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「歴史総合」の教科書から、発見した学びの変化ー前編ー

新学習指導要領が来年(2022年)4月より高等学校で開始されるに伴い、社会科の改編が行われることを先日の投稿(「歴史を学ぶにあたってー前編ー」)でお伝えしているので簡略する。詳細はそちらを読んでいただいた上で、その続きに触れていく。たまたま 山川出版社が発行している「歴史総合」の教科書と解説資料のサンプルを手元に入手することが出来たので、一通り目を通して分析してみたことを自分なりに記述していきたい。

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 まず、3冊のサンプルがある。下のように手元に入手しているのはあくまで『ダイジェスト版』なので、生徒及び教員が受け取る本当の教科書は来年にならないと細かく内容が見れない。ただ掲示する機会があるので、時間があれば一度訪ねてゆっくり読みたいと思っている。ただダイジェスト版を見る限りでも、学習指導要領改訂の大きな方向性が読み取れることが分かっている。

1冊目 『歴史総合—近代から現代へ』によると、以下のような目次がある。

<歴史の扉> 諸地域世界の形成 
ー 歴史の扉 ❶ 歴史と私たち
日本と洋菓子  
— 歴史の扉 ❷ 歴史の特質と資料
台湾における砂糖の生産 
近代化への問い 
1 交通と貿易/ 2 産業と人口/ 3 権利意識と政治参加や国民の義務 4 学校教育/ 5 労働と家族/ 6 移民
第1章 結びつく世界
1 アジア諸地域の繁栄と日本
2 ヨーロッパにおける主権国家体制の形成とヨーロッパ人の海外進出 
第 2 章 近代ヨーロッパ・アメリカ世界の成立
1 ヨーロッパ経済の動向と産業革命 
2 アメリカ独立革命とフランス革命                                                     第 3 章 明治維新と日本の立憲体制                   1 明治維新と諸改革
2 明治初期の対外関係
3 自由民権運動と立憲体制
第4章 帝国主義の展開とアジア
1 条約改正と日清戦争
2 日本の産業革命と教育の普及 
第Ⅰ部                               3 帝国主義と列強の展開
4 世界分割と列強の対立
5 日露戦争とその影響
近代化と現代的な諸課題 
自由・制限/開発・保全

このように分けることで、身近な事象の背景に歴史 があることや、史資料にもとづいて歴史が叙述されていることを学ぶ内容がわかりやすく整理されているのは、今までの教科書にない作り方として特徴づけている。

第II部 国際秩序の変化や大衆化と私たち               国際秩序の変化や大衆化への問い 
1 国際関係の緊密化/ 2 アメリカ合衆国とソヴィエト連邦の台頭 3 植民地の独立/ 4 大衆の政治的・経済的・社会的地位の変化 5 生活様式の変化 
第 5 章 第一次世界大戦と大衆社会
1 第一次世界大戦とロシア革命 
2 国際平和と安全保障
3 アジア・アフリカ地域の民族運動
4 大衆消費社会と市民生活の変容 
5 社会・労働運動の進展と大衆の政治参加 
第 6 章 経済危機と第二次世界大戦
1 世界恐慌の発生と各国の対応
2 ファシズムの台頭
3 日本の恐慌と満洲事変
4 日中戦争と国内外の動き 
5 第二次世界大戦と太平洋戦争                    第 7 章 戦後の国際秩序と日本の改革
1 新たな国際秩序と冷戦の始まり 
2 アジア諸地域の独立
3 占領下の日本と民主化 
4 占領政策の転換と日本の独立 
国際秩序の変化や大衆化と現代的な諸課題 
対立・協調/平等・格差/統合・分化
第III部 グローバル化と私たち
グローバル化への問い 
1 冷戦と国際関係/ 2 人と資本の移動/ 3 高度情報通信/ 4 食料と人口 /5 資源・エネルギーと地球環境/ 6 感染症/ 7 多様な人々の共存                                 
第8章 冷戦と世界経済                        1 集団防衛体制と核開発 
2 米ソ両大国と平和共存 
3 西ヨーロッパの経済復興 
4 第三世界の連携と試練 
5 55年体制の成立
6 日本の高度経済成長
7 核戦争の恐怖から軍縮へ 
8 冷戦構造のゆらぎ
9 世界経済の転換
10 アジア諸地域の経済発展と市場開放                 第9章 グローバル化する世界
1 冷戦の終結と国際情勢
2 ソ連の崩壊と経済のグローバル化
3 開発途上国の民主化と独裁政権の動揺
4 地域紛争の激化
5 国際社会のなかの日本 
第10章 現代の課題                          1 現代世界の諸課題                         2 現代日本の諸課題
現代的な諸課題の形成と展望 

(出典:https://new-textbook.yamakawa.co.jp/pdfs/歴史総合_近代から現代へ【ダイジェスト版】.pdfより引用)

ここで見る教科書の構成は、先日の投稿(「歴史を学ぶにあたってー後編ー」)でも執筆したように今までの学習の流れでいうと、古代から始まって時代の変化を理解するという教えを受けていた私たちと違い、今回の教科書を使って学ぶ生徒には全く異なる受け止めになってくる。

「世界史」と分けたテーマ別の内容が一つの合わせた視点で、まとめている内容を近代から逆の流れで変化を見ることで、《考える力》を育てるという主体的あるテーマを与えることで自ら調べて行くことで過去の経緯を知るといった学習方法になってくるのは、私のように教える側にとっては方針が転換する新しい指導として専門性が増えてきたのである。教師主体ではなく、あえて生徒に考えさせるテーマを置くようにした教科書の作り方を私たち教員がしっかり把握した上でどのように指導するかという準備をしていく。

「歴史総合」の学習指導要領では、教科書の活用について以下のように述べている。

 「歴史総合」の学習において,これらの情報は主に様々な資料を通して収集される。 「歴史総合」の学習で用いられる資料には,文献や絵図,遺物や遺構,地図,統計など歴 史学習に関わる様々な性格の資料や,作業的で具体的な体験を伴う学習によって得られた 幅広い資料が存在する。その中から必要な資料を選択して有効に活用することで社会的的事象を一面的に捉えるのではなく,様々な角度から捉えることが可能となる。
   以上に述べた技能については,収集する手段や情報の内容,資料の特性等に応じてそれぞれに指導の留意点が存在すると考えられる。このため,小学校や中学校の社会科での学習を踏まえ,生徒が身に付けた技能を繰り返し活用して習熟を図るように指導することが大切である。


 というわけで、またもう一つ教科書と合わせてさらに学びを深めるための副教材として、資料集の活用が挙げられる。以下、2つ目にある資料集の【ダイジェスト版】を見ていくとこのように構成されていることがわかる。

『現代の歴史総合 みる・読みとく・考える』(山川出版社)
【 目次】
世界のつながり
2世紀の世界/8世紀の世界/13世紀の世界/16世紀の世界/18世紀の世界歴史の扉① 歴史と私たち、現代の私たちと旅
歴史の扉② 歴史の特質と資料、歴史資料とは何だろうか        
第Ⅰ部 近代化と私たち                       1 交通と貿易  2 産業と人口  3 権利意識と政治参加、国民の義務  4 学校教育  5 労働と家族  6 移民
第1章 結びつく世界と日本の開国
1 18世紀の東アジアにおける社会と経済
2 貿易が結んだ世界と日本
3 産業革命
4 中国の開港と日本の開国                      第2章 国民国家と明治維新1 市民革命
2 国民国家とナショナリズム
3 明治維新
4 日本の産業革命
5 帝国主義
6 変容する東アジアの国際秩序
7 日露戦争と東アジアの変動                     ● 近代化と現代的な諸課題
①開発・保全  ②対立・強調  ③自由・制限
第Ⅱ部 国際秩序の変化や大衆化と私たち               1 20世紀の国際関係の緊密化
2 アメリカ合衆国とソヴィエト連邦の台頭
3 植民地の独立
4 大衆の政治的・経済的・社会的地位の変化
5 生活様式の変化                          第3章 総力戦と社会運動
1 第一次世界大戦の展開
2 ソヴィエト連邦の成立とアメリカ合衆国の台頭
3 ヴェルサイユ体制とワシントン体制
4 世界経済の変容と日本
5 アジアのナショナリズム
6 大衆の政治参加
7 消費社会と大衆文化                        第4章 経済危機と第二次世界大戦
1 世界恐慌の時代
2 ファシズムの伸長と共産主義
3 日中戦争への道
4 第二次世界大戦の展開
5 第二次世界大戦下の社会
6 国際連合と国際経済体制
7 占領と戦後改革
8 冷戦の始まりと東アジア諸国の動向
9 日本の独立と日米安全保障条約                   ●国際秩序の変化や大衆化と現代的な諸課題
① 対立・協調 ②統合・分化 ③平等・格差
第Ⅲ部 グローバル化と私たち                    1 冷戦と国際関係/2 人と資本の移動/3 高度情報通信/4食料と人口/5 資源・エネルギーと地球環境/かん感染症/7 多様な人々の共存
第5章 冷戦と世界経済                       1冷戦下の地域紛争と脱植民地化2 東西両陣営の動向と1960年代の社会
3 軍拡競争から緊張緩和へ
4 地域連携の形成と展開
5 計画経済とのその波及
6 日本の高度経済成長
7 アジアのなかの戦後日本                      第6章 世界秩序の変容と日本                    1 石油危機2 アジア諸地域の経済発展
3 市場開放と経済の自由化
4 情報技術革命とグローバリゼーション
5 冷戦の終結とソ連の崩壊
6 現代の東アジア
7 東南アジア・アフリカ・ラテンアメリカの民主化
8 地域統合の拡大と変容
9 地域紛争と国際社会
10 現代と私たち
●現代的な諸課題の形成と展望                    年表、索引
現代の世界/東アジア・東南アジア地域/地球温暖化が関係している考えられる現象/石炭・天然ガス・石油・ウラン産地とエネルギー供給/世界の自然

 この資料集の構成としては、今までと変わらないが調べ学習としてより幅広い写真や図式チャートや人物名の概要など具体的に分かりやすくはっきりとまとめられている。また教科書で学ぶ新しい用語に対して、意味を深めるためのテーマ別に分けるだけではなく、長い時代の流れの中でどのように変化していたのか。という経過を一目で分かるように作られている内容もある。これによって、私たちの生きる社会が見えてくるという理解を高めることが読み取れている。

これは単にある語彙の意味を知るだけで読むという使い方を教員が教えるのではなく、教員はあるテーマを掲示するだけであとは生徒が資料集の活用を通してノートに自分の手でまとめながら理解するという学習の姿勢を作るための有効な手段として活用させることがポイントになる。

 このような教科書の作り方が、今回の新学習指導要領の改訂によって大きく変わったことを私は非常に興味持って読み取ることが出来た。後編はもう一つの教科書があるので、それを読むことで聴覚障がい児にとっての指導法はどうあるべきなのかをまとめていきたい。