選挙においてネット投票が導入されない理由をちゃんと考えてみる


はじめに

 選挙の度に目にするのが「なぜ日本の選挙ではネット投票を導入しないのか」という無数の呟き。

 私個人の意見としてはネット投票の導入は時期尚早であり、数々の問題点をクリアできないと導入は難しいと思っています。

 もちろん、一時期のコロナ禍のように、思いもよらない社会の変化というのがありますので、今後何らかのきっかけで急速に導入が進むという可能性は捨てきれません。

 しかしながら、その導入の際の問題点というのが、おそらく解決不可能なものであるため、仮にネット投票をやるにしても、リスクを覚悟の上で、その点をきちんと国民に説明し、理解を得る必要があると思っています。

 不正対策、秘密投票の問題は既に多くの人が語っていますので、この記事では、他の視点からネット投票を考察していきます。

ネット投票導入のメリットは本当に成立するのか


 ネット投票導入推進派が述べる導入のメリットは大きく以下の二つ。

  • 投票率の向上

  • コストの削減

 主に言われているのはこの二つです。
 お手軽投票、投開票時のムダな人員削減。
 ですが、この2つのメリット、両立させるのは至難の業です。
 

ネット投票を導入すると選挙にかかる費用はどうなる?

 
 ネット投票実現に向けた技術については、今日まで色々検討されているとは思います。
 マイナンバーの紐づけとかブロックチェーンとか。
 金融システムが大丈夫だから問題ないとか言っている方もいます。
 私もシステム面はそこまで詳しくないので、ここで深くは書きません。
 ここでは、ネット投票で懸念されている不正対策が技術的に解決した、という体で考えてみます。
 
 それで、実際の運用はどうするのでしょうか?

 選挙を、ネット投票だけ、で行うのでしょうか?
 それとも、従来の紙に記入する方式と併用、で行うのでしょうか?
 ちなみにネット投票を導入している数少ない国、エストニアは後者です。 

 国政選挙においてネット投票を導入するのなら、少なくともめっちゃ凄いサーバー(頭の悪い言い方)が必要になります。
 なにせ日本国中からアクセスが来ますからね。アクセス数も一人一回ではすみません。投票先を変えたり、結果的にいたずらなアクセスになったりとてんやわんやになるでしょう。
 投票の書き換え不正を懸念している人が多いですが、アクセスの負荷によるサーバーダウンのリスクも相当に恐ろしいものだと思います。
 一度ダウンして復旧するまでの間に投票できなかった人達の扱いは?復旧する前と後に結果が違いないかの保証は?

 いずれにせよ、何らかの理由で異常なんて起きたら目も当てられないので、それはもう莫大なコストをかけて整備する必要があります。
 設置してからも、実働時はそりゃもう大変。
 システム屋は、選挙期間中の約2週間、ほぼ24時間態勢でしょう。
 当然、何か異常が起きた場合や、問い合わせ先などのコールセンターも24時間態勢で運用する必要がありますね。(チャットボットを使えばもう少しマシかも)

 こんなご時世です。人材の問題は大丈夫でしょうか?

 人集めに前例のない教育。
 システム作りを役人ができるわけがないので、民間企業に外部委託しかありえません。
 やるとしても、業務の責任からして委託料を相当にふっかけてくるのは目に見えます。

 それでもネット投票オンリーなら選挙にかかる費用は下げられそうですが、今の国の状況と技術力を考えると、通常運営においてあまりにもリスクが大きすぎます。
 サイバー攻撃のせいでサーバーダウンを起こして、選挙が上手くできませんでした(てへぺろ)なんて、世界中に恥を晒すようなものです。

 そうなると、サーバーにトラブルが起きた時や不正防止の対策として、従来の紙での投票も残しておくのが安全策として適当であり、実際エストニアがそうなのですが、これだと単純に費用の上乗せになります。
 当日投票者が少なくなるから、投票所を減らせばいいという意見が聞こえてきそうですが、いつトラブルが起きるか分からないのに、無闇に数を減らせませんし、投票所が遠くなったせいで、投票に行けなくなったという人だって出かねません。
 結局は投票所入場券のはがきも有権者の数だけ刷って送る必要があるし、投票用紙も同じ枚数必要だし、開票作業も従来の人手が必要になります。

 コストが下がる未来が全く見えないのですが。

 また、国政選挙は年に1回あるかないか。
 そのためにめっちゃ凄いサーバーの管理と更新が必要になります。
 費用対効果大丈夫そ?

それでもネット投票を導入すれば投票率はアップ!……で?

 
 前述の問題を飲み込んで、とにかく金と人手がいくらかかってでもいいから、なんとしても、とネット投票を導入したとしましょう。

 投票率は確実に上がりますが、上がり幅は未知数です。

 
投票に行かない理由のアンケートをWEB上で簡単に検索したところ、主な理由は「選挙がよく分からない」「投票したい人がいない」「仕事等で行けない」とあります。
 割合はアンケートした事業者や対象によって変わりますが、理由は概ねそんなものです。

 まず、現状で既にネット上での選挙活動は行われています。
 今年の都知事選とか、ショート動画の数凄かったですよね。

 元々選挙に興味がない人が投票の仕組みだけ変えたところで、選挙や立候補者に関心を持つものでしょうか。 
 今後の戦略を拝聴したいものです。 

 また、期日前投票や不在者投票もある現在の選挙制度において、物理的に投票に行けない人も限られています。
 (船員とか在外邦人はまた別です。住民票移してない大学生は微妙)
 仕事の関係で選挙期間中(場所にもよりますが、選挙前日までの大体朝8時から夜7時まで、当日の日曜日の朝7時から夜8時まで)どうしても投票に行けないという方は、政治に期待するよりも、まずは労基に声をかけてください。

 冗談はさておき、投票率の増加に話を戻します。
 ネット投票により、投票率の低かった20~40代の現役世代が選挙に参加すれば、政治家も若者に向けた施策をもっと打ち出してくれる……そんな期待を抱いている方も多くいることでしょう。

 ですが、そうとは限りません。

 投票所に行きたくても行けない人は現役世代の若者だけではありません。
 障害を持っていたり、既に意識がなかったり、認知症になったりしている高齢者も沢山います。
 投票立合人などの第三者の監視のないネット投票だと、そういった意思表示ができない方々の投票が可能になります
 投票の強制というものがネット投票の懸念点ですが、狙われるのは社畜よりも断然高齢者や知的障碍者だと思います。取り締まりようがないのですから。
 こうなると、ネット投票はかえって組織票を強めることも十二分に考えられます。

「与党が自分たちの権力を脅かされたくないから、ネット投票を導入しないんだ!」

 と主張する人が後を絶ちませんが、導入されたらされたでちゃんと対策練ってくるに決まってるじゃないですか。金も人も豊富なんだから。
 選挙戦略というものは割とエゲツないということも知ってほしいです。

新しい仕組みを導入することの目的は?


 ネット投票を始めればいいのに、と呟いている方の多くは、そうなればよくなる、という漠然とした感覚なのが大半に見受けられます。(主観)
 ですが、導入について真面目に考えれば考えるほど、あっち立てればこっち立たず状態に陥っていくものです。
 だからこそ、議論が起きる。
 雨後の筍の如く推進派が現れ、根強い反対派とぶつかる。

 けど、皆さんぶっちゃけ、投票率が上がることそのものを望んでいるわけじゃないでしょ?

 最終的には自分の推しの立候補者、政党に勝ってもらうのが目的でしょ?

 たとえ投票率が低くても、自分の望む結果が得られたら、誰もシステムの改善なんて望みませんよ。

 ネット投票を『選挙結果を変えるための手法』と考えている人ほど、思うような結果が出なかったら、真っ先に不正を疑うと確信しています。
 逆に変わったら変わったで反対側から文句もつくでしょうから、ネット投票の信頼性を全力で説明する必要があります。

 結局、どんな対策を打ったところでリスクや懸念は発生しますので、ネット投票導入の決め手は最初に述べたように、結果を信頼するという覚悟だと思うのです。(ジ○ジ○っぽく)

 莫大なコストとリスクをかけて、物言い無しの一発勝負。
 これが新しい仕組みを導入するということです。

おわりに

 ネット投票については、これ以外にも語るべきところが多々あるのですが、今回は導入のメリットについての考察に絞って書いてみました。
 私個人のメモ的意味合いもありますので、誤字脱字はご容赦を。
 参考にしていただける人がいれば幸いです。
 反対意見やいちゃもんもご自由にどうぞ。
 あと補足ですが、在外邦人のネット投票は推進派ですからね。
 理由はコストが見合うことと選挙権の保障が主目的だから。

 Noteで書くのは初めてで、Xで書いたことをまとめてみたような内容ですが、やはり文字制限がないのはいいものですな。


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