日記:20231016〜小栗虫太郎「白蟻」〜
今日は久しぶりにライブに行く予定のない一日。翌日に休みをとっていることもあり、片付けなければいけないことが多くて死ぬほど忙しかった。頭割れるかと思った。
小栗虫太郎「白蟻」読了。
「黒死館殺人事件」を読み直すつもりだったけど、ちょっと怖気付いてまず現代教養文庫版のこちらを再読。
「完全犯罪」はなんとなく覚えていた。トリックがどうこうというより、結論に至るまでの些細な証拠から怪しげな衒学的理論に基づく推理で被疑者が二転三転する駆け引きが見どころなんだろう。
続く「白蟻」はもう何も覚えていなかった。改めて読み直すと、その背徳的とも猟奇的とも言えるエログロ趣味の濃密さに驚かされる。しかも乱歩のようないかにもおどろおどろしい扇情的な描写ではなく、ひんやりした硬質の文体で綴られるのがかえって内容の異常性を際立たせている。
この作品もどこまで信憑性があるのかわからない理論をもとに、登場人物の推論が加速し破滅に向かって突き進んでいくのがスリリング。
ただ、京極夏彦の作品などと比べると、衒学を展開する登場人物に説得力が欠ける分、探偵の推理というよりも心を病んだ人間の妄想を聞かされているようにも思えてくる。そのあやふやさこそ虫太郎の魅力なのかもしれないけど。
読み物としては最後の「海峡天地会」がいちばん分かりやすく楽しめた。戦中のマレーシアを舞台にした異国情緒漂う作品で、ジャングルの描写などは秘境ものの作品に通じるものがある。
全体的に愛国的・国策掲揚的なにおいもするけど、編者の解題によると戦後に書き直したバージョンでは大幅に手が加えられ、日本軍の蛮行や愚劣さを強く非難する描写が目立っている。作者の戦争に対する思いがうかがえて興味深い。