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トートタロット人生相談所⑬「3人の魔術師…模話氏編⑥~マリネさんの茗荷谷鑑定研究所~」

マリネ鑑定研究所は茗荷谷にある。
駅についたときは12時半くらいだった。

住所に向かって行ったが、この辺りの土地勘がなく迷った。
業界では著名な印刷所があるが、ますますわからなくなったのでマリネさんに電話をかけた。

いま歩いている桜並木の北側の歩道をもっと西側に歩くように言われた。
しばらく歩くと背の高い美形の、ちょっと怖い感じの女性が近づいてきた。


「模話さんね。私がマリネです」
「申し訳ありません。ご迷惑かけました」
「こういうときは謝るんじゃなくて感謝するとこよね。あなたはこういうときにたいてい迷惑かけたって感じて自分を責めるでしょ?相手は好意で迎えにきたわけじゃない?お客さまだってこともあるけど…相手は感謝の念は感じないし、ネガティブな相手の感情を感じていい気分にはならないものよ」
「すいません…違いました。ではやり直してみます。ええと、マリネ先生、わざわざ出迎えしていただいてありがとうございました。とてもうれしいです」
「ぷっ、ほんとに何にも社会のこと勉強してこなかった人みたいね。ふふふ、いいわ。ようこそマリネの茗荷谷鑑定研究所へ」
「よろしくお願いいたします」
「ここよ」
「えっ?」

プレハブの物置小屋だった。
なかは綺麗だったが、板の間にテーブルと椅子以外は棚がひとつだけだった。ただ、ピンクの塩のかたまりだとか、魔除けの置物や護符のようなものがセンスよく貼られたり置かれていた。

「ここはね、知り合いというか元々お客さまだった人にただで借りてるのよ」
「そうでしたか」
「座ってください」
「はい」
「時間はどうしますか?はい、料金表」
「はあ、結構低価格なんですね」
「ここをただで借りられてるから実際の鑑定料金だけもらえるだけでいいってこともあるわ」
「じゃあ前金で一時間半でお願いいたします」
「ありがとうございます。ちょうどいただきます」

初めは他の占いとかわらず、基本的な話だった。特にかわったところもなく、ごく普通の人ですごい霊能者という威圧感とかはまるでなく、リラックスして話ができてほっとしていた。

「では模話さんが今回特に知りたいことや、現在気になっていることはなんですか?」
「あの…ここにくるまえにみていただいた先生方にも聞いたことなんですが…小学校時代でのことです」

しばらく当時の状況を説明したあとに、マリネさんはほんの私の頭の少し上の方を時々みながら、早口で喋りだした。

ほぼ、マリアンヌさんと御形先生と共通した内容だった。

話し始めると先生は、初めに会った印象とはかわって、たのもしく別人のようで、目を見ると時々誰かが入れ替わるように思えた。
それもひとつの話題に何人かのガイドが入れ替わるように。
時に男性の司祭のようだったり、みこさんだったり、王公貴族のようにさまざまな人たちを感じた。
その語り口は高貴な語り口調でほれぼれするほどであった。

マリアンヌさんが守護から受け取った内容とほぼ同じことも言われたことにも驚いたが、マリネさんはもっと広範囲のアドバイスで…たくさんのガイドの人たちが関わっているかのようだった。

いたって普通な感じだが、時々首がかくっと後ろに倒れる。それも1秒もかからず、またもどってくる。それだけが他の人にはみられない特徴だった。

「あれ?私いま寝てた?」
「時々かくんって頭が後ろに倒れますが、寝てはいらっしゃらないと思います」
「そう。寝てたら起こしてくださいね…あまりないんだけど…ガイドさんの情報量が多すぎるとオーバーフローみたいになって、眠っちゃうことがあるみたいなのよね」
「マリネさん、そんなにガイドの方々は私が危機的な状況だとおっしゃってるんでしょうか?」
「まあ、そういってる方もいるみたいだけども、高次元の方々は自由意思を尊重しているから押し付けてるわけではないわよ。でもあなたの状態とか性格とか情報がはいってくるけど…あなたたいへんだったわね。自業自得だけど…それも自由意思だから…」
「なんとかいまの状況を少しでもよくしたいのです。どうか、いま最善のアドバイスをお願いいたします」

「いろんな情報がたくさんきてるけど…あるガイドのかたがこれを伝えてほしいって言ってるわ。グノーシス主義者であなたが1400年前あたりの今のドイツに転生してたときに…一緒にある結社での儀式に参加したことのある人みたいね。ガンジーさんみたいなイメージよ」
「…」

「言語化してみるわね…あなたは本来の進化のプロセスを通り越して次の次元に進もうとして焦っているって。あるドイツの独裁者が狂気に堕ちたのは、自己奉仕と他者奉仕の収穫プロセスの違いを理解せず、いっそくとびに収穫レベルの波動に執着したことがあります。もっと地に足を着けて確実に進化のプロセスをたのしんで味わい学び、慌てないで本来の魂の目的に沿ったあなたらしい生き方に戻りなさい。この星に転生した本来の目的を思い出しなさいっておっしゃってるわ」

「あっ!それ、さっき読んだラー文書にそう書いてありました。いま持ってますから見せましょうか!」
「あなた、ガイドさんの伝えてくださっている意図をちゃんと受け取ってる?私がいまその本みてもしょうがないでしょ!」

「すいません、重要な話なので、マリネ先生のいまの言葉メモしていいですか?」
「ぷっ、いいわよ…まじめなんだかふざけてるのか…まさに魔術師なのかもね、あなたは」

「魔術師って…御形先生から、トートタロットを一式いただいたんですよ」
「あれね、私が御形さんに3つ80枚のトートタロットをあげたのよ」
「え?そうだったんですか?」
「ガイドさんから、3人の魔術師がやって来るから、この80枚のトートタロットカードを渡してあげてほしいって言われたのよ」
「…いつの話ですか? ということは…私が現れることをもうわかっていたということなんですか? というか…私がカードをもらったということは…私が本当に魔術師の三人の一人なんですか?」
「御形さんに会う1年くらい前に…もう3年くらいまえかしらね? ガイドさんに三人の魔術師が私に会いに来るってメッセージを受けたのは…」
「御形先生は開業1年とおっしゃいました」
「そうね、2年くらい前にお客さまとしてみえたわ」
「御形先生がトートタロットを知ったのは、結構最近の話なのですか?」
「そうね、そのときにガイドさんからトートタロットを学んで占い師になってみたらというアドバイスがあってね」
「1年してから開業したんですか? そんなに早く?」
「ほんとはすぐやったらって伝えたんだけど、生真面目だし一通り勉強したみたいよ…」

あっという間に時間が過ぎた。次のお客さんの予約があるので、あわてて荷物をもって、おいとました。
マリネさんにはこちらからの質問にも快く答えていただいた。
とてもできた方だった。また来たいことを伝えた。
帰る間際に、それまで鑑定ではさんざん厳しいことを言われていたのでかなり落ち込んでいたのだが、自分にとって救いがあることをおっしゃってくれた。

「あなたは今回の人生でひどい転生をおくってしまったみたいだけどね、本来はまあまあ年輪をへた魂みたいだわ。ガイドに高次元らしき方がいらっしゃるし、なぜだか星の方々もサポートしにきているようだから…もしかすると、立ち直る可能性はあると思います」

「だからね…やけにならないで、がんばってみてくださいね。ガイドさんからのプレゼントのトートタロットのカードを大事にしてね。トートタロットを学んでみたら? もしかしたら興味をもつかもしれないし、そこから素晴らしい人生が始まるかもしれないわ。だから、絶対に諦めないで、がんばってくださいね」

突然、涙がとまらなくなってしまった。なんとか「また来ます」とだけ伝えた後は泣き声で言葉にならなかった。プレハブの外に見送りに出てくれたマリネさんに、何度もおじぎをして感謝を伝えてプレハブを出た。
マリネさんは細い路地の向こうから、私が見えなくなるまでずっと手を振ってくれた。

顔が涙でみっともないくらい濡れていたが、そのまま駅に向かった。
池袋の書店でトートの書を探した…それを買ってから社員宿舎の自宅に向かった。

社員宿舎のある駅についたのは午後4時すぎ。夕方が近いが、空を見上げると太陽がまだ明るく心地よかった。

明日から新しい職場が待っている。体の奥から力が湧くような気分は、何十年ぶりかもしれない。

誰かの歌の歌詞のように…このまますべてがかわりそうな……束の間かもしれないが…今はそんな気がしていた。

【続く】
©2023 tomas mowa