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わかりやすさの是非(百の夜は跳ねて/古市憲寿)

就活に失敗し、高層ビルの窓拭きの仕事についた主人公は、同業の先輩の事故死や大学の同級生の良い暮らしぶりを横目に無気力に生きていた。そんなある日、麻布にあるタワマンの清掃中、窓越しに謎めいた老婆と出会う。
「窓からいろんな人の暮らしを盗撮してきてほしい」という老婆の依頼と、超高額の報酬。それから主人公と老婆の奇妙な関係が始まり…という物語。

タワマンに暮らすお金持ちの老婆と、危険な仕事をする若く貧しい主人公、それを隔てる「窓」という透明な存在。
主人公がスーパーで買ったいちばん高いイチゴといちばん安いイチゴを食べ比べ、「一緒じゃん」と嘲笑うシーン。
報酬のために盗撮写真を届けていた主人公が、徐々に老婆と心を通わせ、報酬のためではなく老婆に会いにいくようになる展開。

小説としては十分面白いのだけれど、格差社会の比喩が露骨すぎるような気がしてしまい、あまりずしんと心に残るものはなかった。

私は映画を観終わったあと、答え合わせをするように他の人が書いたレビューを必ず読むようにしている。昨年、Netflixで映画『怒り』を観終わったあと、名作だったなと思いながら以下のレビューを読んで衝撃を受けた。このレビューが、私の記憶にあった犯人の性格を180度変えるものだったからだ。
(※以下、ネタバレを含む)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/356389/review/1935/?c=1&sort=mrf

面白い映画を観たあとで「あーそういう解釈もあるね」と語り合う時間は有意義で楽しいものだが、これほど重大な、そして監督の言葉からしてこちらが真実と思われる犯人の性格を、ここまで分かりにくく描いたことの是非について考えさせられてしまった。
10人中3人が気付くくらいが、芸術作品としては面白く粋だと私は思っているが、どうだろうか。古市さんの今作は、少々わかりやすさが過ぎたように思った。
ただ一つ、主人公が地上で綺麗な写真を撮るラストは、とても美しかった。

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