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【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑩【明日は人生初ステージ2】~」
バンド内の軋轢とフラストレーションによる緊張でスタジオはひりひりしていた。
Fがいきなりカモンエブリバディのイントロをひきだした。
ユキオはスクラッチノイズをゆっくり弾きながらドラムのKに目配せする。
あわててKがたたきだした。
ジャカジャーンとコードが鳴る。
ベースが拳のようなリズムを刻みユキオの線の細い、神経質だがバックビートを利かせたリズムギターにせっかちな余裕のないドラムが重なる。
Sの陽気な声質のボーカルが入ってくる。
うまい。急造バンドとは思えないスピード感がある。
1曲目が終わると同時にロマンチストのイントロを弾く。
Fは心得ていてすぐ曲に入る。
Sには合わない歌だが、コーラスのDが普通にSとユニゾンで歌う。
コーラスも何もないがDは声量があり、パンクではないが、マイナーコードのガレージパンクのようでなかなか面白い。
スターリンには聞こえないが(笑)。
3曲目のドカドカうるさいロックンロールバンドはFが好きな曲だけあって、まあまあちゃんと仕上げてきた。
唯一長いギターソロがあるので気を抜けない曲だが、ユキオはいちばんたのしく感じた。
オーイェイをユキオがやるかFがやるか揉めたが、ユキオがやることで落ち着いた。Fは歌は下手だったこともある。
ギターソロは慣れたのでノーミスでいけた。
最後はFとKが変わり、サマータイムブルースが始まる。
Fはいつの間にかドラムが上達していた。やつの面白さだ。
手数がさらに増えていてキースムーンにはまっているという言葉に嘘はなかった。
4曲が終わった。15分くらいだった。
狭いスタジオに高揚感があった。
「コグレさん、すげえ、やったなこりゃ。うちのバンドがダントツだな」
Fが勝ち誇ったように言う。
SとDが興奮している。
Dがユキオを絶賛した。
「コグレさんの音楽レベルに…おれもなりたい」
ユキオは特ににっこりするだけで答えなかったが…1か月して1曲を通して演奏し終わったときに得られる快楽について…それなりにバンドメンバーが感じているような気がしてうれしかった。
しかし、Fはその後…思った通り、ギターやベース、キーボードで遊び始めて…ろくに練習をしなくなった。
ユキオはひととおりバンドがそれなりのパフォーマンスができそうなことを確認できたので、個人練習のようにギターを弾いて明日の準備をすることにした。
ただ、Kだけはもう一度ドラムの構成を確認したいと言ってきたので、ちゃんと対応した。
「コグレさん、こんな感じで大丈夫っすかね?」
「うん、あとはさあ、ごまかして最後ドラムロールしたり、適当になんかドカドカたたけばいいよ…Kくん、なかなかタイトで速くていいと思うよ」
「ほっとしました。コグレさんに怒鳴られるんじゃないかって…Dとも話してたんで…あ、お金は用意してきました。すいませんでした。ちゃんと払います」
ユキオはにっこりだけして、「いま出しといて」と伝えた。