『北田卓史 原画の部屋』 北田卓史を知っていますか
北田卓史は、昭和20年代から平成の始めにかけて児童書や絵本などにたくさんの作品を残した画家です。
代表作には、「チョコレート戦争」(理論社)、「車のいろは空のいろ」(ポプラ社)、「さとるのじてんしゃ」(小峰書店)などがあります。これらは、いまでも版が重ねられており、大きな書店にいけば、児童書のコーナーで見つけることができます。
単行本以外にも、「キンダーブック」、「チャイルドブック」、「こどもせかい」といった定期刊行の絵本雑誌などに数多くの作品を提供してきました。
平面的で動きの少ない独特のタッチで、自動車、飛行機などの乗り物や擬人化した動物が登場する挿し絵を多く手掛けました。
見出しでご紹介しているのは、「チョコレート戦争」の表紙の原画です。
「チョコレート戦争」は、絵本作家の大石真さんがお話しを書いた児童書で、1965年に理論社から発行されました。
単行本ですので、本になるときには、丁度真ん中が背表紙になって左右に二分されます。そして左半分が表紙になりタイトルや著者名が入り、右半分が裏表紙になります。
市松模様の丘の上に描かれた平面的で様式化された人物、幾何学模様の服、キノコの様な形をした木、サスペンションまで描写されトラックなどいずれも北田の絵ではお馴染みの表現です。
次にご紹介する原画はこちらです。
これは、「山ねこおことわり」という絵本の一場面です。
タクシー運転手の松井さんが、たまたま拾ったお客を乗せて車を走らせているとき、ふとバックミラーを見るとそのお客が山ねこに変身していて、ぎょっとする場面です。
ヘリンボーンのスーツにネクタイを締めた山ねこ、かなりインパクトがあると思いませんか。
こちらは、あまんきみこさんの文章で、同じ松井さんを主人公にした児童書の「車のいろは空のいろ」のなかのひとつのエピソードを「山ねこおことわり」と題した独立した絵本にして、1977年にポプラ社から出版されたものです。
この絵ように、北田の作品は、幼児・児童向けとはいっても、子どもらしい可愛さややさしさとは少し違った独特の雰囲気をもっています。
次にご覧いただくのはこちらです。
どこに掲載されたものかわからないのですが、幼稚園か小学校で子どもたちがなにかのゲームをしているところのようです。
この絵にあるように、北田の絵では、人物の表情がはっきり読み取れるような描きかたはされていません。特に目は皆点のように小さく描かれています。
それにもかかわらず、目の位置やわずかな形の違い、口元の描き方でそれぞれの表情に微妙な変化がつけられています。
また肌の色は一様に小麦色で、頬に少し赤みがさしています。
このような特徴は、北田卓史の絵に共通するもので、一目で北田の作品と分かる強い個性を形作っているようです。
今回は、ロングセラーになっている作品を中心に紹介しましたが、これ以外にも、すでに絶版になってしまったり、児童、幼児向けの絵本雑誌に一回限りで掲載されたものなど、いまでは一般には目にすることができない作品がたくさん残されています。
これらの作品を、いま改めて眺めてみると昭和のこどもたちの日常生活が伝わってくるようです。
いま、残された原画を少しずつ整理しています。何十年も前の作品がどこまで関心を持っていただけるかわかりませんが、少しずつ紹介していきたいと思います。