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三人の記憶:藪の中④~春岡くん~【少年小説】

「小鹿先生、お待たせしました」
「春岡くん、悪いわね。昼休みなのに」
「黒田くんに渡した小説(笑)、読んでもらえてうれしいです」
「お弁当は食べたの?」
「ええ、パンにしといたんで、もう食べ終わりました」

「さっそくで悪いんだけど、天方くんのこと聞かせていただけるかしら?」「ええ、僕がわかることなら」
「あなたを信じて、よくないことだけど天方くんの作文読んでみてほしいのよ」
「黒田くんのはありますよね。彼は読んでいいと言ってくれたから、読ませてくれませんか?」
「わかったわ、でも天方くんには絶対に言わないでね」
「わかりました。僕にも火の粉くるかもだから絶対に言いませんから心配なく」

しばらく春岡くんは文章をすごいスピードで読んでいた。真剣な表情で今回のことを茶化したりしてない真面目な態度が伝わってきたことに安堵していた。


「読みました」
「どう感じたかしら?」
「お互いの確執っていうか、言いたくても言えない感じもありそうですね」

「天方くんは春岡くんにも高圧的な態度をみせることがあったの?」
「いや、ただよく不機嫌なときに当たってくるところがありますね」

「暴力的な感じなの?」
「いえ、彼はけんか弱いし、彼の良くないとこですが、歯向かってこない人間や危害を加えない人間しか攻撃しないんですよ」

「黒田くんも同じこと言ってたわね」
「暴れたり激怒したりはほんとにしないから分かりにくいんですが、すごい顔して相手ではないどこか虚空をにらむんですよ」

「あなたの文章に二人を天方くんがにらむところがなかったかしら?」
「よく読んでください、にらんだわけじゃなくて…目つきがすごかったってことです」

「ごめんなさい、読み誤ったみたい」
「でも天方くんが黒田くんによくわからない執着心が支配的な欲求ありきだとしても…やはり、これ読むと幸せじゃない子ども時代だろうし、小学校時代の友達に会えない寂しさってあるんじゃないんですか?」

「それで気になって初めは二人が和解できたらって思ったのよ」
「う~ん、それはやめたほうが…二人はぜんぜん性格合わないし趣味も違いすぎます。それに天方くんは危険なとこあるかもしれないし…」

「でも確証ないわよね。ねえ、彼が黒魔術をやってるって噂があるらしいのよ。知ってる?」
「誰から聞いたんですか?」

「言えないけどね。黒田くんじゃないわよ。黒田くんはあなた方二人が天方くんと出くわしたときも怖い顔してるとは思わなかったって言ってたから」
「まあ、僕の主観は入ってるかもしれないです。でも彼は時々出てくる性格が、ごくまれに試合中だとかに出てくる性格がやはり人格疑うようなとこはあるから」

「あなたは、天方くんは黒魔術やったりしてるって思う?」
「わかりません。しかし…まさか小鹿先生の口から黒魔術なんて言葉が出るとは、驚きました。先生、電話でも手書きメモでもいいんで何かあったら連絡してください」

「ありがとう」

天方くんに会わなきゃいけない。決心がついた。


【つづく】

©2023 tomasu mowa