薄味の日々
自分の心が、なんか遠くに行きたい、と思う時は
心や生活が少し落ち着いていて、そんな日々がとても退屈な時だ
人によってはそういう安息が心地よいのだろうけど、
私はどうしても心細くて不安で妙な空腹感を覚える
仕事のスケジュールや休日のスケジュールをみても
いや、対して暇なわけではないし、楽しいし、毎日あくせく動き回ってはいるのだけど
もっともっと何かに追われたい、と思う
最近ずっとそんな感じで、
楽しいことも楽しくないことも、一旦全部辞めちゃいたい、と思っている
休日に家の近くの喫茶店で本を読んでアイスコーヒーを飲んでいたら
隣の席でコーヒーを飲んでるおばあさん2人組が
「美味しいと思ってコーヒー飲むの久しぶりだわ」
と、競馬新聞をガサガサやりながら話していた
「だいたいは、あれやな、苦いか、なんかやな」
と1人が言うと
「うん、そうやわ」
ともう1人がガラガラの声で言った
私はそのやりとりがとても羨ましかった
同時にとても孤独になった
そのお婆さんたちと同じアイスコーヒーを啜っていたが、私のはとても苦くて、”あれ”だった
言葉のニュアンスの先の感覚を、アレやソレで分かり合えてしまえる相手は私のそばにはいない
コーヒーのシミのついた、硬いビニールのシート席にそのまま沈んでしまいたかった
その時に読んでいたのは何度目かわからないサリンジャーのナインストーリーズで
私もバナナフィッシュが見れたらどんなにいいだろうと少し思ったりもした
ただ、ここ最近でたった一度だけ、特別な気持ちがあって。
それは一昨日ぐらいにみた、かなり強烈な夢
内容は絶対にここには書かないけど、心臓が爆発するみたいな気持ちで飛び起きた
時計は5:29で、まだ眠れるかも、と思ったけど眠れなかった
少し息切れしていた
さっきまでの優しくて甘やかな感覚を手繰り寄せながら、私の部屋の変な色の天井を見ていた
私は器用じゃないから夢の続きは見れないし、残念ながら正夢になるとは考えにくい
体の感覚や、妙にリアルなにおいや暖かさだけが張り付いたままで
なんだか昨日から少し集中力に欠ける
私は今日も退屈な夜の中で
植物に水をあげたりしながらひとりでため息をついている
渡部有希