日本だけではなく世界にも目を向ける②
先日の投稿(「日本だけではなく世界にも目を向ける①」)では、授業のテーマ設定についてどのようにして掲示するのかという具体例として挙げている。私は、朝鮮半島という国に着目して調べ学習を行いその上でレポートを作成する際には、必ず新学習指導要領で明記していることのポイントを抑えつつ自分なりの解釈をまとめてきた。非常に大変な作業ではあったが、良い機会となった。
だけどこれはあくまで、大学というレベルの中での授業形態なので中学社会そして高等学校の地理総合で学ぶ児童生徒には同様のレベルを求めないつもりである。しかし、調べ学習を通して主体性ある学びを提供することは、今までの教職員主導の授業スタイルからの転換が大きく変える必要はあると考える。教科書ではあくまで知識であり、実際に色々社会的に触れてみるということが最近の情報であり、生活する上で知っておくべき大事なところであると思う。このような教養(知識)を身に付けることが社会科教員の専門性として心構えていかなければならない。
続く②のテーマは、「①で指定した地域またはそれ以外の地域について、テキスト以外の文献を中心にⅠ同様の条件で三つの中核的事項に基づいて、その地域についての特色(地誌)をまとめる。」と掲示されており、朝鮮半島について該当テキスト(教科書に書かれている情報)以外に図書館などに出向いたりして、集めてきた参考文献を基に以下の内容を作成した。
3、歴史的な経緯から知る
本節ではまず、私が思い浮かべるのが2002年の日韓W杯共催は、韓国との両関係において映画やドラマなどを中心に訪れた「韓流」ブームがあり、概ね良好な雰囲気であったという記憶がある。その一方で、朝鮮半島といえば当時首相であった小泉純一郎の訪朝で、日朝国交正常化交渉が始まるなど、朝鮮半島に成立している二国と日本を巡る情勢は確実に変化していたという印象が強い。社会科教員を目指している中でこの話題性は非常に身近な内容として聞いていることが多かった。1945年以降における朝鮮半島の歴史を振り返って簡単に短く整理していきたい。
①南北分断
1945年8月15日、日本の降伏によって太平洋戦争が終結し、同時に1910年の併合以来、日本の植民地であった朝鮮半島は36年に渡る日本の支配から解放する。しかし、それは同時に朝鮮半島の南北分断という新たな悲劇の始まりで、北緯38度線を境界として、米ソ両国の分割占領が始まったといわれている。今も米ソ両国の思惑に左右される形で、朝鮮半島は北緯38度線を境界として分割統治されることになる。そして1948年8月15日に南に李晩承を初代大統領とする大韓民国、同年9月9日に北に金日成を国家主席とする朝鮮民主主義人民共和国が成立した。最近でいうと、2019年6月に北緯38度線下で米国と北朝鮮が会談を実施するということは歴史的な出来事であったことが新しい記憶である。
②朝鮮戦争による南北分断の固定化
1950年6月25日、北朝鮮の朝鮮人民軍による北緯38度戦付近への武力侵攻が始まった。これを機に、韓国との朝鮮戦争が開戦した。北朝鮮が武力侵攻に至った理由は韓国を武力統一することを目的としていたためである。1950年9月14日の時点で北朝鮮軍の最南下戦は釜山近辺まで近づいていた。1950年11月26日の国連軍最北進線は北朝鮮国内のほぼ全土に及んでいる。しかし、これは中国義勇軍の参戦もあり、撤退を余儀なくされたという背景がある。このような経過を経て、朝鮮戦争は1953年7月27日に板門店で休戦協定が調印される。なお、この時の特需景気によって、戦後不況にあえいでいた日本の経済は立ち直ることになったことがわかる。
③朝鮮戦争以後の両国の歩み
1960年から日本赤十字社と朝鮮総聯が展開した帰国事業によって、九万数千人の在日朝鮮人が北朝鮮に「帰国」した。帰国事業は、そのような折に「教育も医療も無料の社会主義祖国」「地上の楽園」という非常に派手な宣伝文句を伴い、展開されたものだったという。しかし、現実は、朝鮮戦争以来疲弊していた国土を復旧させるための労働力を求めていただけで、この帰国事業は結果として、多くの悲劇を招くことになり日本で事業に成功した在日朝鮮人が、「祖国のために」との思いを胸に帰国すると「祖国を裏切った」「資本主義国家からのスパイである」と言われて財産没収の上、一家全員が強制収容所送りにされるような事例が頻発していたということを初めて知った。よく報道などで聞く悲惨なケースとしては、日本と北朝鮮で家族がバラバラになってしまったというケースがある。例えば息子が「祖国統一のために準備する」と言って北朝鮮に帰国したのは良いが、北朝鮮では、一般の国民(朝鮮公民)には通信の自由が制限されており、(日本からの帰国者は国家体制を揺るがす危険があるとしてとして、監視対象とされているため、制限は一層厳しい。)それ以降音信不通になり、息子の消息を案じて日本で苦しむ母親という話もある。
また、「帰国者」の中には日本人配偶者も含まれていたが、1997年9月の朝日両赤十字連絡協議会で一時帰国に関して合意文書が調印されるまで、配偶者たちの里帰りが実現することは無かった。この日本人拉致問題は、2002年の日朝国交正常化交渉で、金正日総書記が初めて事実を認めて謝罪したが、現在も北朝鮮に生存している拉致被害者の帰国など、拉致問題は現在も完全に終わっていなく、未解決なままである。
このように歴史的に見ると朝鮮半島は悪いイメージが強いという捉えが印象的であるが、地誌で学ぶことはあくまで地理学的な視点であり、都市地理学・自然地理学などから着眼する内容は、非常にいろいろな見方が学べる。特に「風水地理思想」による地形というお話は有名なものである。ここで述べる「脈」というのは、日本が朝鮮半島を植民地として支配する前後に行われた近代測量による地形図の作成が行われたときである。つまり、南北戦争が起きる前にこの南北道という名称があるのは「脈」という自然観が風水においてある種の立地選定のために用いられ、解釈するための方法として広く定着したのではないかと憶測されている。
4、日本式住宅から見る住文化の違いを知る
歴史的な流れはわかったもの、朝鮮半島との文化交流はどうなっているのか。これについては、いくつかの小項目から住文化という点に絞って述べていきたい。テキストの【日本式住宅から見る韓国の住文化】に入る。
日本が朝鮮半島を支配した時期に日本人が居住した地域には、戦後60年以上が経過した現在でも、当時日本人が建設し、居住した日本式の住宅が残っていることがわかる。
では、解放後にこのような日本式住宅はどのように用いられていたのかを見ていきたい。 植民地期末期には70万人を超える日本人が朝鮮半島に移住したが、その職種は様々であった。ソウル等には多くの日本人が居住し、「日本人町」のような地域も形成される場合があった。現在でも韓国都市を訪れる日本人観光客も、知らぬ間に過去の歴史が見える「痕跡」を目にする場合もあるという。テキストの図6.19では、畳が取り去られてオンドル部屋になっていること以外に本来あった浴室もなくなり、屋外に改めて作られている点が注目されるなど、日本式文化の住宅との違いをはっきり表す例であり、同時に受け入れられなかったということが確認されていることがわかる。また住宅の話に戻る。朝鮮半島にも日本と同じく四季があるが、大陸性気候のため、冬は刺すような寒さが続く。統計によると、東京の1月の平均気温が5度であるのに対し、ソウルは−2.5度だそうだ。同じ緯度上で気温を比べても韓国が日本より2度以上も低い。そのため、朝鮮半島では、昔から冬の厳しい寒さを乗り越えるため、建築方式に他の国とは違う独特の文化を持つようになった。それが「オンドル」(日本でいう床暖房)である。
オンドルとは、「床下からの暖房装置」という。朝鮮のオンドルは、床下に石を数条に並べて火炕をつくり、その上に薄い板石を乗せ、泥をぬり、さらに特殊な油紙を張って床とするもので、室外や台所のたき口で火炕を焚くと、その煙が火を通って部屋の反対側の煙ぬきから出る間に床下から部屋全体を暖める仕組みになっている。(石川、2014)解放後、60年を過ぎた現在においても、木造建築が多いこともあり、かなりの日本式住宅が消失しているが、地方都市や中小都市には、まだ相当数の日本式住宅が残っている。その残っている住居は当然、韓国の方が住んでいるので、上記に紹介した「オンドル」等の設備を組み入れ、和洋折衷ではなく、和朝折衷な住居として使用されている。
5、まとめ
私は、以下の2点を再整理することで朝鮮半島というという地誌を考察したが、テキストで挙げられる日本との比較・交流の意味ではちょっと別な方向性かもしれない。ただどちらにしても、日本との関係がはっきりわかり、比較することもまた交流を図っていることが分かるような事例を挙げることもとても重要なところだと理解することがあった。
【引用文献】
石川順一「新版韓国朝鮮を知る事典」、平凡社、2014年
辰己勝・辰己眞知子「図説世界の地誌(改訂版)」、古今書院、2020年
外務省「韓国 基礎データ」https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/korea/data.html#section1
外務省「北朝鮮 基礎データ」https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/data.html
パシフィックヴィジョン株式会社「朝鮮半島全図」、2012年
【参考文献】
高校の時に使用した教科書「新地理A―暮らしと環境―」、教育出版、2008年
アサヒ新聞アエラ編集部『北朝鮮からの亡命者 60人の証言』、朝日文庫、1997年
鄭箕海『帰国船 北朝鮮 凍土への旅立ち』、文春文庫、1997年
荻原遼『朝鮮戦争 金日成とマッカーサーの陰謀』、文春文庫、1994年
矢ヶ崎典隆「地誌学概論(第2版)」、朝倉書店、2020年