
マシーナリーとも子EX 〜再訪の池袋篇〜
池袋東口に4体のサイボーグが現れる。ルチャドーラますみ、ネットリテラシーたか子、カシナートさなえ、そして……マシーナリーとも子。この4体は1週間ほど前、やはり池袋を訪れ人類を蹂躙した。その際、人類の認識を操作したのでいまこのように駅前に佇まんでいても彼女らを恐れるものはいない。が、毎回そのように人類の認識を書き換えるのは多大な負担がかかるため、今回は隠密行動を基本とすることになっている。
「……にしてもお前らなんとかならないかねぇ〜」
「……あによ」
マシーナリーとも子がチラリと隣のたか子に目線を送る。その隣のカシナートさなえにもだ。この二人は前腕がそれぞれチェーンソー、フードプロセッサーといった武器を兼ねた回転体となっており、人類から見れば異様な風貌をしている。電車内に引き続き、周囲の人類から熱い注目を集めていた。
「ホホホ……まあ人類の目線など気にしなくていいのです。彼らもそのうち慣れますから」
両者をたしなめるかのようにさなえがポンと肩を叩く。
「それよりも早く仕事に移りましょう。今回の任務は池袋のとくに徳の高い場所……パワースポットを発見することです。そこに我々の拠点を築きます」
語りながらさなえは名刺ほどの大きさのデバイスをメンバーに配っていく。デバイスの表面にはメーターが3つほど、そしてボタンとツマミがふたつずつついていた。マシーナリーとも子は不思議そうに名刺デバイスを裏返したり、覗き込んだりする。
「なにこれ?」
「ヴァーチャサーチャーです。高い徳に反応します。いま、メーターは振り切れていますね?」
「そうみたいだな」
「一番下のツマミを左回しにいっぱいにしてください」
「あ……メーターの数値がだいぶ下がった」
「生命から発生する徳と場所から発生する徳は周波数が違うのです。それで我々から生じる徳をカットし、池袋から発生する徳だけキャッチできる状態になりました。我々はこれを持って四方に分かれます。そして各々で徳の高い地帯を探してください。パワースポットに近づけば場所徳だけでメーターが振り切れるはずです」
「ふむ……パワースポットを発見した場合の連絡はどう取り合いますか? メール?」
「たか子のファンネルを使えば手っ取り早いんじゃないかしら? 6基あるでしょう。一基ずつ私たちの元に飛んでいてくれればいいわ」
「それがいいわね」
さなえの提案に頷き、たか子はファンネルを射出する。だがとも子は不思議そうな顔でデバイスを裏返し続けていた。
「……マシーナリーとも子、まだなにか?」
「いや……こんなもんいる?」
「はい? 使わなきゃあ不便でしょうが。あなたはこれまでキチンとしたシンギュラリティ活動を行ってこなかったからわからないかもしれませんが、組織というのはですね……」
「……? 場所ならもうわかってる」
「え?」
呆気に取られるますみをよそに、とも子はスタスタと駅の中へ戻っていった。
***
「ここだよ、ほら」
一向はとも子に導かれるがままに北口から出て、数分歩いた。そこにはほかの雑居ビルと変わらぬ佇まいのビルが建っていた。築30年ほどといったところだろうか。リフォームはされていて小綺麗だが、そこそこくたびれた様子がそのビルにはあった。表札には「池袋山本ビルディング」と書かれている。
「ここ……が?」
「ますみさん……」
さなえがますみの顔の元にヴァーチャサーチャーを持っていく。そのメーターの針は振り切れていた。
「こないだ池袋についた時からこの辺だな〜ってのはわかってたよ。でもなんか、お前らと人類が戦ってたのが見えたからさ。なんか楽しそうだなと思って混じってたら来るタイミングを見失っちまって……」
「待ってくださいマシーナリーとも子……。。あなたなぜ、ここがパワースポットだとわかったのです?」
ルチャドーラますみはギロリとマシーナリーとも子を睨んだ。彼女は外からはわからないが奥歯を強く噛み締めている。やはりこいつらは……アバタールは我々と出来が違うというのか?
「……? 感じるだろ?」
「ッッッ……!!」
マシーナリーとも子は何事でもないかのように返した。ルチャドーラますみが密かな屈辱に燃え、カシナートさなえが素直な驚きを覚えている中、ネットリテラシーたか子は呆然としていた。
(……わかる……?)
たか子は池袋山本ビルディングを見上げる。
(マシーナリーとも子の言う通り……このビルに近づくにつれ、不思議な感覚が私の身体を走った……。まるで匂いを嗅いだり、音を聞くことのように……)
最初はそのビルの中心から感じていたその感覚を、今やたか子はあらゆるものから感じていた。「目が開いた」のだ。足元からアスファルトを突き抜けて生えている雑草、向かいの居酒屋、空を飛び去るフクロウ、自動販売機の下にある排水溝へ身体を滑らせたアリ……すべてのものから当たり前のように感じられる「何か」。そしていまその感覚を、さなえ、ますみ、とも子からも感じる。飛び抜けてとも子が強い。
(これが……徳?)
***
いいなと思ったら応援しよう!
