大麻グミ事件の全て④
「それでは調べを始めますか」
少し気合を入れ直して来ているようだ。
そういうのは要らない。
もう来ないでくれと思いながらもマトリが出して来た書類を見る。
HHCHマンゴー味からHHCHとHHC、ピーチ味からHHCHとCBD、パイナップル味からHHCHとTHCHが出ていたようだ。
「何故それぞれのグミにHHCH以外の違う成分が入っているのですか?」 そんなの分かる訳無い。
こっちが聞きたいくらいだ。
「どこで混入したかを知りたいんです。
仕入れ先で入っていたのか?それとも製造過程でそれが入ったのか?」
頭を巡らせるが各部門には仕事のマニュアルがある。
自分達は真っ当にやって信頼を得て来たのでどの部門に入る人にもその精神を受け継いでもらってる。
誰かが適当な仕事を出来るような余白も残していない。
購入していた原料も検査を行なっておりそれらの証明書も確認している。
それなのにグミには意図しない違法物質やCBDまでもが入っていた。
「松本さんが答えないなら周りに聞きます」
マトリは脅しのつもりで言ったんだろう。
自分達は誰一人悪意を持ってこの仕事をしていないので誰に何を聞かれても問題ないことは分かっていた。
ただ、一つだけ懸念していたことがある。
それは無実のスタッフを脅して無い事をある事のようにでっち上げられることだ。
何も知らないスタッフがいきなりマトリに呼ばれて詰められたらたまったもんじゃないだろう。
この日の調べもすぐに開放されて日の当たらない暗い廊下を刑務官に連れられながら自分の部屋へ戻る。
自分のいつもの習慣なのだが物事の行く末をうまくいった時と悪い方へ行った時の2パターンを考える。
塀の外ではどちらも柔軟に行えるのだが、ここでは情報が遮断されている。
当然ながらインターネットには接続できないし、差し入れの本も検閲が入り好きなものが何でも手に入るという状態じゃない。
精神的にも物質的にも拷問を受けるようなもんだ。
今日の話を頭の中で反芻する。
もし善良なスタッフがマトリに脅されてでっちあげの事実を認めてしまったらどうしよう?
1人ならまだしも2人3人と同じような事をされたら?
俺はでっちあげの罪で起訴されてここから出られなくなるんじゃないか?
情報が遮断された空間で思考がどんどん悪い方向へ向かう。
消灯後も思考は止まらない。
あらゆる事態を想定し続けて解決方法を自問自答する。
夕方から考え続けて気がつけば太陽の昇る時間になっていた。
第5部へ続く〜