさせたのは……今から私が、ネットリテラシーの低いことを言うからです……。この、私が!」
「うん」
「ネットリテラシーが低いことってのはどういうことだと思いますか?」
「うーん、ワザップで嘘の裏技を試してしまうとか……」
「そういうことではなく! いいですか、ネットリテラシーが低いというのはつまり……私が今から言おうとしてることは……確証がないことについて、憶測を述べる……ということよ!」
「なるほど……それで? 何が言いてえんだ?」
「いいですか。今のところあなたにだけ、一度しか言わないからよく聞きなさい」
「うん」
マシーナリーとも子はたか子の鼻先に耳を寄せた。
たか子はまた緊張するようにまた目を閉じ、深呼吸し、ゆっくりと目を開いてから言った。
「カエラのやつ……適当こいてんじゃないの!?」
怒りを露わにしたネットリテラシーたか子を見て、マシーナリーとも子は久しぶりに笑った。
「それな!!!!!」
***
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