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マシーナリーとも子EX ~ロボ読みの極意篇~

 突如現れたロンズデーライトシンシアは店主に代わって吉村の上家に座る。親はダイキ! 第3ゲームのスタートだ!
 エアバースト吉村は切れた唇から流れる血を拳で拭いながら、シンシアの表情を伺った。その顔はまるで、毎日行くスーパーに仕方なく足りないゴミ袋を買いに来たかのように飄々としていた。

「シンシア、お前なんで……」
「対局中に私語はよろしくないのではなくて? 吉村さん?」

 シンシアは吉村に視線を向けずに手札を整理する。ああそーかよ、じゃあ来た理由は聞かねえさ……。だが、ありがてえ! 
 吉村はフウッと息を吐くと自らの手勢を確認した。
 角と中が1枚ずつあり、2メンツが揃っている。さらにタイガー戦車、聖なるロザリオ、選挙カー、森の土地カードが3枚、ドレッドノート・パワースーツが揃っていた。じっくりと構えることができれば強烈な一撃を加えることができる手勢ではある。これが通常の雀将であれば、だが……。
 吉村はチラリと対面のダイキを見る。すでに手勢の整頓を終えたダイキは腕を組み、ニヤニヤと吉村の視線を受け止めた。相変わらず嫌味なやつだぜ……。

「お仲間との作戦会議は済みましたか?」
「してねーよ! ……早く指しな」
「では遠慮なく……」

 ダイキの第一手! 八4金! これだ! 速攻の手か!? 吉村は舌打ちする! どうやってこの手を阻止する!?
 吉村と下家のミシェルに緊張が走る! だがその時!

「ポン」
「ポン???」

 思わぬシンシアの発生にダイキがおうむ返しする。シンシアの右手は2枚の金将を倒していた。
 第一手で金ポン? 何の意味がある……? いま、ダイキと吉村は同じことを考えていた。ポンをしたことでダイキのフェーズは終了し、強制的にシンシアのターンへと移行する。その防御的意味は理解できるが、しかしそれにしても金ポンとはアガるつもりがないのか……。
 シンシアは金を鳴いた引き換えに森カードを2枚捨てると、紅茶を一口含んで吉村に向けて微笑んだ。吉村はその意図がわからず固まった。だが自分の手勢と見比べ……。

(そうか!)

 吉村の破滅ハンドが素早く閃く!

「その森、ポンだっ!」

 吉村が手札から森カードを場に出し、シンシアの捨てた森を回収する! 森、総勢5枚!

「なにっ」

 はじめてダイキの顔に狼狽の色が浮かぶ!

(ここが正念場だぞ……)

 吉村は慎重に自らの手勢を吟味した上、1体のミニチュアを手に取る。シンシアの性格なら……これだろう!

「オークのカオス板前を墓場に捨てる!」
「待った! 私の墓荒らしカードを使わせてもらうわ。オークのカオス板前を私の手勢に!」

 吉村のミニチュアがシンシアの手勢に加わる! そしてターンはミシェルとダイキを飛ばし、シンシアのフェーズへ!

「なっ……貴様ら……っ!」

 今度はシンシアと吉村がニヤリと笑う番だった。

「ルーレットの目は8! 家事になるが火災保険で10万ドルもらう! マスを炎属性にしてヴァルキリーを召喚!」
「ツモ發! 發3枚でヴァルキリーを攻撃! 土地を役牌属性に変化させて香車をトラッシュ!」
「香車をポン! 衛生兵を香港に移動させ病原菌トークン全排除!」
「おっとそのトークンは回収だ! 全トークンをツナピコと処理し、ドレッドノート・パワースーツの攻撃力を3300アップ!」
「な…な……貴様ら……っ!」

 ダイキにフェーズが回ってこない! シンシアと吉村の応酬は20ターンにも渡り、次々とその戦力が整っていく!
 そして吉村が、最後に角将をバンと7七に打ち込む! 盤面から煙が立ち上がる! フシュゥゥーッと万感に満ちた息を吹きだしながら吉村は宣言した。

「……ターンエンドだ!」

 部屋を沈黙が包み込んだ。受けて下家のミシェル! 彼は今こそ、シンシアと吉村の攻勢を見て笑ってはいたが、全身からは相変わらず……いや、これまで以上の汗を噴き出させ、身体をガタガタと震え上がらせていた!
 ミシェルは目を閉じ、2回深呼吸をすると人差し指を立てた。

「……失礼、マスター。ウィスキーをくれないか」
「あんたが対局中に酒を飲むのを見るのは何年ぶりかな。水割りでよかったよな?」
「いや、ストレートで頼む。氷も入れないでくれ。ダブルだ」

 店主はへいへいと答えるとグラスをミシェルに供した。ミシェルは中身を一瞥するとカッと一気に煽る。

「ミシェル……大丈夫か?」

 吉村の言葉に、ミシェルはニコリと笑った。

「私にはアンタ達の考えてることはまるでわからない。俺から見たら、アンタ達の雀将もダイキの雀将も見たことのない世界で魔法のようだ。この場で俺にできることはなにも無い……」

 ミシェルはグラスを置く。

「俺にできるのはこの場を引っ掻き回さないことだけだ……。勝利を祈ってるよ。パスだ」

 ミシェルのパス宣言! ついにダイキに順番が回る!

「ケッ!」

 ダイキは齧っていたイカを吹き出した!

「ずいぶん長いあいだおふたりで手勢をこねくり回していたようだが! 結局は俺に順番を回しちまったな! それがオタクらの限界だよっ!」

 ダイキはひとつの駒を力強くつまむ!

「俺だって手勢を見た時から勝ちへのビジョンは見えてたんだっ! お前らがどんなに抵抗しようと俺の早アガリ雀将には敵いやしねえんだよ! オラっ! 鍛冶屋を使用! カードを3枚ドロー!」

 バンとダイキが鍛冶屋を場に表示する! だがダイキが山札に手を伸ばしたそのとき!

「……それだ。柔道家」

 吉村が手勢を倒す!

「何っ!?」
「ロン! タンヤオ穴熊星トークン6ツーペアー! ドレッドノート・パワードスーツでノイシュヴァンシュタイン城を攻撃! 全破壊!」
「グアアーッ!?!?」

 攻撃ポイント8万8000! 文句なくダイキは即死! だが!

「待った」
「何っ」

 シンシアも続いて手勢を倒す!

「ロン! フルハウスよ。衛生起動砲! 手札のゲッターロボを全排除して上家にフル掃射!」
「なっ……ななっ……」
「オヤジさん!」

 吉村は勢いよく立ち上がりながら叫ぶ!

「この店のルールはよぉ〜ッ!?」
「ああ……ダブロンアリだ! やっちまえ吉村さん!」
「行くぜシンシアーッ!」
「ええ……タイミングは合わせるわよ吉村!」
「やっ……やめろ貴様ら……貴様ら如きサイボーグのカスどもがぁぁーっ!?」

 吉村の破滅ハンドとシンシアのロンズデーライトナックルが唸る!

「これで……ゲームセットだぜぇーっ!」

 雀将ボクシングルールブック第2章第1条! ボクシングフェーズにて攻撃を受けるものは抵抗してはならない!

「グアアあぁぁぁぁあーっ!!!!!!」

 左右の頬にを正面から同時に打ち抜かれたダイキはその破壊力を逃すこと敵わず首を超回転させて引きちぎられた! 即死絶命!

「あの世へいちばん最初にアガるのもよぉーっ! テメェだったみたいどなっ! ヘッ! もう聞こえてねえか!」

 勝者、エアバースト吉村!

***

 賭場荒らしは死に、雀将荘に平和が戻った。吉村たちは店の冷蔵庫の缶ビールで祝杯を上げた。

「吉村、よく私の意図が掴めたわね」
「どぉーんだけオメェーと雀将やってると思ってんだよ! ロボ読みってヤツだよ。あんなの本当の読みとは言えねぇーよ。ある意味反則ギリギリだぜ!」
「いや……そういった意味ではあのダイキとかいうヤツのほうがよっぽど反則だったよ! 本当によくやってくれた吉村さん! どんどん飲んでくれ!」
「飲んでくれったって缶ビールと冷凍食品じゃ味気ねぇ~けどなあ……。それにしてもシンシア」

 吉村は泡を拭い本題に入る。そもそもこれが一番よくわかっていなかったのだ。

「なんでお前が池袋に……?」
「もともと別件があってね。いま池袋には各地からけっこうなサイボーグが集ってるのよ」
「え? そーなの?」
「それについては私が話そうかねえ」

 ガタンと雀将荘のドアが開く。そこにはドゥームズデイクロックゆずきが立っていた。

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます