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喪中につき 4 黒い鷲
父が危篤状態になってから亡くなるまでの今年2月の少しの間のこと。
帰省中、いいつかった買い物から戻り、庭から家の中へ入ろうとした時、空が何かに覆われて暗くなった。そんな経験はなかったのでびっくりして空を見ると、大きな鷲が滑空していった。静かな2月の明るい午後、鷲は家の上空を大きく旋回して高く遠くへ昇っていった。
私はギョッとした。
父が逝ってしまったのかと、あの鷲は父だ、と思った。
家に入ると父の状態は特に変わりはなかったが、その後ICUに入り、葬儀が済むまでの何回かの帰省の度、鷲は私の上に現れた。
実家のそばには川が流れている。その土手は子供の頃から慣れ親しみ、帰省すると自転車で走りに行く場所で、その頃も何かにつけての外出のついでに私は土手を走った。
その度に、鷲は上空を滑空し、懐くように私の上を舞っていた。
今、帰省してもその鷲には出会わない。季節があるのだろうか。
5月、フィギュアスケートの髙橋大輔がパートナーの村元哉中とシャンソンの「黒い鷲」で滑った。私は髙橋大輔が大好きだ。昨年12月の全日本選手権の頃、我が家は入院中の父とテレワークと称してLINE通話をするのが常だった。ちょうどその時間に二人の滑る時間が重なり、LINEを繋いだまま両親と一緒に二人のラ・バヤデールを観た。いいなぁと、楽しそうに観ていたのを思い出す。
暫くバルバラの黒い鷲が頭から抜けなかった。踊ってみようと何回か試みたが、これを、どう踊るのか、まだわからない。