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マシーナリーとも子EX ~新たな常連篇~
宙に舞ったアークドライブ田辺の身体はやがて重力に囚われ、床に叩きつけられた。リープアタック田原に、掴まれていたビームキャノンを支点に振り回され、投げ飛ばされたのだ。
「ぶべらっ!」
衝撃と共にサイバー肺のなかの空気が全て押し出され田辺は苦悶した。痛みで鈍化する時間感覚のなかで田辺はゆっくりと理解する。攻撃された……田原に!
やはりN.A.I.L.の幹部だと本当のことを話したのは悪手だったのか? 頭の中でネットリテラシーたか子があららと汗をかいている。あららじゃないっスよたか子さぁん!
***
「やべっ……ミス・トルー! 助けまシょう!」
(いえ…少し様子を見ましょうツバメ。あのサイボーグはだいぶ動揺しているようです。いま我々が手を出すと却って場を混乱させる危険があります)
「言うて……言うてどうするんでスかあ!?」
(田辺に任せましょう……。彼女はこういう時なんやかんやすることには長けてますから)
「なんやかんやって……なんなんでス?」
(なんやかんやですよ)
***
「ゲホッ、ま、待ってください田原さん……」
「君に私の苦労がわかるか?」
田原は右腕を後ろに回すと腰の後ろに設置された手回しコーヒーミルをガリガリと回し始めた。周囲に煎られた豆の香りが微かに漂い、田原に擬似徳が満ちる!
「どれだけ長い間この日本に潜伏し、シンギュラリティのため働いてきたか……」
田原は左手で右の手首にガッシと掴む。何か来る! 田辺は倒れたままサッと顔の前で両腕を交差させた。
「たがだか時間跳躍して10年そこらの君にわかるか!」
田原はグッと左手に力を込める! すると右手の指が勢いよく発射され、火球の如く田辺に降り注いだ。
「ウワーッ!」
人差し指と薬指と小指は田辺の腕を切り裂いて床に突き刺さったが、親指と中指は深々とその腕にめり込み火花を噴出させた! 指ミサイル! 一見火器は持ってないように見えたがこんなものを!
「100年の苦労を……君はいま踏みにじろうとしている! わかるか田辺君!」
指ミサイルを発射した田原の右手の指、その失われた第一関節部分に緑色の燐光が走る! 凄まじい切れ味を誇る殺人レーザートーチだ!
「死ねぇーっ!」
「どわーっ!」
緑色の扇状の軌跡が田辺に襲いかかる! 田辺は住んでのところで背部フライトユニットに点火! 高速で床を滑ることで攻撃回避! 床には大きな裂傷が刻まれ焦げた匂いが店内に充満する!
「ウワーッ!」
「ぎゃーっ!」
高速で回避した田辺が奥のテーブルに激突! ウインナーコーヒーを楽しんでいた木星人が吹っ飛び頭に生クリームがトッピングされる!
「チッ! すばしっこい!」
「ま、待ってください田原さん! 話を聞いて!」
「君はこれまで殺してきた人類の話をいちいち聞いたか!?」
田原が左指を発射する! 田辺はロボットアームで指ミサイルを薙ぎ払わんとする! だが防ぎきれず人差し指と小指が胸に突き刺さる!
「グワァーっ!」
「君のような存在は! 許されないッ! ある意味では人類以上に!」
田原が左指からもレーザートーチを展開! 頭上で両指を交差させ、X字に田辺を切り裂かんと力を込める!
「消えろっ! 裏切り者のサイボーグ!」
「や……やめてください田原さん!」
田辺は飛行ユニットの出力を上げると水平に田原に向けて突っ込む!
「グッ!?」
田辺はこのまま田原の懐に潜り込み、両腕を田原の胴に回して抑えつける!
「こっ、こいつー!」
田原はレーザートーチを振るうが田辺の距離が近くてうまく切り裂くことができない! 仕方なく田原は肘で田辺の背中を打つ!
「離れないか! このっ!」
「うぐぐっ! 離れません…!」
田辺はさらにギュッと腕に力を込める。その時、田原は少し不思議な気がした。離れない……なぜだ?
田辺の武装はさっきも展開していたビームキャノンに腕のビームライフルだ。ロボットアームという近接武器もあるにせよ、その得意レンジは聞きただすまでもなく遠中距離に違いない。その田辺がなぜわざわざこちらの間合いに入ってきた上に離れないというのが?
その思考を巡らせた刹那、田辺は田原の踏ん張りが弱まったことに気づくと飛行ユニットの出力を全開にした!
「おわっ!?」
腰を掴まれていた形の田原は、そこに突然前方からの凄まじい衝撃を与えられて背中から床に叩きつけられた!
「田原さん! 落ち着いてください!」
田辺はすかさず田原の腕を抑え、マウントポジションを取る! 圧倒的有利!
「グッ……何をしている! 殺せ! 手心などかけるな!」
「そんなつもりはありません! なんで私が田原さんを殺さなきゃいけないんですか!」
「呆けたことを言うな! 私たちは敵同士なんだよ!」
「違います! いやまあ勢力的にはそうなんですけど……私たちには田原さんを倒すつもりはありません!」
「君には無くても私にはある!」
「そうでしょうか!」
「なんだと……!」
田原はふと田辺の後ろに何かがあることに気づく。天井……あれは……なんだったか。
「田原さんも本当はこんなことはしたくないんじゃ無いですか!」
「馬鹿なことを言うな…! 私は私の任務を愚弄する君に怒って……!」
「お客さんがゆったりと暮らせるようにこの店を静かに経営していきたいというのが田原さんの願いでしょう!?」
田原はハッとした。目のピントが田辺でなくその背後の何か……天井に設置された何かに合わさる。
それは店に設置されたシーリングファンだった。羽根にマントラが書かれたシーリングファン。ふだんは田原の擬似徳が供給されて静かに回っているはずのシーリングファン……。
その羽根はいま、止まっていた。
「私の負けだ」
田原はつぶやいて目を閉じた。
***
「じゃ……こいつは貰っていきます。お騒がせしましたら田原さん」
「ああ……今日は済まなかったね。気が向いたらまた来てくれよ」
「はい! 是非!」
「そちらのおふた方も……」
田原は田辺の後ろについていたトルーとツバメに視線を送る。
(おや)
「いいんでスか? 私たち思いっきり人類でスけど」
「なぁ〜に、ウチのメインの顧客はもともと人類さ」
「はは……そりゃそうですよね! じゃあ田原さん、またお会いしましょう! ほらっ! 早く来てください!」
「アレ…アレ?」
首に鎖を繋がれたウワベペガ星人は田辺に店から蹴り出される。
「アレ? おかしく無いですか? 店長さっき客を差し出すような店はどうのって……」
「ま……私が負けたからね」
「ハア?」
田辺はウワベペガ星人の頭をロボットアームで鷲掴みにし、地面に向けて投げつける!
「ウワーッ!」
「まーた正論吐いて! いいですか! この世の中には言葉だけじゃ解決しないこともあるんですよ! ようはハートですハート! その辺があなたはわかってないですね!」
「うう…! なんだコイツ……! 私おかしいこと言ってないですよね?」
(相手が悪かったとしか言いようがありませんねえ)
「エート、それでこいつどうするんでしたっけ? 内調に引き渡す?」
(いーえ。消します)
「じゃあやっちゃいますか!」
「そうしまシょう!」
「えっ! えっ!」
ウワベペガ星人の周囲を三角形で覆うように田辺、トルー、ツバメが取り囲む!
「ちょっと待……」
「死ねーっ!」
ウワベペガ星人にビームキャノン、サイオニックブラスト、ワニ光線が浴びせられる! ウワベペガ星人は断末魔を上げることもなくアスファルトの黒い染みと化した!
***
「あら……」
(うわ)
後日、ローリングドリームにトルーが行くと店内には轟音が鳴り響いていた。ネットリテラシーたか子だ!
「いちいちテレパシーでうわとか飛ばすのはやめてくれない? しかしあなたがこんなお店に来るなんてね……。店主がサイボーグなのはわかっているでしょう?」
(異なことを。ここは基本的に人類のためのお店ですよねえ? あなたみたいないかにもサイボーグってサイボーグが我が物顔で居座っては店主に迷惑なのでは?)
「あんですって……」
(お? やりますか?)
「まあまあ……」
いつの間にか両者の間に田原が立ち、その肩をポンと叩いていた。
「お店の中で争いはご遠慮願いますよ、お客さんがた?」
***
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