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とーます模話のこざこざシリーズ 24「わたしが好きな俳句 画像、映像を想起させる一句③ 渡邊白泉」

谷底の空なき水の秋の暮(渡邊白泉)


小学校低学年の頃、
農家の同級生のうちに遊びに行った時のこと…

tくんと私はtくんのうちの近くを流れる沢に
魚を掬いに行きました。

彼はたもを、私はブッタイと呼ばれる、
網をもってたくさん魚がいるという淵に行きました。

沢は茂みを分け入って入るため、
陽の光があまり届きません。

慣れたtくんは素早く沢におりて魚を狙います。

私は少しおっかなびっくりしながら、
深い沢の淵から少し離れたところで魚を狙います。

水も冷たく、おもったより魚がとれません。
1時間くらい水に入っていると体が冷えてきて、
なんだか不安な気持ちになってきます。

見慣れない沢は暗くて、
上流を見ても茂みで遮られ、
いま何時かもわからなくなります。

「tくん…そろそろ、帰らまいか…」
「今日はあんまり取れへんだで…またにしまいか」
「うん。もう、かえらっか…」

tくんは網のついた魚を入れるブリキの器に、
10匹くらいのノメッチョやハヤやヤマブトを提げて沢の崖をのぼり始めた。

私は、沢の道においてあるバケツの中に
数匹のノメッチョとヤマブトを入れてあった。

沢の道を下って、やっと農道が見えた。
ほっとした。
まだ、明るい日差しがみえてきた…





川名大氏の俳句評論は、
鋭い切り口で俳句の奥深さを教えてくれます。

川名氏が高く評価する作家のひとりに、渡邊白泉氏がいます。

戦前、戦中、戦後と活躍した俳人ですが、
戦後は静岡県で教育者になったようです。

静岡県出身者として、気になる存在ではありました。


渡邊白泉氏の俳句は私には難解で、
それほど身近なものとして親しむことはありませんでしたが、
冒頭の一句はいまでも数ある俳句のなかでも、
記憶に残るものです。


谷底の空なき水の秋の暮…

この句は、
子ども時代の記憶の…あの沢の
どこか心細くなるような情景や感情を、
ありありと想起させてくれるのでした。



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