『北田卓史原画の部屋』 街を行き交うくるまたち
さて今回は、北田卓史が得意としていた、のりものの原画を紹介します。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、北田卓史の卓史という名前は、タクシーにちなんだペンネームです。自作の絵にサインをするときは、下の絵の左下にあるようにアルファベットの大文字でTAXIの文字を記し、その横に制作年を入れます。
ペンネームをのりものにちなんで付けるだけあって、自動車や飛行機、鉄道などの絵をたくさん残しています。
その中でも一番頻繁に登場するのが、自動車、特にタクシーです。
前回ご紹介した「山ねこおことわり」や「車のいろは空のいろ」シリーズに登場するのが主人公の松井さんが運転する空色のタクシーです。
フォグランプの付いた外に大きく張り出したバンパーは、1970年代に多く見られたタイプです。ワイパーやルーフウインカーなどの細部まで描き込まれています。
この二枚は黄色いタクシーが活躍するお話です。松井さんの空いろのタクシーと似たような形ですが、ヘッドライトに瞳が入り、擬人化されています。ボンネットタイプのトラックや瓶入りコーラを運ぶボトルカーが時代を感じさせます。タクシーのドライバーが車をジャッキアップして、パンクしたタイヤの交換作業をしています。最近の車はめったにパンクしませんが、1970年頃には、街角でこうした光景をよく見かけました。
もうひとつ、こちらの絵にもタクシーが出てきます。
これも黄色いタクシーですが、前の二枚とは別のお話しで、青いスポーツカーを主人公にした絵本の中の一枚です。タクシーのトランクの中には、燃料として使われるLPGのタンクが描かれています。
こちらは、具体的な車種まで特定できるくらい実車に忠実に描かれた一枚です。
赤い方はトヨタコロナの2ドアハードトップですね。黄色い方はテントウムシのニックネームでおなじみのスバル360の後継にあたるスバルR2。1970年頃には街中でよく見かけました。
次の絵は、交差点を行き交う車と信号を守りながら横断歩道を渡る動物たちです。
子どもたちに交通安全のルールを理解させるために書かれたお話のうちの一枚ですね。
これも車が行き交う街角の様子ですが、この絵では、子どもが道路の真ん中で立ち往生しています。
ここでは、とうとう交通事故が起きてしまい、パトカーに救急車、レッカー車まで駆けつけました。
昭和の男の子はみんな車が大好きで、いつか自分が運転する日をわくわくしながら夢見ていました。その一方で、交通事故や排気ガスによる公害などが深刻な社会問題となっており、子どもたちを事故から守るための教育も絵本の大切な役割だったようです。
今回は、1970年前後に描かれたくるまの絵を中心に紹介しましたが、この他にも電車や飛行機、船や潜水艦、さらには宇宙船までさまざまなのりものの絵が残されています。
それらは、また別の機会にご紹介したいと思います。