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マシーナリーとも子EX 〜合体ワニ恐竜篇〜

「しかし……本当に大きい洞窟でスね」

 ツバメは小休止に携帯したチョコバーを齧りながら呟いた。急遽結成されたジャストディフェンス澤村、ハンバーグ寿司、ワニツバメによる探検隊が洞窟に侵入してからすでに1時間以上が経過していた。洞窟は反対側に抜けているのか案外に風通しが良く、また点在する天井の穴によって意外なほど明るい。そして恐竜が不自由なく動き回れるほどの高さ、広さがあった。

「私のリュックとティラノザウルスまであとどのくらいだよ〜?」
「ハイハイ待ってくださいね……おりゃっと」

 ツバメはワニの口から2本のL字の鉄棒を取り出した。これはN.A.I.L.が誇る超高性能サイバーダウジングマシーンであり、どうぶつ的霊感を増幅させることで目当てのものの元へ誘導してくれるという優れものだ。ワニの力を持つ上にバイオサイボーグであるツバメが持つ霊感は常人の3倍を超える。ダウジングマシーンの力を使うことでその力はさらに増幅され、一説には一般人の500倍までその霊感を引き上げることが可能になると言う。その圧倒的霊感から繰り出されるダウジングは、方角のみでなく距離や歩く距離から逆算した所要時間まで求めることができるのだ。

「お……だいぶ近いでスよ隊長! ここからあと20分も移動すれば出くわしそうです。目標は双方とも同じ場所にいまスね」
「ウキャキャキャ、そーかそーか。そりゃ都合がいいぜ! 腕が鳴るなあ〜」
「会敵したらお願いしまスよ隊長。なにせ相手はデカいくせに素早い。私のバリツより隊長の飛び道具の方が有効なはずでスから……」
「おうおう、任せておけ」

  澤村は満足そうに腕組みしながらフンと鼻息を吹いた。まったくチョロいもんでスね、とツバメは心の中で呟いた。この場で相手がシンギュラリティのサイボーグだからと言って澤村と争うメリットは万にひとつもない。ならば味方につけ、最大限利用するのが得策というものだ。

 澤村の武器アピールを聞き流しながら先に進むと、やがて道が開け、巨大なドーム状の空間が現れた。ドーム状、と分かったのは辛うじて丸く広がっているのだろう壁が、天井に向かってすり鉢状になっているのが分かったからであり、実際はその全容がまったく想像つかないほどの巨大な空間が広がっている。反対側が良く見えないのだ。一瞬、もう外に出たのかと思えるほどの広さ。だがそんなはずはないのだ。ツバメは右手の袖をめくってN.A.I.L.支給品の多機能腕時計を確かめる。現在の位置は海抜マイナス200メートル。本来ならば海の中のはずだ。洞窟は進めば進むほどどんどん地下に向かって深く下がってきていた。今更地上に出られるはずがない。

「ウゲ! 見ろよアレー!」

 澤村が驚いて空を指さす。その先には巨大な鳥が10羽、20羽と飛んでいる! いや、よく見ると頭から尖った突起物が伸びている。トサカではない。もっと硬質的な何かだ……。あれは鳥ではない、プテラノドンなのだ!

「ぐぶぶーっ」

 鳴き声に導かれるように右手を見ると、そこには沼で水を飲むステゴザウルスが! 恐竜の中でも特に頭の回転が鈍いと言われる四足歩行の種族だ!

「んんーーーーッッッ」

 頭上から声がして澤村とツバメは飛び上がった。頭の上からひらひらと葉が落ちてくる……! 大きすぎて気づかなかったが、ブラキオサウルスが長い首を伸ばし、ふたりの頭上の木の葉を食べていたのだ!

「ピエーっ!」
「ピエール!!」
「うわーっ!?」

 澤村が呆然としていると超小型の恐竜が身体中に群がってくる! 地上でリュックを奪われたディオニクスよりさらにもっと小さい! 獰猛な小型恐竜、ヴェロキラプトルだ!

「うるせーっ!!」
「ピエーッ!!!!!」
「ぐぶーっ!!」
「んんーーーーーッッッ!!!!」

 怒った澤村はビームを乱射してヴェロキラプトルを焼却! その流れ弾は周囲の恐竜たちの身体にも浴びせられた! 無数の恐竜が悶絶、あるいは焼死!

「うわーっ! ターゲットではないとはいえ貴重な恐竜たちがぁーっ!」
「仕方ねーだろっ! やられる前にやれ、がこの星で生き残る鉄則だぜー。大体こんなやつらほとんど滅んでるようなもんなんだから。誤差だよ誤差」
「うむむーっ……。ハッ!」

 そのとき、ツバメのダウジングがビンと強く反応する! 

「う、うわ! なんでスかこれは!? 吸い込まれるみたいだ!」
「大丈夫かよワニーッ」
「ウワーッ!」

あまりの霊感の働きにツバメのダウジングマシーンは手を離れ、遥か遠くへと高速で飛んでいった! ツバメと澤村は押し黙ったままダウジングマシーンが吸い込まれた虚空を見つめていた。10数秒ほどそのようにしていただろうか。やがて地面が一定のリズムで揺れ始めた。

「これは……」
「当然地震じゃねぇよなぁーっ!?」
「近づいてきている……! 我々の目標が!」

ふたりは立ち上がり、ファイティングポーズを取る! どんどん地響きは大きくなる……! やがて地平線の向こうから凶悪なシルエットが浮き上がってきた! 
 その巨大さとスピードを兼ねそろえたボディ、対象を噛み砕くことに特化した牙と顎!

「グバァーッ!!!」
「出たーーーーっ!!!」

 恐竜の王者、ティラノサウルスレックスが姿を現した! その凶悪な姿とは不釣り合いなほど小さな手からはジャストディフェス澤村のリュックがぶら下がっている!

「あーっ! 私のリュック!」
「なぜリュックとティラノサウルスが同じ場所にあるのか不思議でしたが……なるほどそういうことですか」
「なにが?」
「あいつの口を見てください、隊長」

澤村は隊長と呼ばれたので素直に言われた通りにした。ティラノサウルスの口からは小さな恐竜の頭が力なく垂れ下がっていた。

「あいつ! 食われてる!」
「おそらく隊長のリュックは戦利品として奪われたのでシょう」
「ティラノサウルスが私のリュック奪ってどうすんだよ!」
「ああいう生き物にとって用途はどうでもいいんでスよ。弱者から奪い取って支配する。それが強さの証明となり、力の誇示となるのでス」
「そんなもんかねえ」
「グバァーッ!!」

 ティラノサウルスが襲いかかる! 澤村に噛みつきを、同時に身体を大きく振りながらツバメに尾撃を繰り出す! 澤村はうつぶせに倒れながら噛みつきを回避し、そのまま四肢のキャタピラを接地させ稼働、ティラノサウルスから距離をとる! いっぽうツバメはスカートから徳を噴射して空中に回避すると華麗なバリツ・パルクールでティラノサウルスの身体を駆け上る! あっという間に背中に到達した!

「あーっ! ずっけぇ! 私も乗りたいよ」
「悪いでスが隊長をここまで引っ張る余裕はありまセん……。おわっと!」
「グバァーッ!」

 ティラノサウルスは大きく身を捩り、ツバメを振り払おうとする! ツバメは右手のワニクローをしっかりとティラノサウルスの背中に食い込ませながら左腕のワニの口から徳の光線を発射した! ワニブラスト!

「グバァーッ!」

ワニブラストが目に直撃! 怯んだティラノ
サウルスは思わずうずくまった。そこにジャストディフェンス澤村が岩をジャンプ台にして高速移動形態のままジャンプ!

「リュックを返しやがれェー!!」

 だが澤村の高速移動形態は自転車程度のスピードしかないため勢いが足りない! うずくまったためリュックを提げた手の位置も大きく下がったがそれでもいまの澤村のジャンプ力では半分ほどの距離、高度しか確保できていない! どうする澤村!

「こうすンだよぉー!」

 澤村はグレネードランチャーと指のビーム砲、腕の戦車砲をすべて真下に向け一斉射撃! 発生した反動と爆発による衝撃で更なる加速を得た! 飛距離はグングン伸びリュックに到達!

「取ったぜー!!!」
「オッ! やりまシたね!」

 ツバメが澤村の元に飛び降りる。リュックのボタンを解放すると中からショゴスが飛び出した。

「これが例の……」
(はん、いつ見ても気味の悪い連中だ)

 セベクが忌々しげにこぼした。

「グバァーッ!」

 ティラノサウルスがこれまでになく大きな咆哮を轟かせる。ツバメと澤村は思わず一足飛びで距離をとった。獲物を奪われた怒りを咆哮に表しているのだ! 次の攻撃はこれまでになく熾烈なものになるに違いない!

「テケリ・リ……テケリ・リ……!」
「あ? なんだあ?」

 ティラノサウルスの咆哮に呼応するように、それまで黙っていたショゴスが鳴き声を発し、うねうねと前に歩みではじめた。ショゴスは澤村とツバメの間から顔を出すように出てくると、本体を振り向かせることはなく体表に無数の目玉を発生させてツバメを見た。

「うゲェーッ! なんかこっち見てまスよ! 気持ち悪い!」
「まあそういうなよ。基本的に気のいい奴らだよ」
「そうは言ってもあんなに目玉がありまスよぉ!」
「テケリ・リ…」

 ショゴスは少しずつツバメに這い寄りはじめた。なにをしようというのか?

「うわっ! こ、こっちにくる!」
(だ、大丈夫なのかぁ〜!? これ!)

 セベクがガウガウと身を捩る!
 そして!

「テケリ・リ……!」
「ウワーーーーーッ!?!?!?」

 ショゴスは大きく身体を広げると……内側にワニツバメを飲み込んだのである!

「えーーーーーっ! なにやってんだお前らー!」
「テケリ・リ……!」

 ツバメを飲み込んだショゴスは全身をゴモゴモと粟立たせながら徐々に大きくなっていく……! やがてティラノサウルス顔負けのサイズにまで膨らむと、2本の脚が発生。先端には力強い爪が現れる! さらには長大な尻尾が、雄々しい首が!

「おおおおお!!!」

 澤村が興奮する! そう、ショゴスはティラノサウルスに対抗するため自らも恐竜になろうとしているのだ! やがて首の先端からセベクの顔が飛び出た! セベクザウルス‼︎

(ウバーッ⁉︎ どうなってるのだこれはー⁉︎)
「す、すげーーーっ!!! 私も混ぜてくれーーーーっ!!!」
「テケリ・リ…!」

 澤村がセベクザウルスに飛び込む! すると内部で意識が溶け込み、ワニツバメやセベクの声が聞こえてきたのだ。

「ぎゃわーーーっ‼︎ どうスればいいんでスかーッ⁉︎」
「おーいワニー」
「あっ、澤村……じゃない、隊長も来たんでスか? これなんなんでス??」
「あーそうか。中からだとわかんねーのか。いま恐竜になってんだぜ私たち!」
「恐竜???」
「力を合わせてティラノやっつけよーぜ!」
「力を合わせてって……」
「なんかやりたいことをやーっ! って思えばそれがショゴスに伝わってパワーになるんだよ」
「伝えればって言われても、さっきからあいつらの声が頭の中に入ってきまスけどテケテケ言ってて全然意味がわからないんでスけど!? 頭おかしくなりそーでッス!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。結構こっちの言うことには融通効かせてくれるからよぉーッ」

 セベクザウルスがティラノサウルスを見下ろす! 両者の頭から尻尾の長さは同じくらいである。だが前傾姿勢を取り、アルファベットの「T」のような姿勢を取るティラノサウルスに対し、セベクザウルスは頭を高く掲げ、カタカナの「イ」のような体制を取っている。そのため高所の有利を獲得しているのだ!

(もう知らーん! どうにでもなってくれ!)

 セベクザウルスがガウガウとティラノサウルスの背中に噛み付く!

「グバァーッ!」

 セベクザウルスの屈強な牙がティラノサウルスの鋼鉄の如き鱗を噛み砕いた! 鮮血が飛び散る!

「グバァーッ!」
「ガウーッ!」

 ティラノサウルスはたまらずもがき、尻尾をセベクザウルスの頭部……つまりセベクそのもの……に叩きつける。セベクが目を白黒させている間にティラノは素早くセベクザウルスの背後に回り込む! 頭上を取られている不利はあるが、スピードなら重心のバランスがいいティラノサウルスに利がある! ティラノはセベクの尻尾に噛み付いた!

「ガウーッ!」
(痛い〜〜!)
「ああっ! セベクがやられてまス!」
「ショゴスのダメージをワニが肩代わりしてるみてえだな〜」
「地味にひどいことしまスね」
「あいつら昔は仲悪かったらしいから」
「どうしましょう? 後ろを取られちゃいまシたよ!」
「出ていって殴ればいーじゃん」
「そっか」

「グバァーッ!」
「ガウーッ!」

 なおもティラノサウルスはセベクザウルスのしっぽに噛み付いている! いや、噛み付くだけでなく顎を左右に振り始めた! このまま噛みちぎる気なのだ! だがその時、尻尾の付け根からニョキっとワニツバメの上半身が生えてきた!

「グバッ???」
「やめろーっ!」

 ティラノサウルスの横っ面にツバメのバリツパンチが炸裂! ティラノサウルスはたまらず口を離し、ぴょんぴょんと距離を取った! セベクザウルスも振り向き、再び相対する2匹! 仕切り直しだ!

「グバァーッ!」

 ティラノサウルスが咆哮しながら口を大きく開く! すると喉の奥から灼熱の炎が猛然とした勢いで発射された! 

「ガウーッ!!!!」

 炎に包まれるセベクザウルス!

(あっち!!!! 熱い!!!!)
「な、な、なんでティラノサウルスが炎を吐くんだぁ!?」
「意味がわからないでス!」

 突如炎を吐いたティラノサウルスに困惑する澤村とツバメ! だが考えていただきたい。ティラノサウルスがかつて炎を「吐かなかった」という記録はどこにも残っていないのだ! いま人類未到の地で明かされる恐るべきティラノサウルス真実! ティラノサウルスが恐竜の王者として君臨できたのは牙や爪によるものではない。この灼熱の炎のおかげだったのだ!
 セベクザウルスは口からナイル川の水を呼び出して消火を図る! 周囲に大量の水蒸気が放出され、その身体を隠した!

「グバッ!?」

 セベクザウルスが姿を消したことに戸惑うティラノ! この隙を逃すわけにはいかない!

「いまがチャンスでスよ! どうやって反撃しまス?」
「決まってら! あっちが炎出すならこっちもだぜー! おいワニー! 口開けろ!」
「ガウーッ!!!」

 セベクザウルスが大きく口を開く! 水蒸気が晴れる! その瞬間、セベクザウルスの口から虹色の怪光線が放たれた! ジャストディフェンス澤村の奥の手だ!

「グ、グバァーーーーーーーーッ!!!!!」

 虹色の怪光線を浴びたティラノサウルスは肉体の細胞を分解され、グズグズに溶けて行った。

***

「悪ぃーな。ティラノサウルスドロドロにしちゃってよぉー」
「いやまあ、問題ないでスよ。そりゃあなるべく原型留めてた方がいいでスけど。こう言うのは記憶とか魂が重要なんで。いますぐセベクの中に保存すれば大丈夫でス」
「保存?」
「ええ。持ち帰らなければいけまセんからね。セベク!」
(ドロドロなのは気が進まんなぁ〜」

 ツバメの左腕のワニは気が進まなそうに口を開けると、器用に溶けたティラノサウルスを丸呑みにしていった。まるで自らより遥かに大きいシカを飲み込んでいくパイソンのように!

「セベクの中の特殊エジプト空間の中なら1000年先でも新鮮な死体の保存が可能なんでス!」
「はーん。例の徳人間もそうやってしまってるのかー」
「あっちはエネルギーとして使ってるのでそのまんまってわけじゃないでスけどね。じゃあお世話になりました隊長。上司部下の関係はここまででスよ。次に会った時はいつもどーり敵同士です」
「だなぁーっ。オメーの方こそうっかり私への尊敬を思い出して手を緩めたりするなよなぁーっ」
「それだけは無いでス! 絶対に!!」

 こうしてツバメは無事ティラノサウルスを確保し、澤村は一応仕事を終え、ショゴスの背に乗って帰路についたのだった……。

***

「お仕事ご苦労様……。そう、恐竜ハンターはN.A.I.L.だったのね」
「雑魚ばっかりだったぜー! 簡単な仕事だったよ」

 澤村はワニツバメの件については触れず、N.A.I.L.を処分した旨をたか子に伝えた。もっとも、本当にその仕事をしたのはトリケラトプスだったのだが。

「よくやったわ。いい手際です澤村。徳が高いわよ」
「ウキャキャキャ。そーだろー!?」
「時に……当然のことだろうと思ってわざわざ伝えなかったけど、恐竜は殺したりしなかったでしょうね。一応聞きますが」
「へッ?」

 この際に数匹の恐竜が失われたことにより発生した乱数の調整のため、シンギュラリティに新たな30のミッションが生ずることとなりネットリテラシーたか子は頭を抱えることになるのだが、それはまた別のお話……。

***

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マシーナリーとも子
読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます