小心地滑日記 第二部③「点心舗の少女の涙」
◯月◯日。
桂林街と河北街という通りの間に点心のお気に入りのお店があった。
ホテルからシャムスイポーに向かったあたり。行きつけになったお店はせいぜい六畳一間くらいの広さ。奥に蒸籠があったり鍋があったりで、タイミングがよければできたての饅頭や粽が買える。
プラスチックのパックに数個単位で入っていてバラ売りは少ないけど5個入りで蒸し餃子大きめのものが100円台から200円台くらいで安いと思った。いつも二人で500円以上買って2日にわたって食べるかんじだったか。
粽にはその店で使っている肉ものの端切れが入っていて甘い味噌で味付けされていた。腸詰めとか内臓肉も入っていたように思う。香港でたべる粽はとても好みで美味しかった。
粽はその店では高級品で安くはなかったが、冷めても美味しく、インディカ米がいまひとつ馴染めなかったから、糯米のもちもち感を求めて何度か買ったと思う。蒸し餃子や揚げ餃子が美味しかった。
具材にピーナッツが入っていたりして、異国を感じたものだ。焼き物料理もあって雁屋哲さんのエッセイとおんなじだ~と思ってうれしかった。叉焼はちょっと高くて、紅麹でなく食紅かもしれないからあんまり買わなかったかな?期待したほど美味しくなかった。それよりはめずらしいものがよかった。
内臓肉の料理とか家庭向きお惣菜みたいのも買ったが、おもったよりは普通で印象には残らなかった。ピーナッツが入った精進料理みたいな餃子が記憶に残る。
粽はだんだん端切れ肉が気持ち悪くなり買わなくなった。それでも滞在中は何回もそこで買ってホテルで食べたものだ。
ある日、大きめのお札を渡したときに店員の少女が泣き出してしまった。
どうしたのかと呆然としていたら、少女は釣り銭を投げつけるように返してきた。奥からおばさんの店員さんが何かどなっている。そのうちに、こっちにおばさんはやってきた。何か怒ったように喋りだし、ボクの手のひらに握られた釣り銭から何枚か小銭をとっていった。
どうやら少女は、お釣りの計算ができなかったようなのだ。
ボクがまだ、それでもお釣りが多いような気がしていると、オクサンが気を利かして……もう少しだけ釣り銭を泣いている店員に戻してあげていた。
なんだか申し訳ない気持ちで、二人でたくさんの点心を持ってそこを去った。
二人で、次からはお札でお釣りをもらうようなことはしないようにしよう、両替してからそういうお店では買うようにしよう、そう話して決めた。
買ってきたたくさんの点心はホテルの部屋で果物とオクサンがつくってくれた野菜炒めと並べられて、それは豊かで至福の時間を提供してくれた。今でも忘れられない食卓の記憶である。
しかし、その至福の毎日の数日後ボクの胃袋が壊れた。外食疲れと香港のエネルギーに圧倒されたのかもしれないし、廃油問題とはむえんじゃなかったかもしれない。
でも、いまでもあのたのしさを思い出す。あの頃、香港に行っといてよかったな~とつくづく思うのであった。
©2023 tomasu mowa