indigo hour 全曲超主観レビュー
前書き
2024年2月28日、私立恵比寿中学 8th Album「indigo hour」がリリースされた。結成15周年の幕開けを飾り、10人体制になって初のアルバム。当然収録楽曲も気合い入りまくりで、多彩なジャンルからアプローチしつつも、今回の大きなキーワード<青春>を軸として表現。
本記事ではその一つ一つを紐解いていくとする。
{01} Knock You Out!
記念すべき15周年幕開けの曲である「Knock You Out!」
他楽曲は、先行配信やラジオオンエア解禁などで既に聴けていたが、この曲だけは一切の情報がなく、謎に包まれていた。しかしながらその理由はイントロ数秒ですぐにわかることとなる。
イントロから流れるブラスサウンドが、ファンファーレのように挑戦者がリングに上がるような高揚感を沸き立て(ロッキーのテーマを意識してそう)口火を切って咆哮のごとく耳を貫く「私立恵比寿中学が Knock You Out!」
先行配信曲から推察するに、全体的にダンサブルな形に落ち着くのではと私も思っていたが、そこは私立恵比寿中学。そんなまとまって終わるわけねぇだろ!と言わんばかりの覇気を感じる最強のフロウ(歌い方)にのせながら、各メンバーが個性を強くアピールするリリックとサウンド。
特筆すべきは、ラストALLで職員一同も一緒に「私立恵比寿中学が Knock You Out!」と叫んでいるところだ。「御託はいいからついて来い、世界奪りいくぞ」とアツい気概を感じられる構成で「私立恵比寿中学チーム一丸で15周年の最高のものにするんだ」という想いがバシバシ伝わってきて最高。
そして、ずっとエビ中ファミリーだったKennyDoesさんが提供してくれたことがすっごく嬉しい。最高のリリックとサウンドをありがとうございます。
{02} Summer Glitter
打って変わって一曲目で火照った身体をクールダウンしてくれるchillゾーンへ突入。ボサノヴァ感あるリズムで急激なコードチェンジもなく穏やかな気分にさせることで、横揺れだけで満足できる形に向かわせるのはある種の高低差があって良いなと感じた。
例えるなら、Knock You Out!がサウナでSummer Glitterは水風呂+外気浴。音楽で "ととのい" の境地に達することができるとは恐れ入った。
3セットは決めたい。
楽曲の指向的な話をすると、南米っぽさを出すことにより、グローバルトレンドを踏襲していることがわかる。現ポップシーンの中でもレゲトンやラテンポップというメインストリーム(ざっくりいうと世界で超流行っているジャンルのこと)には向かわず、あえてのボサノヴァを採用しているところが面白い。
{03} BLUE DIZZNESS
今や世界を席巻するジャージクラブのリズム(5つ打ち)を真正面からとりいれ、メロディの音価(音の長さ)も短くして、歯切れの良いスタッカートを意識し、かなりアクセントやキメを強調した楽曲。
歌い方に関しても語尾はフォール(本来の音程から滑らかにずり下げる技法)気味で切なさや気だるさを演出しながら聴き手が引っ掛かるようなフックポイントを与えている。目眩の表現方法としては確かに効果的な感じも。
上記2Aでドリル(HIPHOPのサブジャンルの一つ)を入れ込んでいるところもかなり面白い。ダウナーな感じを含みながら、ぐらぐら足元がおぼつかないような危険状態を表現してるのかと。
前曲の「Summer Glitter」の横ノリのみに対して、「BLUE DIZZNESS」は横ノリと縦ノリ2つの要素が混在しているように思うので、次曲の最強縦ノリ曲「TWINKLE WINK」にうまく橋渡しをしている素晴らしいアシスト曲ともいえる。
{04} TWINKLE WINK
「Summer Glitter」「BLUE DIZZNESS」と次第に盛り上げを引き継いでここで一気にピークに持っていくLead trackである「TWINKLE WINK」80'sディスコチューンをコンセプトとして置いていそうな本楽曲。
クラップの要素もあり世界中がミラーボールでキラキラ輝きながら踊りまくっているあの頃の元気だった日本をリバイバルしつつも、決して古臭さは感じさせない音色と爽快さを醸し出す一音目から天に突き抜ける高音のサビ。聴くだけでも気持ちいいにきっと踊ったらもっと気持ちいいだろう。
早くこれになりたい。
イントロからエンディングに至るまで一貫して安定して聴こえてくるベースの下支えも心地よく、様々な音色がある中うまくまとめ上げている。欲しいところにドンピシャで入ってくるカッティングギターもあって色とりどりの楽器が鳴る中、楽曲全体通して音のバランスがマジ黄金比。聴きやすさ踊りやすさを極めつつも個性的な顔見せてくるすごすぎ。
なんといっても最高なのがサビのラストのHeavenとDreamerの4カウント。愛・勇気・希望・未来が込められた(と勝手に思っている)この締め方果てしなくクールで、全てが終わった後に会場中スタンディングオベーションで歓声と拍手が鳴り止まないところを毎日想像してしまう。流石のLead track。
{05} DRAMA QUEEN
一旦「TWINKLE WINK」からの盛り上がりを落ち着け、イントロはダンスポップのゆったりしたイメージを与えているが、曲が進むにつれて、アッパーな展開になり、気づいたら再びぶち上がっているKira Kira kawaii Tuneに落とし込み始める構成が聴いていてとても楽しい。
サウンドの鳴り方などに着目すると、現在、インターネット・ミュージックとして台頭しているハイパーポップを意識して作られていると感じた。
オートチューンのかかり具合も最高のバランスで、実像<リアルの姿>と虚像<作り物の姿>が見え隠れする素晴らしいチューニング。音像のザラつきがそれを助長させていて、歌詞の世界観と曲が非常にマッチしている。
そしてここでハイパーポップを採用してくるか〜とエビ中楽曲チームの嗅覚の良さにただただ感服するばかりだ。もちろんプロなので、僕らが普段音楽を聴いているよりもはるかに知識があるとは思うが、それをエビ中にあてみようとチャレンジングな姿勢のおかげで、新しいエビ中の世界を見続けることができる。これからもその世界を切り開いてくれると思うと、ワクワクが止まらない。
{06} CRYSTAL DROP
「TWINKLE WINK」や「DRAMA QUEEN」と続いてきたディスコフロアを抜けて一人家路に着いた時の哀愁を存分に演出する、00's王道J-POPをオマージュした一曲。
利用している音数の種類が他楽曲よりも抑え、特殊なリズムも多用していない構成となっていてボーカルを引き立たさせるものに。なのでコーラスを含め、歌がよく聴こえ、私立恵比寿中学渾身の歌唱力がしっかりと味わえるようになっている。
落ちサビ頭の二段構え&半音上げも超王道手法で結局こういうものでいいんだよなとしみじみ。また、サビ前Cメロもとてもメロディアスなコード進行になっており、ここからサビですよ〜という期待感を醸し出していて、非常に聴きやすい。
ここに「CRYSTAL DROP」を配置することで、『indigo hour』のアルバムとしての完成度の高さがはっきりとわかる。先述で記載した通り、前曲からの引き継いだ一連のストーリーになるよう構成されていて、この並びに唸なってしまった。
{07} Hello another world
真山りか・安本彩花・星名美怜・小林歌穂・中山莉子の高学年メンバーで構成されたユニット曲。光が差し込んだ部屋を飛び出した先にある、壮大で雄大な空間を想起させてくれる優しいサウンドから始まり、5人が一つ一つ言葉を紡いでいくように大切に歌われている。
特徴的なのは、イントロやエンディングに出てくるリフが学校のチャイムの前半のメロディが置かれていて、輪唱・コーラスを含んでいるところから合唱曲にも聴こえてくる。本アルバムの中でも一番 ” 学校 ” を強く感じる。そしてイメージするなら朝。「CRYSTAL DROP」での寂しくもの悲しい気持ちから朗らかに明るい気持ちが伝わる配置に。
これは個人的な感覚だが、アーティスティックで洗練された6人時代にリリースした楽曲にコンセプトが近いところがあり(今がそうじゃないということではなく、その当時の方向性としてという意味なので、読み違えないでいただきたい)、どこかあの頃を思い出す。
{08} トーキョーズ・ウェイ!
『マッシュル -MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』 エンディング タイアップ曲。イントロど頭からサビと強烈なベース、小刻みにカッティングギターを鳴らし、これまでの曲の流れとか関係なく一気に「トーキョーズ・ウェイ!」色に染め上げる。まさにパワー系楽曲。
バックサウンドも歌詞とリンクしていて「ワンワン」直後に上手いことシンセで犬の鳴き声に聞こえるような音色にしていたり、「レコード探しに」の部分では針をレコードに落とした時のノイズが入っていたり、2Bではおもいっきりジャジーな感じに仕上げている。楽曲の中にニヤリとする仕掛けがたくさん施されていて、聴けば聴くほど楽しい。『マッシュル』も「あれ…これって絶対これオマージュだよね」みたいな内容も出てくるので、それ自体をオマージュしているという入れ子構造になっているところが素晴らしい。
全体的にリズムのキメも多く、バチっとハマった時の快感を何回も得られるので、リズム中毒者は過剰に摂取しないほうがいい。現実に戻れなくなるぞ。(そんなことはないのでご安心ください)
{09} STAY POP
桜木心菜・小久保柚乃・風見和香・桜井えま・仲村悠菜の低学年メンバーで構成されたユニット曲。歓声のSEと若干のエコーがかかった歌唱から始まるので、まるでスタジアムの中心で歌っている様子が思い浮かぶ(チアっぽい)。ただAメロからは消えて、日常で5人が歌ってるような場面に変わる。
1サビが終わりラップパートを過ぎてドンドン加速を伴いながら、次の場面へと切り替わる。空間系のサウンドが当てられていてBPMも1.5倍ぐらい上がるので、タイムトラベルもしくはワープのような何処かへ進んでいくような情景を想起させる。このセクションが終わると鳥のさえずりのSEが入るので、夢から覚める(元の世界に戻る)ような演出がなされていて物語性が強い。
各歌唱部分に関しても、宛書きしたんじゃないかと思うぐらい、各メンバーの長所を生かしたパート割で、それぞれの個性がしっかり出ているのも嬉しい。
歌詞に「Pop」を多用し、かつリズムも跳ねるような構成になっているため、楽曲全体的に低学年メンバーらしい弾ける明るさが際立っている。ワウギターやブリブリなベース、軽やかなピアノなど、各楽器のサウンドも非常に色々な顔をみせるというバラエティーの豊かさにより聴いていてずっと楽しい。これぞ、ポップミュージック。
{10} kyo-do?
本アルバムラストソングである「kyo-do?」指パッチンのSEの導入から華やかなブラスサウンドが彼女達のオンステージを演出している。
Bメロからサビにかけての間奏が素晴らしく、F major scaleの構成音を1音目から階段を駆け上がるように7音目まで使って期待感持ってサビに突入する。単純だが強力なフレーズで同じ手法を使っている有名曲でいうと、Mrs. GREEN APPLEのStaRtとかがそう。耳馴染みがあるからこそ強烈な印象を与える。
また、落ちサビだけで終わらすことをせず、裏に控えるもう一つの新たなサビを置くことで、盛り上げ度をさらに高い到達点へとに持っていき、ラスト「大好き」でキメを作りまとめあげる構成、流石に唸り散らかしてしまう。
一曲だけでは感じなかったが、アルバム通して聴くと強烈にフィナーレな感じを受け、これまで紡いてきた一連のストーリーを大団円で終わらすエンディングにふさわしい曲だと思った。(偶然かもしれないが、「Knock You Out!」と「kyo-do?」どちらもブラスサウンド使用してるところとか)
総評
先行配信で一曲ごとに公開していった部分もあり、アルバムが単なる寄せ集めプレイリストになるかと懸念していたが(めっちゃ失礼)通して聴いてみると大方の予想を大いに裏切ってくれる、最高の構成だったと感じる。テンションの抑揚も緻密に計算されて配置されていたと思うし、繋ぎ方から一本のストーリーを想起させる素晴らしい出来だと思う。
特筆すべきはラストの「kyo-do?」で、多方面から得たエッセンスを凝縮したような個性しかない楽曲たちを綺麗にまとめ上げたとてつもないパワーを発揮した楽曲。もう奇跡としか言いようがない収まりの良さ、シンデレラフィット。
これからこのアルバムを引っ提げたツアーが開始されるが、そこではまたどんな曲順で、どんな過去曲とのカップリングかなさせれるのか今から既に期待しかない。音源だけでは伝わらないライブならではのパフォーマンスも楽しみの一つだ。私立恵比寿中学結成15周年。最高な年になるよう祈念して、本記事の結びとする。
最後まで見ていただきありがとうございました。