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【少年・青年・中年・老年小説集】「モノベさん外伝…〈仙人と遇った話⑦〉」

土曜日の朝方だったろうか…
期せずして明晰夢がやってきた。

マリネ先生の鑑定に行く前の明晰夢だ。
これはありがたい。
夢だと思いつつも、そう思った。
なぜなら、目の前には老師が立っていたからだった。


「老師、待ってました!」
「ははは。いろいろがんばってなんとか
シークレットに取り組もうとしてるみたいだね」
「いや、ウラユキオと会ってから、
自分なりにこのままの祈り方じゃあ、
自分のネガティブな意識がますます固定されるって
気づきました。なので、
いったん、シークレットは保留にして、
潜在意識のクリアリングができるなら、
それをやりたいと思っています」

老師は、ユキオがいつもの茶畑に行きたいと
感じていることに気づいたようで、
一瞬にして目の前が茶畑にかわっていた。

「ああ、いい景色ですね。ここに来たいって
伝わりましたか」
「ふふふ。ここは君のふるさとの場所の第4レベルの領域だよ」

確かに、子どものころの記憶の茶畑に似てはいるが、
もっと光が波打つように漂っていて、
色はゴッホの絵画のようでもあり、
モーリスドニの絵画のようでもあった。
視覚が触覚のように働き、
見ているだけでその景色を撫でているような
くすぐったい快感があった。

「ユキオくんは、自分の潜在意識に会ってみて、
ネガティブな状態に失望したようだね」
「そのとおりです。でも…
あんなひどいネガティブな状態なら、
もっと現実はひどくなるんじゃないでしょうか?
三次元は実現までに時間がかかると聞きます。
つまり、絶望的な状態はこれからやってくると
考えるべきなのでしょうか?」

老師は目の表情はやさしいままだったが、
意外と強い口調で、はっきりと伝えてきた。

「ユキオくんは、確かに潜在意識にネガティブな領域が
広がっているね。普通なら、
この状態だと、もっとたいへんな状況になっていると思うよ」
「…じゃあ、なぜ、この程度といいますか…
もっと破滅的な現実に至っていないのでしょうか?」

「君は、どう思う?」
「…。はっきり言ってこの潜在意識の状態にショックを受けていますし、
冷静に判断するのは難しい精神状態です」
「そうかね。無理もないか。君はかなり、いろいろな本を読んできたようだからね。影響もあるだろうね」

体が宙に浮かんだ。
空を飛ぶというよりも、透明な飛行機の操縦席についているように、
老師の左側にいたまま、急に前方に進み始めた。

しばらく空をとぶ心地よさを感じた。
すると、地元では知らないものはいない、
山の頂にいた。

あたりは秋の紅葉の前の時期で、
季語でいう「山澄む」にぴったりの
透き通るような景色が広がっていた。

ひこばえのある、
大きな切り株に二人で座った。

「ユキオくんのお母さんは、いまどんなふうだい?」
「母親は、年老いてますが、まだ元気です」
「驚くかもしれないけどね…君はお母さんの霊体と
重なってみえるんだよ。意味はわかるかな?」
「え…母親がボクに生霊としてとりついているということですか?」

「ははは。逆だよ。残念ながら…
癒着という言い方をしてもいいが、
どうやら君はマザコンで、
母親の状態を体に映したりしてるみたいだね。
ここ数年、体の調子はどうかね?」

ユキオはここ数年間の体の異常と、
自分が生霊として母親にとりついている事実を
混乱する頭で、なんとか受け止めようと努力した。

「ある症状で、大病院含めて何度も検査を受けましたが、
その都度、原因はわかりませんでした」
「その症状は、読み取ると…お母さんの病気の特徴と、
ほぼ同じじゃないかね?」
「そういわれてみれば…この異常なだるさや、
体がうまくうごかないことや、脳のよくない状態も、
そういえば、よく似ているようです」
「要するにお母さんの肉体の状態を体に
映していると考えたらいい…。
お母さんは高齢でしかも病気をしている…
それを自分が引き受けたらどうなるかね?
自分が何をしているかわかったかい?」

ユキオは納得した。
しかし、なんのために自分が自分から母に霊的に癒着しているのか
よくわからなかった。
本当に自分の意思でそうやっているのだろうか?

「どうしてなのかは、自分で決めているだろうから、
いずれわかるはずだよ。
でも、よくないことはね…もし、たとえ
お母さんの体の負担を自分が犠牲になって
受け取ろうとしたところで…
お母さんの同意を受けないまま、
そういう状態をつくりだしているとしたら、
君は彼女の自由意思を侵害していることになるんだよ。
つまり、おせっかいでも善意でも、自由意思をおかすことは、
宇宙のルール違反だからね。
悪いことは言わないから、
即刻彼女から離れることだね。
ヒーリングする場合は、ガイドを通じて宇宙のルール違反に
ならないようにやることだ。
そのやり方は、バーバラブレナン氏の本に書いてある通り。
君も何度も目を通しているはずだよ」

「わかりました…
あと、もう一つ教えてください。
潜在意識のあの状態は、もしかして、
母親の潜在意識も入っているってことなのですか?」

老師は、またいつもの穏やかな表情と、優しい声のトーンに戻り、
ゆっくりとユキオに話しかけた。

「そこまで気づけば、あとは自分で浄化できるでしょう。
ある意味、君はお母さんに憑依していたわけだから、
その意識に同化していたわけだ。
だから、彼女の潜在意識が君の潜在意識と混在することはあると思うよ。
だから、彼女から離れた状態の意識と、彼女と同化したときの意識では
まったく違う状態なのは当然なんだよね。
彼女の潜在意識をクリアリングしたところで、
すぐもどってしまうだろうし、
君は一刻も早く自分のからだに戻って、
本来の自分を起動させることだよ。
君が母さんに憑依した状態ってことは、
君の体は誰かに乗っ取られている可能性もある。
モノベのご先祖様たちの総意はね、
君に本来の自分を自分の意思で生きてほしいって、
幸せになってほしいって…そう考えているようだよ。
シークレットはまず、本来の自分らしい自分の意識で、
潜在意識をととのえて、ハララインをととのえ、
コアの意識をイメージして…自分のコンディションを整えたうえで、
ロンギングのシステム、
つまり願いシステムを正しく使う。
自分がこの世でほんとうにやりたかったことを実現して、
他者、自分、宇宙空間にエネルギーの放射をしていくことだね」

涙があふれた…

気づくと、またカーテンを開けて寝ていた。
日差しが体を包んでいた。

マリネ先生の鑑定に行こう…
何年かぶりに、物につかまらずに飛び起きた。
体から力が湧いてくる。
いまなら、なんでもできそうな気がしていた。










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