「あのマンガ、もう一回だけ読ましてくれ…」14〈サケトレインマンガ④~劇画編1 つげ忠男先生、辰巳ヨシヒロ先生〉
模話1「つげ忠男先生ね」
模話2「義春先生の弟だよね。絵は似ているけど作風は結構違うよね」
模話1「忠男先生は一時期、ワイズ出版の『つげ忠男漫画傑作集』に北冬書房の『つげ忠男選集』が出てさ、かなりの本を買ったかな?」
模話2「兄弟の違いは何?」
模話1「評論家の先生みたいには無理だよ…」
模話2「いいよ。もわくんの主観でどうぞ」
模話1「作品がいまや手元にはないので、記憶だけでいうしかないんだけどさ…忠男先生の作品を最初に読んだのは晶文社刊の『きなこ屋のばあさん』だったと思う。文学部だとさ…晶文社は結構文学よりの印象あるよね。つげ義春先生の『必殺するめ固め』と同じ出版社だし…同じ感じかなって思って買ったんだよね。でも実際にはさ…いろいろ読んでくと、京成線とかの東京下町とかなのかな? いまはかつてのワイルドな感じってどこにいってもなくなったと思うんだけど…戦後から経済成長期の新宿とかの〈街が揺れていた〉みたいな時期とかいわれてるけど…ボクは知らんけどさ(笑)…忠男先生の世界はさ…どっか取り残されたてえのか…乗り遅れたってのか…そういう雰囲気。そういうやつが多くて…最初のイメージは覆されたわけ…わかる?」
模話2「うん。まあね。反社的な感じってわけではないのね?」
模話1「うん。もっと、なんてのか…よく無頼って言葉出てきたと記憶するけどね…ぼのぼののおとうさんはぶらいあん」
模話2「(笑)。懐かしいね。血液銀行の話は覚えてるよ。五木寛之みたいなインテリくずれの無頼の男が、血液売りに来ている人間を団結させてストライキみたいな…団体交渉みたいにかけあって…最後に血液銀行の人からお金をせしめて自分だけいただいて…それでおひらきになっちゃうみたいな救われない話だったっけ?」
模話1「そんな感じかな? あまり、複雑な筋書きってよりは、時代の虚無感だとか、砂漠みたいな乾燥したむなしさみたいなものが表現されていたように思うね。ちょっと舌足らずで申し訳ないけどさ…」
模話2「よく、ラストシーンで主人公が虚空を見上げて…遠くで…ガシャーンとかいう街並みとか路地裏からきこえてくるような、やけになってものを投げつけている物音がきこえるって感じのイメージ? いなかから上京したにんげんだったから…都会の高度成長時代の、荒れた下町とか…時代の矛盾みたいなものを感じ取って興味深かったかな…」
模話1「義春先生は、もっとエンターテインメントな感じと、やはり、文芸作品的な感じだし、ウエットなとこもあったけどね。忠男先生は映画に近いってのか…もっと西洋の映画みたいな劇画っぽさはあったのかな? 間違ってるかもしれないけどね…でも、忠男先生も義春先生とは違った広大さがあってさ…とりとめもない東京下町の戦後から70年代の広大なかわいた風景を見ている感じで…なんだか、やりすごせない魅力があったのよ」
模話2「例えば義春先生の『長八の宿』のラストシーンって太宰治先生の『富嶽百景』とかさ井伏鱒二先生の世界の影響とかいわれてなかった? 忠男先生の場合の〈ガシャーンの夜のラストシーン〉ってのはぜんぜん違うよね(笑)」
模話1「義春先生の木更津かな? 最後に猫の肉球をまぶたにあてて夜の浜辺でねっころがってる話とか…あの手のちょっとアングラ映画の影響なのかな? ちょっとその手の雰囲気ある作品って二人とも共通してあるように感じるけどね。兄弟だと…兄はウェットでエンターテインメントで饒舌な表現だけど、弟はもっと乾いていて…虚無的で、無頼な雰囲気になるって感じかな? でも…二人とも、広大な世界をもっていて一概にこうだっていえないスケールの作家ではあるよね…」
模話2「とはいえ、忠男先生はやはり、お兄さんの影響があるよね。精神病院の話とかもさ…題材は影響されているみたいだね」
模話1「LPガスを設置する業者の話かな? ちょっと感覚的な、官能的な実験作みたいなやつは似てるよね。資質的に似た者あるのは兄弟だから当然あるだろうけどね…」
模話2「もわくんが好きな作品は?」
模話1「さっき、もわもわくんが言っていた血液銀行の話とか好きだね。あとは、片足に障害をかかえたすごいまじめな人の話とかね…少し高橋和巳先生みたいな雰囲気あるけど、感情が抑圧されていることを自分でもよくわからない不器用な人間とか、自分でもその虚無感に説明がつかない人の描写ってのか…ボクがそういう若い時代を送ったこともありで…惹かれる世界だったね。反対に野獣的な、生まれたまんまのタイプもうまく書かれていたとおもうよ。寮に住んでいる話で、まじめな青年ががまんしきれずに〈おまえはきたないんだ〉的なことを風呂場で言ってしまう話とかね」
模話2「無頼の話よりも、もう少し庶民的なキャラの話が好きだったってことだね…あの時代の普通のひとたちの生活がすけて感じられるのがすきだったってことだね」
模話1「そうだね。絵がね…兄弟とも魅力あるから…長い期間コレクションしていたかな…」
模話2「今回は劇画ってことで…辰巳ヨシヒロ先生はどう?」
模話1「コミックドンっていう、神保町の専修大学側の交差点のほうに、かつて古本屋さんがあってさ…辰巳ヨシヒロ先生がやってらしたのよ」
模話2「何回かサインもらおうと思ったんだよね(笑)」
模話1「けっこう恥ずかしいから、チャンスを逸したね。小学館の『コップの中の太陽』にサイン欲しかったんだけど…表紙がインクでぐちゃぐちゃだったこともあり…それ以上に、雰囲気がけっこう怖そうでさ(笑)、いくたびに緊張してだめだったね(笑)」
模話2「つげ義春先生の2冊と同時期に、高校時代に立ち読みしたんでしょ?」
模話1「そうそう…小学館文庫『鳥葬』ってのがあってね、大好きでさ」
模話2「それ以外でもけっこう短編集は読んでたよね」
模話1「ウィキペディア見ると、結構読んでてさ、あっ、これも知ってるって…1960年代からの劇画はほぼ読んでるかも」
模話2「劇画って言葉は辰巳ヨシヒロ先生がつくったんでしょ?」
模話1「そうらしいね。偉大な作家だよね。とにかく面白い。題材も幅広いし、エンターテインメントから純文学的な世界まで…おもしろいよ」
模話2「好きな作品は?」
模話1「ボクのオリジナル曲に『バラが咲いた』ってのがあるんだけどさ…マイク真木さんとマルコシアスバンプから影響受けてはいるけど…実は辰巳先生の作品から詞を書きました(笑)」
模話2「その話はいいとして(笑)、作品をお願いします」
模話1「『コップの中の太陽』の2作を紹介します。傑作よ…『花いじめ』は松本清張みたいに妻を殺して土に埋めるんだけど…それがアパートの中っていう…ちょっとありえないんだけど…衝撃的な作品。『全部みられます』はもう、昭和劇画の傑作だね。ストリップ劇場ですごく下品な客が実は電車のガードをくぐると下品になって、戻ると上品な日常に戻るって話。この本はコレクションでは長く持っていたかな…」
模話2「一時期は仏教関連のもの以外は描いてなかったみたいだけど、2000年以降に劇画をまた書き出したよね」
模話1「うん。買ったりした。うれしかったね。再評価されてアングレーム国際漫画祭特別賞とかさ…よかったなって」
模話2「海外で翻訳されてるってすごいよね…続く~」