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「楽しい?」

今日、別部署の上司と久々に電話で話した。用件が済んで電話を切ろうとすると、向こうから「東京、楽しい?」と聞かれた。

僕は「楽しいですよ!」とすぐに答えたが、電話を切ったあと、ある事を思い出していた。

数年前、会社のインターンシップ説明会に声がかかり参加した。各部署から集められた8人の社員が壇上に上がり、大学生数十人の前で体験談をひとしきり話したあと、質問タイムになった。

1人の学生が「仕事を辞めたくなったことはありますか?」と質問した。僕は「ないですよ」と答えたが、ある先輩が「真面目に仕事してたら、辞めたくなることくらいありますよね」と話し始めたので、僕は「いや、僕が真面目にしてないみたいですやん!」と突っ込んだ。その場は笑いで終わったが、この時から違和感を感じるようになった。

「仕事を辞めたくなるのが普通なのか?」
「辞めたくならない自分はおかしいのか?」

働き始めて17年、幸い自分の希望通りずっと変わらずテレビ制作で番組を作り続けている。

30代後半になり、また一つ違和感を感じるようになった。40代の先輩たちがいつも辛そうにしているように見えたのだ。役職が上がれば責任も大きくなり、もちろん様々なイザコザに巻き込まれているのだろうが、どうにも「40代たるもの、仕事が楽しいはずがない。辛くて当たり前」と思っているように見えてしかたなかった。

去年、ある後輩から「仕事が辛い」と相談を受けて話していたら「テレビ番組は誰かが辛い思いをしないと作れないと思っている」と言われた。

日々の仕事でストレスがないわけではない。でも「辛くて当たり前」なんて仕事の仕方が正しいわけない、そう思いたかった。

テレビの世界は、想像を絶する頭の回転の速さで話す芸人さんや、同じ人間とは思えない骨格の美男美女、やたら面白いアイデアが浮かぶ構成作家や、異常なスキルでピカピカのVTRを仕上げるディレクターなど、けしからんほど素晴らしい人たちにたくさん出会う。(ただただけしからん、一生許さんぞという人たちも一定数いるが)

そして自分たちが作った番組で誰かが笑ったり泣いたりしてくれるのだ。本当は楽しくないわけがない。

現状、視聴率を取ることがテレビマンの大きな任務であり、その任務を放棄するつもりはない。でも楽しんだ結果、成果を残したい。昔違和感を感じていた自分に、仕事が辛い後輩に「楽しんでいいんだ」と思ってほしい。

これから数年が僕のディレクター人生の山場になるだろう。「あの人、楽しそうに仕事してたけど、全然ダメだったね」と言われるのか、それとも違うのか、このnoteを最後まで読んでしまったあなたに見届けてもらえたら幸いです。