2人組コンプレックス
カップル。相方。ツレ。ペア。コンビ。
2人組を形容する単語に甘美な響きを感じるのは僕だけだろうか。
昔から、上手に2人組が作れなかった。学生時代、2人組になる相手がいるかどうかというのは、色んな場面で傷つかずに済むという意味で非常に重要なことだというのは、誰もが経験済みだろう。誰とでもそれなりに仲良くやれてたとしても、いざというときに1番に自分と組んでくれる相手がいるかいないかで、人生の生きやすさに大きく影響をしているような気がしていた。そんな僕でも、一度だけ2人組の相手が出来たことがあった。中学時代の友人Rだ。
Rとは、中学3年間同じクラスだったのだけど、中2の冬から突然距離が縮まった。学校行事で同じ委員会に所属したことがきっかけだった。調剤薬局の息子に生まれたRは将来は薬剤師になることが確定していて、しかしそんな堅実な進路とは裏腹に、彼の性格は飄々としていて、どちらかといえばお調子者タイプだった。中学受験で入った進学校の中学で、小学校からの内部生だったRは、内部生特有の余裕を身に纏っており、自分とは違うタイプの人間だと思っていた。
さまざまなタイプの天才や秀才が集まる学校で中の上くらいの学力しかなかった僕は、自分の個性としてニッチな映画好きをアピールすることしか出来なかったのだけど、Rはなぜかそんな僕のキャラを面白がってくれた。彼は文房具集めが好きで、スタイリッシュな筆箱にはどんな用途でそんな文房具使うのと言いたくなるような代物がたくさん入っていた。趣味が合うわけでも、クラス内での立ち位置も全然違うのに、僕らは妙に仲良くなったのだ。
そんなある日、修学旅行の部屋決めが行われた。修学旅行といえば大部屋で雑魚寝というのが相場だろうけど、学費もそれなりに高いうちの中学では、なんと2人部屋だったのだ。思春期の子どもにとっては地獄の「2人組を作ってください」タイム。しかし、このときの僕にはRがいた。お互い何の疑問も抱かず、僕とRは同部屋になった。
2人組を作ってと言われたときに、すぐになれる相手がいるという事実は、すごい安心感と優越感があったのを覚えている。でも、Rと2人組でいられたのはそれから長く続かなかった。僕が2人の関係を窮屈に思ったのだ。
修学旅行当日の同部屋の日、初めての東京に疲れ切っていた僕は、すぐにでも寝たかった。しかし、逆に修学旅行ハイになっていたRは金曜ロードショーでやっていたコナンを見たがった。修学旅行の夜なんて、はしゃいでなんぼみたいなとこがあるのに、ちょっとくらい無理してでも一緒に観れば良かったのだ。ただ、まったく気乗りしなかった僕は、「もう寝るわ」と言って、Rに背を向けて寝たのを覚えている。
それ以来、Rとの距離は1番の友達から、その他大勢の友達に戻った。彼とは高校も一緒だったし、内心は分からないがさっぱりとした性格の持ち主だったので、その後も別に良好な関係ではあったけど、「あぁ、僕が些細なことで突っぱねなければ、もっと仲良かったのかもなぁ」という思いがずっとあった。
それ以降も僕は、誰かと一線を越えて距離が近づきそうになると、こちらから離れるという行動を何度も繰り返した。自分でも酷いやつだなと思うし、なぜそんなことをしてしまうのか分からない。学生時代と違って、大人になるにつれ、色んな人と満遍なく仲良くできる自分の性質は有利にはなった。でも最終的に、2人組の関係性が一番濃く重要なものとして扱われることには変わりがないような気もする。
現状、僕は彼氏が欲しい。なんでも話し合える親友みたいな存在はもう諦めた。じゃあどんな相手となら付き合えるのだろうと考えたときに、いわゆる一心同体とかニコイチみたいなのは絶対無理だろうなと思う。1+1の関係性で、あくまで一人一人なんだけど、相手のことが必要で支え合える、そんな関係の相手ができたらいいのだけれど。1人で生きていくのが向いている人間だけど、2人組への憧れは消えない。