本を読み、季節を考え、母を想う
「どの季節が一番好きで、そしてその理由はなぜ?」
英語を教えている職業柄、これはよくする質問のひとつ。回答に興味がある訳ではなく、簡単な文法だし、深い意味も討論の余地もないから。
自分の回答も含めて、全体的に自分が生まれた季節を好きな人が多いように感じられるし、「過ごしやすいから」等、わかり易い理由が多い。
宮部みゆきさん著の『あやかし草紙』第一話「開けずの間」の冒頭にある、本内容とは全く関係のない、ほのぼのとしたやり取りがなぜか心に残った。
母親のお民と息子の富次郎のやり取りから。
お民「ああ、いい季節が来たねえ。一年で、あたしは冬がいちばん好き。あったかいご飯が食べられることの有り難みが身に染みるからさ」
富次郎「へそ曲がりなんだよ、おっかさんは。わたしは、春の花の盛りや秋の紅葉が夢のように綺麗なときこそ、ああ生きていて良かった、今の暮らしが有り難いって思いますよ」
わたしも富次郎に同感!春の花々を愛でたり新緑の美しさや紅葉を楽しめるようになって、風情がわかる大人になった!なんて思ったくらいだし(笑)
ページをめくって、この続きを読んで衝撃を受けた。
お民「そりゃあ、あんたがまだ本当の苦労ってもんを知らないからですよ」
ここを読んで、こどもの時の冬のある日、お風呂上がりに一緒に雪見だいふくを食べていた亡き母がふと漏らした言葉を思い出した。
「暖房のおかげで寒い冬にアイスクリームが食べれるなんてありがたいね」
当時は何気なく聞いていたけど、今はその言葉の重さがとても身に沁みる。
本を読むことの素晴らしさを、またひとつ見つけた瞬間だった。
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