【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑨【明日は人生初ステージ1】~」
いよいよ明日がライブの日だ。
今夜、Sの住む街のスタジオでバンド練習がある。
Sが夕刊配達を終え、ユキオがマンガ編集のバイトが終わった後、午後7時からの二時間。
バイト先にギターを持ってきたのでそのまま水道橋に出て、高円寺駅に向かった。
ユキオが上京したての頃、野方のアパートからよく高円寺まで自転車で行ったものだ。
もう5年以上がたち、ずいぶん街も変わったようだった。
貸本やはなくなっていた。
はっぴいえんどのファーストアルバムの林静一さんのイラストに書かれている製麺所の「ゆでめん」の暖簾は健在。
しかし、もう麺だけしか売っていない。以前は立ち食いそばうどんが食べられたんじゃなかったっけ?
記憶があいまいになっていて思い出せなかった。
ニューバーグの値段は少し上がっていたが相変わらずあってうれしかった。
ワールド餃子じゅうじゅうはどうやらなくなったか?
とはいえ路地裏は相変わらず。なんだかほっとした。
スタジオにつくと珍しく先に入っている。
15分前ということはこの前の一時間は空いていたわけか。
スタジオに入るとFがSが持っているレスポールジュニアを弾いていた。
DがFのベースを弾いていた。
ドラムはK。Sはボーカルをやっていた。
「ツイストアンドシャウト」だった。
たぶんビートルズのバージョンをコピーしたんだろう。
Fは握力の強いなかなか面白いギターの音色で黒人を思わせる音がなかなかよかった。
しかしチューニングはひどかった。
ユキオは挨拶を省略してセッティングを始める。
Fがフェンダーアンプを使っていたのでローランドにつないだ。
リバーブがついてるスリーボリュームできれいなディストーションサウンドになる。これはこれで気に入っていた。
ユキオのチューニングが終わる頃に「ツイストアンドシャウト」が終わった。
Fがご機嫌で「コグレさん、明日ですね。目にもの見せてやりましょう」。
「は?」爆笑した。
返答はせずに「金返せよな。今回はSとおれは二時間しか出さないから一時間ぶんは払えよ」と伝える。
「わかってますよ。練習通しでやりましょうか」
「わかった。ベースチューニングやれよ」
「コグレさんやってくださいよ」
「チューナー持ってないのか?」
「Sのがあるから、そいつで願います」
仕方ないからシールドをユキオはバッグから短いやつを貸してやった。
最後の練習が始まった。