【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう③~」
サマータイムブルースが始まった。
Sは、いちおうサマータイムブルースを覚えてきたような感じだったが、
ドラムのKがその曲を知らないようだった。
「Kくんさ、サマータイムブルースはできないかな?」
「ええ、ちょっとまだ、準備してないんで」
「じゃあ、4曲の中でできるのはあるの?」
「全部できますけど、いまはわからないです」
日本語がよく通じない感じだった。
めんどくさいので、カモンエブリバディならなんとかエイトビートをたたいてもらえればできそうだから、ユキオはカモンエブリバディをやってみることにした。
セックスピストルを聴いているというSだったので、
セックスピストルズのロックンロールスウィンドル風のカモンエブリバディをなんちゃってで弾いてみた。
歌詞がカタカナ英語と適当でいいかげんなメロディだったが、
元気があった。
なかなかいい。
Kもエイトビートなら普通に叩ける。
ベースがないが、バンドっぽい音に興奮した。
Sのボーカルはロックっぽくはないが、
洋楽のノー天気アイドルロッカーのようで面白い。
ケンジ&トリップスのケンジのような印象もあるので、
これは思ったより楽しめそうだった。
Kが原曲をまったく知らないようで、
ブレイクでも叩いていてわらったが、
ユキオは別に無理に止めなくてもいいやと思った。
面白いので、なんちゃってカモンエブリバディを続けた。
180の大柄のDが、途中から参加してなんだか盛り上がってきた。
1曲終わると、Dが興奮した声で話しかけてきた。
「たのしいっす!」
本気で思っているのがわかったので、
ユキオもにっこりした。
Sが「コグレさん、ギターうまいっすね」と驚いた感じで話しかけてきた。
ユキオは何をどう説明していいやらわからないので、しばらく言葉に窮した。
うれしい気持ちもあったが…実際には自分の技量のレベルが決して高くないということを彼らに説明するのがめんどくさかった。
ユキオは小声で少し笑いながらこう言った。
「バンドでギター弾いて、生まれて始めてうまいって言われたわ」
「コグレさん、どのくらいキャリアがあんの?」
Sが悪気のない感じで言ってくる。
「中学くらいからフォークギター弾いて、高校からエレキギター弾いてるけど、ちゃんとやったことはないよ」
「まわりにこんなに弾ける人知らないんで」
ドアが開いた。
Fがやっと到着した。