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伝える力を鍛えるための5W3H
5W3Hという手法を用いて話を具体化することは、相手に理解してもらうための基本である。ただし、これを正しく使える人は意外と少ない。むしろ、これが必要な人に限って、自分の話が抽象的で伝わりにくいことに気づいていない場合が多い。それゆえ、5W3Hの練習は社会人としての必須スキルと言える。以下では、5W3Hの重要性を説いていく。
1. 5W3Hを理解する
まず、5W3Hとは何かをおさらいする。これは、「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どうやって)」「How much(どのくらい)」「How many(どれくらい)」を押さえた話し方をするためのフレームワークである。簡単に見えるが、実践すると意外と難しい。具体化が苦手な人にとって、5W3Hは「理論上は分かるけど、実際に使おうとすると混乱する」ものになりがちだ。
例えば、上司に「進捗はどうなっている?」と聞かれた際、「まぁ順調です」と答える人がいる。だが、この回答には何の情報も含まれていない。上司が本当に知りたいのは、「何が順調なのか」「具体的にどの段階まで進んでいるのか」「それはいつ完了する予定なのか」といった詳細である。それを「順調」の一言で済ませるのは、会話の暴力と言える。
2. 5W3Hのそれぞれを解説する
When(いつ)
「いつ完成するのか?」という問いに「なるべく早く」と答える人は多い。だが、「なるべく早く」とは具体的にいつを指すのか。明日なのか、来週なのか、半年後なのか、それとも人類が月面基地を建設する頃なのか。聞き手を不安にさせるだけの回答であり、全く役に立たない。
正解は「明日の午後3時までには完了します」など、明確な時点を提示することである。「なるべく早く」という表現は便利だが、他人に安心感を与えない曖昧さを含むため、多用は避けるべきだ。
Where(どこで)
「どこで作業しているのか?」と聞かれ、「まあオフィスで」と答える人がいる。これもまた曖昧だ。「オフィスのどこか」が分からなければ、相手はわざわざ探し回る羽目になる。特定の場所を伝えれば、相手も迷わずに済む。「会議室Aで進めています」など、具体的に伝えることで効率が上がるのだ。
Who(誰が)
「誰が責任を持つのか?」という問いに「みんなで」と答えるのは最悪である。「みんな」が責任を取ることはないからだ。誰か一人に責任を明示的に割り当てなければ、プロジェクトは進まない。「田中が担当します」と断言することで、相手は初めて安心できる。
What(何を)
「何が問題なのか?」という問いに対して、「全体的に色々と」と答えるのも避けたい。「色々」とは便利な言葉だが、具体性がゼロであり、相手のイライラを増幅するだけだ。「クライアントからデザインの修正要請が入りました」や「予算が想定よりオーバーしています」と明確に述べるべきである。
Why(なぜ)
「なぜその問題が発生したのか?」に対して「よく分かりません」と言うのは、話を終わらせたいだけの無責任な態度だ。相手に説明する以上、背景や理由を調べる努力を怠るべきではない。「仕様変更が頻繁にあったためです」など、理由を示すことで話が次に進む。
How(どうやって)
「どうやってその問題を解決するのか?」に「なんとかします」と答えるのは会話の放棄である。「なんとか」ではなく、「追加のリソースを投入し、2日以内に解決を目指します」と言えば、具体性が増し、信頼も得られる。
How much(どのくらい)
「どれくらいの費用がかかるのか?」に「それなりです」と答えてはいけない。「約50万円の追加コストが必要です」と伝えるべきだ。
How many(どれくらい)
「どれくらいの人数が必要なのか?」に「まあ適当に」と返すのは問題外だ。「3人で十分です」と具体的な人数を示せば、相手の判断も早くなる。
3. 5W3Hがもたらす効果
5W3Hを実践することで、会話の中で生じる無駄なストレスを大幅に削減できる。抽象的な話し方をしてしまうと、相手が何を知りたいのか察しなければならないため、余計な労力をかけさせてしまう。一方で、5W3Hを意識すれば、相手に情報がスムーズに伝わり、結果として自分も楽になる。
4. 実践しない場合の悲惨な結末
最後に、5W3Hを使わない場合の例を挙げてみる。
会議での一幕
A: 「この案件、いつ完成する?」
B: 「なるべく早くですね。」
A: 「どのくらい早く?」
B: 「まあ、近いうちに。」
A: 「具体的にどこで進めてるんだっけ?」
B: 「いや、どこでもできると思いますよ。」
A: 「誰が担当してるんだ?」
B: 「みんなで頑張ってます。」
A: 「何が問題なの?」
B: 「うーん、いろいろあって……」
これでは会議は進まない。参加者全員がストレスを抱え、その日の生産性はゼロになるだろう。
5W3Hを使わないことで、周囲から信頼を失い、最終的には誰も質問してくれなくなる。それを避けるためにも、5W3Hの練習を怠るべきではない。
以上、5W3Hの重要性を説明である。ぜひ活用してほしい。