城は狭く、世界は広く
ただじっとしているのは苦手だから家から出てみると、あまりの情報量に身動きが取れなくなった。
空の青さも風の冷たさも、今僕の天敵と化した。
それからというもの僕はずっと部屋の中を転々としている。隅から隅へ、たまに真ん中へ。
急に僕の中身は変容してしまった。この部屋の中でしか、もう動けない。
一日に一回鳴るインターホン。怖いから息を潜めて五分後、玄関のドアを少しだけ開けて腕だけを出して袋をサッと引き入れる。
外気に触れたこの一部は、もう僕のパーツじゃないみたいだから直視できない。
冷たい水が温まるまでの間、泣きそうになるのを我慢する。また一つ弱くなった。
長らく開けていないカーテンからは夕日の残り灯だけが流れ込んでいて、今日の終わりを予感する。
明日もまた日が昇る。太陽ってどんぐらい丸かったっけ。どれぐらい見てないんだっけな。
そういやそもそも直視したことないや。目が潰れるってテレビで観たから。
あぁ、知ってるだけのことが増えた。五感を通さず脳だけが知覚していることが増えた。
新たな知識じゃない。前まで体感していたものが、ただの知識にランクダウンしていく。
空の青さも風の冷たさも、もう僕の天敵じゃない。ただ、そうらしいというだけのもの。