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マシーナリーとも子EX ~柔道雀将の恐怖篇~
「ウギャアあぁーーーーーっ!!」
「よ、吉村さーん!」
エアバースト吉村の身体が3度宙を舞う! 背中から地面に叩きつけられ吉村は一瞬息ができない!
「立ちなよ吉村さん……。まだ4回戦残ってるぜ。もっとも次の1戦でゲームセットだろうがなあ」
ダイキが不敵に笑う! 恐ろしい戦法だ……。雀将ボクシングのルールの裏をかいた殺人戦術! この3ゲームのあいだ、吉村は全く同じ戦法で敗れたのだった。いや、戦術とは言えないレベルの稚拙な戦い方だ! ダイキはとにかくゴミ手でも速攻でアガる。通常考えればアガる必要性がまったく感じられない低スコアでだ! あんなアガり方をしていれば通常ならば簡単に逆転されて勝てない。だがダイキは早アガリした後のボクシングフェーズで相手を徹底的に痛めつけることで勝利を得るというスタイルなのだ! ボクシングでやられた相手が気絶、もしくは死亡して脱落すれば自ずと敗北者はそのひとりに決まる。ダイキにはハナから雀将のゲームで勝とうと言うつもりはない。奴はすベてを破壊するつもりだ!
「ちっくしょ……」
吉村は椅子で身体を支えながらなんとか立ち上がる。3回も投げられてそろそろダメージがバカにできない。ものすごい投げの威力だ。さすがは殺人サイボーグによって産み出された格闘技だ……。おそらく、サイボーグに効率的にダメージを与えられる技術を伝授しているのだろう。
「実際こんなに耐えられるなんてオドロキだよ吉村さん。さっきのリザードマンは一度投げられただけで泡吹いちゃってね。駒をつまむのにも苦労しててさ。たったの2回戦で終わってしまって正直退屈してたんだよ。アンタとなら7ゲームきっちり遊べそうだな」
「7ゲームだってぇ……?」
吉村は脂汗をかき、痛む左腕を抑えながらも必死に口角を上げて笑った。
「そんなにいらねえよ。次の……4ゲーム目で終わりにしてやる」
「アンタが投げられて……かい?」
「いや……私がお前を殴り飛ばしてやるぜッ!」
吉村が自らの駒を掴んで力強く打牌する! 初手、9一リャンピン守備表示! 4回戦のスタートだ!
***
「うぎゃあアアアーッ!!!」
「よっ、吉村さーーーん!!!」
5分後、吉村はダイキに投げられていた。
吉村はバリーン! と雀将荘の窓を突き破り、池袋の路地裏に消えていった。
凄まじい早業だった。ダイキは自分の番が回ってきた瞬間に新幹線カードを使用。一気に自らの王将をゴールの宮崎まで移動させてみせたのだ。圧倒的なツモ運としか言いようがない。いや、もしかするとこれがこれまでの3連勝で掴んだ流れだったのか……? 全てを傍らで見ていたダークフォース前澤はゾッとする感覚を味わった。
ダイキは台の側面に設けられたポイントカウンターを取り外すと前澤に見せる。
「しめて700リットルだ……。センパイは下に落ちちまったが、代わりにアンタが払ってくれるかい?」
「くっ……!」
前澤は財布から乱暴に紙幣を取り出すとテーブルに叩きつけた。
「この場は素直に負けを認める……! だがなあ!」
「いつでも待ってますよぉ」
ダイキは下で指を湿らせながら紙幣を数える。その顔には相変わらずのロボを馬鹿にしたような笑顔が張り付いている。
「ここはいい狩場だからね……。いまのところは!」
「うぐぐ……!」
店主の顔が青ざめる! 同席していたミシェルもタバコを持つ指が震えている!
「とはいえ今日はお開きのようだな。邪魔するぜ」
「店主……私も吉村さんを回収しなければなりません。ここは外させてもらいます」
「ううう……よ、吉村さんが負けるなんて……」
「負ける?」
前澤は店主の弱った声に鼻で笑って返した。
「勝負はこれからですよ」
***
カラン、コロン……。
池袋の路地裏にゲタの音が軽快に響く。明かりも少なく、ジメジメとした暗い道を和装の男が歩いていく。上機嫌にも口笛を吹きながら……。言うまでもなく、先ほどたんまりと金をせしめていったダイキだ! 本日、ダイキが稼いでいった金は30万円以上! 3パイント100円のレートとしては異常な金額! だが戦略性が全くない超速攻アガリと、その柔道の破壊力が産む高回転性がこの大金を生み出したのだ! もちろん襲われる側はたまったものではない。このままではほどなく雀将荘「マサカリ」の客は吸い尽くされてしまうだろう!
カツッ……。
突然、ゲタの音と口笛が止まる。
路地裏に静寂。
「なにも隠れなくたっていいじゃないですか。用事があるんなら顔と顔を合わせて話しましょうよ」
ダイキが天に向けて声を張り上げる。そのとき、闇から2体のサイボーグが現れた……。即ち、エアバースト吉村とダークフォース前澤!
「別に隠れてたわけじゃないんだが、あんまりご機嫌だからよお」
イテテ…と吉村が背中を抑えながら答える。まだしこたま雀将荘で投げられたダメージが残っているのだ! 代わって前澤が前に出る!
「先程は見事にやられましたが……今度はそうはいきません。殺らせていただきます」
前澤が背負った巨大なガンランチャーが音を立てて展開する! 吉村もフウッと息を吐き、サイバーボクシングを構える!
「つまりこういうことですか? あなた方はどうやっても私にゲームで敵わない。じゃあ暴力で黙らせよう、と」
「勘違いしてもらっちゃあ困るな! 私ら的には最初っからこりゃあプランBなんだぜっ! ゲームで倒せりゃあそれでよし、よしんば負けても直接殺しちまえば問題ねー。隙を生じぬ二段構えってやつだ」
「その通り。なぜなら我々は……」
前澤がスタビライザーをガチャンと地面に下ろす! ガンランチャー発射態勢!
「殺人サイボーグですから!」
***
「……で、なんでそこまで行って負けたんだい……?」
ドゥームズデイクロックゆずきは呆れ果てながら吉村に包帯を巻いた。
「うぐぐっ……忘れてたんですよヤツら柔道家の特技をぉ〜〜ッッッ」
吉村は喉の奥から搾り出すように唸った。隣でパワーボンバー土屋に傷を消毒されていた前澤が代わりに答える。
「柔道家は飛び道具も投げることができるんです。それで私が撃ったガンランチャーを投げ返されて……」
「昨日の夜中にした、あのものすごい音は君らかい! ぐっすり眠ってたのに起きちゃったよ」
余談ながらゆずきは東池袋に居を構えている。
「なんにせよ災難だったねえ」
「ううー、ゆずきさん! あんな奴ら池袋支部の総力を上げて殺しちまいましょうぜ!」
「んー、でも今のところシンギュラリティへの敵意は無さそうだしねえ」
「なに言ってんスか。あんなの予備軍ですよ予備軍! だいたい人類は殺すのがウチらの主義でしょ?」
「人類の数減らすのにわざわざ面倒そうなヤツを選んで殺すこたあないってこと! そいつひとり殺す手間で何人殺せると思う? 組織的にも基本的には壊滅しててはぐれ柔道家なんだろ? 稟議上げてみても無駄だと思うがね」
「ムキー! 悔しぃーーー!!」
「ま、やるなら昨日やろうとした通り時間外に趣味で殺すんだね」
「んギギギギギ!!!!」
「よ、吉村さん……今夜も行くんですか?」
「やらいでか! お前さんが来ないから私1機だって行くぜぇ!」
「そうですね……私は正直勝ち筋が思いつかないんで……」
「くそッ! クソォーッ! 今夜こそ! ゲームでッ! 殺してやるぅーーーー!!!」
***
「グエェーッ!」
吉村が背中から叩きつけられる! すでに2敗! いまだ勝ち筋は見えない!
「あ、ああ……もうダメだ……」
人数が足りないため卓についていた店主が顔を覆う! ミシェルも過呼吸になっている! ダイキは倒れている吉村に向かって嫌味ったらしくしゃがみこむと、ねっとりとした声で呟いた。
「連日で来るから何かしら対策を練ってきたのかなあと思ったら……相変わらずの無手勝流ですかい? 今日は外には放り投げないから自分の財布から払ってくださいよ」
「ちく……しょ……。てめぇー絶対殺す……!」
「頑張ってほしいものですなあ。そろそろこの界隈の手応えの無さには飽きてきましたので……」
そのとき、ガチャリとドアが開いた。新たな客だ!
「失礼……遊べるかしら?」
絶望に沈んでいた店主がバッと顔を上げる!
「あ、ああ……! もう7ゲームマッチで初めて2戦終わってるから私と入れ替えでその途中からだが……それでもいいかね!?」
「構わないわ」
吉村の背後でシュッと音がしてさくらんぼのフレーバーが薫る……。煙草? いや、それ以前にこの声は……。バッと吉村が振り返る。
「お、お前は……!」
ピンクのハットにオペラグラスを肩から伸ばし、腕にはハムスターが入った回し車をつけた奇妙な出で立ち……。間違いなくサイボーグだ! いや、このサイボーグは……ハムスターの身体に刻まれたそのマントラはまさに!
「ロンズデーライトシンシアです。お手柔らかにお願いしますわみなさん」
***
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