【少年・青年・中年・老年小説集】「小心地滑国内旅行記…〈秩父への旅①〉」
ユキオは32歳になった。
まあまあ名前の知れた出版社で校正社員をしていた。
それまで、マンガ編集者をしていたが、
年収はアルバイト並みの金額だったこともあり、
まあまあの貧しい生活をしていた。
ところが、現在の会社では年収は倍増した。
降ってわいた高収入に、
ユキオはかえって編集時代以上にケチになった。
いつ首になるかもわからない。
人間関係は苦手で、
すでにうまくいかなくなっていた。
1年たった時点で、かなりの貯金ができた。
1周年を記念して、ユキオはささやかな小旅行にいくことを思いついた。
ユキオは勤め先にある旅行の資料などを空いた時間に調べてみた。
温泉に行きたいと思っていた。
ユキオは温泉が好きであった。
閉店前になると安くなるラドンサウナや祖師ヶ谷大蔵にある祖師谷21などの銭湯の金額で利用できる温泉を愛用しているくらい、温泉が好きだったのだ。
アトピー性皮膚炎が持病でもあり、
肌にいい温泉がいいであろう。
それにはやはり湯治で有名なところがいいと考えた。
ある本で、秩父に鉱泉があることを知った。
派手なイメージがないところがいいかもしれない…
ユキオはそれからるるぶやJTBガイドを図書館から借りて読んだり、
古本屋で秩父が載っている本を買ったりした。
夢はぱんぱんに膨らんでいた。
ユキオは担当の月刊誌が校了したタイミングで
秩父旅行を実施することに決めた。
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