米国で需要急増!組織横断で営業データをととのえる「Revenue Ops」を徹底解説
営業活動においてAI活用が当たり前になる時代になりつつあります。AIの分析機能や業務の自動化といった強みを活用し恩恵を受けるためには、AIが学習するための「データ」が必要になりますが、データの蓄積・運用には組織横断の連携が求められ、取り組みの規模が大きいことから難易度が上がります。
グローバル企業では全社横断的な取り組みを進めるために、デジタル基盤の統合や運用を一括管理し、推進する役割として「Revenue Operation(Revenue Ops)」という役割が存在します。今回は、Revenue Ops が登場した背景やその役割について解説します。
THE MODEL の後に、Revenue Ops が登場した
Revenue Ops は、全社的な業務デザイン(マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなどの部門)を連携し、組織全体としての収益成長を実現するためのオペレーション管理を担います。Revenue Ops が登場した背景には、THE MODEL と呼ばれる営業の分業制が関連します。
営業組織がワンチームで収益拡大を目指す
Revenue Ops を導入している企業の組織構造と、従来の企業では何が違うのでしょうか?
従来の THE MODEL型の組織構造
THE MODEL型の従来の組織構造では、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスなどに分割された各部門が、それぞれ顧客ライフサイクルの一部のみに責任を負い、顧客を受け渡していくような構造でした。このような構造は、言い換えれば「全てを割り切る」スタイルです。「管理がしやすい」「PDCAが回しやすい」といった優れた点がある一方で、縦割りによる弊害も発生しています。
データやノウハウが部門ごとにサイロ化し、チーム間の連携が難しい
購買フェーズの設計が困難で、部門間・メンバー間で役割認識が揃わない
データの記録が各部門に委ねられ、データが非構造化する
また、部門ごとに異なる成果目標を達成するための責任者が存在し、部門ごとに異なるツールの導入や活用が進むことで、各々の部門に最適化された形式で各ツールにデータが蓄積されます。サイロ化した組織では蓄積されるデータは目的も形式も異なるために、部門を超えた統合が非常に難しくなるという実態があります。本来は連続性をもつ顧客体験が、データ上では分断された形式となってしまうのです。
問題を解消するには、あらゆる部門を横断し、散らばったデータをカスタマージャーニーの順に統合する必要がありますが、そのためには組織の巻き込みが求められるうえ、プログラミング、データ統合作業など膨大なコストがかかっていました。
Revenue Ops の組織構造
Revenue Ops は顧客ライフサイクルを横断してマーケティング・セールス・カスタマーサクセスを結びつけ、組織の縦割りをなくします。
具体的な役割としては、複数の部門・職位を横断して、企業全体のビジネスプロセスやシステム、データ管理を通じ、顧客とのエンゲージメントの最適化、効率的なリソース配分、収益目標の達成などを実現するための調整役を果たします。
この新しい組織構造において、部門間の壁を取り払い「割り切る」スタイルではなくなることで、顧客体験がつながりやすくなります。
マーケティングは認知から既存顧客へのアップセルまで、カスタマーライフサイクルの全体に関与。マーケティング施策は、新規ビジネスだけでなく、クロスセル、アップセル、チャーン防止にも影響を及ぼす。
セールスは、カスタマーライフサイクルの初期から、ソーシャルセリングやセールス主導のアウトバウンドキャンペーンで認知やブランドにも影響を与える。
カスタマーサクセスは受注前から案件を注視し、既存顧客の傾向を見ながらアップセルの可能性が高そうな案件に注力する。
すべてのチームを統合組織に進化させることで、一連の顧客体験や組織全体での収益成長が共通言語になるのが、従来モデルとの違いです。
高まる Revenue Ops の需要
Gartner の調査により、世界でもっとも高い成長率を誇る企業の75%が、2025年までに Revenus Ops のモデルを導入することが予測されています。Revenue Ops は約20年前に新しいモデルとして登場してから、大まかに定義された概念から確立されたビジネス機能へと進化し、現在では多くの組織が専任の RevOps チームまたは個人を雇用しています。
これは、3つの要因に起因すると考えられます。
顧客中心主義の高まり
かつてスペックと価格で購買の意思決定がされていた時代と比べ、今は消費者が多様な購買の選択肢と情報をもち、選べる時代になりました。企業側は提供する製品やサービスの品質を高めていくことはもちろん、営業活動においてもマーケティング、セールス、カスタマーサクセスのあらゆる場面で顧客側が期待する経済的価値を超える価値や顧客体験を提供する姿勢が重要担っています。
ビッグデータと高度な分析技術の出現
分析技術の台頭により機械が人間に代わって膨大なデータを読み込み、分析できるようになったことで、これまで以上にデータの有用性が重要な意味を持っています。
例えば、営業データを活用することで発揮できる価値としては、ナーチャリングで「A」というデータがあれば、それが成約の段階で「B」というデータと相関があるかどうか、まだオンボーディングが完了した1年後の継続利用に正の相関が平均〇〇円見られるなど、顧客価値につながる行動の相関を見つけ、営業活動に活かすことが可能です。
分析技術に資本を投下しても、社内に蓄積されたデータの品質が担保されているかどうかで、コストに対する投資対効果は数倍のレベルで変わります。
AIの進化
AIの最大の強みは、人間の知的行動を学習・分析し、再現できる点です。その強みを生かし、業務効率化や付加価値の創造につなげるためには学習データが必要になるため、データの蓄積や運用に対する関心が高まっています。
Revenue Ops の次に登場した Sales Engagement Platform(SEP)
上述で、Revenue Ops が果たす役割として、複数の部署を横断してシステムやオペレーションの管理を行うことを説明しました。営業組織全体での収益改善を図る機運が高まり続ける中で、企業がデータを価値あるものに変えるための基盤づくりがさらに重要になっています。CRMやSFAなど複数のセールステックテクノロジーに蓄積されたデータをつなぎ、活用するためのデータ基盤として、昨今多くのグローバル企業で活用が進んでいるのが Sales Engagement Platform(SEP)というテクノロジーです。
Gartner がレベル1テクノロジー(営業組織にとって必須レベルである)と明言する SEP とは
SEP とは、社内のCRM・SFA、その他のセールステックソリューションと結びつけることで、集約されたデータをもとに営業担当の活動をアシストする機能をもつテクノロジーです。SEP が顧客に接触すべき最適なタイミングやそのアクションを判断し、営業担当が取るべき行動を提示したり、データの分析結果を踏まえて将来の売上やトレンドを予測する機能を備えているものもあります。
Gartner による調査では、ROI がプラスになるという点で SEP を評価しており、CRMやLinkedin等に並ぶ営業組織が備えるべき必須のテクノロジー群であると発表しています。
営業組織におけるデータ基盤としての SEP
従来、組織横断でのデータの入力・加工・分析にはエンジニアか Revenue Ops が介在する必要があり、データの活用までにリソースや時間がかかっている状態でした。また、データを収集後にダッシュボードを見ても、データから示唆を抽出できる人材が限られていたため判断がデータドリブンでなく、またダッシュボードはあくまでも過去の情報を反映したものでありリアルタイム性に欠けているといった点に課題がありました。
これらの課題を解決するテクノロジーとして注目を集めたのが SEP です。SEP の強みは、1つのユーザーインターフェース上で、データの蓄積や活用が可能である点です。複数のアプリケーションやソフトウェアと連携することで、マーケティングやセールス、カスタマーサクセスで取得した営業データを一箇所に集めることができ、集約したデータに基づいて顧客との関係性を高めるための示唆を提示します。
加えて、データ基盤としての役割に加えて、SEP がこれまでのセールステクノロジーと異なるのは一部業務の自動化も行うことです。定型化可能な反復業務は自動化・半自動化ができるようになっており、業務効率化を実現します。昨今では、SEP に AI を取り入れるプレイヤーも増加しています。
営業部におけるAI活用の未来
日本のみならずグローバルで営業データの活用とAI化が注目されている中で、その旗振りを担う存在である Revenue Ops と、営業組織におけるデータ基盤としての役割を担う SEP が登場し、データの蓄積・運用に向けて取り組みが進んでいます。
次の記事では、ChatGPTと複数のメタデータを活用して、どのような出力が導かれるかを試していきながら、AI活用可能な「意味のあるデータ」の要件について解説します。
どんな営業データならAI活用ができるか、ChatGPTで試してみた