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消える足跡

あらすじ

東京の片隅にひっそりと佇む古びたビル。かつては賑わいを見せたオフィス街の一角にあるこのビルは、今や廃墟と化し、その存在すら忘れ去られつつあった。しかし、ビルには奇妙な噂がつきまとっていた。「消えゆく足跡」という都市伝説——そこに足を踏み入れた者は、自らの足跡が徐々に消え、自分自身もやがて姿を消すという。
都市伝説に魅了された若き探検家、翔太と真奈美は、その噂を確かめるべくビルへと足を踏み入れる。二人はビルの歴史と、真奈美の叔父が突然失踪した過去を追いながら、不気味な現象に次第に巻き込まれていく。
老朽化した建物の奥深く、迷路のように入り組んだ廊下、囁き声が響く暗闇——そこには、決して解き明かしてはならない秘密が隠されていた。彼らがたどり着く真実とは一体何なのか? そして、二人は無事にビルから脱出できるのか?
消えゆく足跡の謎が明らかになる時、彼らの運命が大きく揺れ動くことになる。


キャラクター

中野 翔太(なかの しょうた)

  • 年齢: 26歳

  • 職業: フリーライター、ブログ「都市の影」の運営者

  • 性格: 好奇心旺盛で冒険心が強いが、内心では臆病な一面も持つ。物事を理性的に捉えようとするが、心のどこかで不安感を拭いきれずにいる。かつてこのビルの近くで働いていたことがあり、何か得体の知れない不安を感じていたため、このビルに対して特別な興味を抱いている。

三浦 真奈美(みうら まなみ)

  • 年齢: 25歳

  • 職業: 大学生(オカルト研究サークルに所属)、都市伝説やオカルトに強い興味を持つ

  • 性格: 好奇心が強く、何事にも積極的に挑戦するタイプ。叔父が失踪した過去を持つため、都市伝説やオカルトに対して強い関心を持っている。普段は明るくて前向きだが、叔父の失踪に関する話になると不安と恐怖が表に出ることがある。


ストーリー

序章

東京の片隅に、忘れ去られたように佇む古びたビルがあった。かつては賑やかなオフィス街の中心にあり、ビジネスマンたちが行き交う活気ある場所だったが、今では朽ち果てた廃墟と化し、その存在は人々の記憶からも消えつつあった。
このビルには奇妙な噂がつきまとっていた。訪れた者が二度と戻ってこない、消えゆく足跡の伝説。そんな都市伝説に魅了された二人の若者が、この廃墟に足を踏み入れることになる。

第一章: 禁断の入り口

中野翔太と三浦真奈美は、大学時代からの友人であり、二人とも都市探検が趣味だった。特に廃墟を巡り、その歴史や過去の出来事を探ることに強い興味を持っていた。彼らのブログ「都市の影」は、多くのフォロワーを持ち、その奇妙な冒険は多くの読者を惹きつけていた。
「本当に行くのか?」翔太は、ビルの前に立ち、少しだけ躊躇したように真奈美を見た。
「もちろん。こんなチャンスは滅多にないわ。」真奈美は強い決意を込めて答えた。「それに、このビルには何かがある…そんな気がするの。」
翔太は黙って真奈美の言葉を受け止めた。彼もまた、このビルに対する不気味な興味を抑えられずにいた。真奈美の目は強い好奇心に輝いていたが、その奥にはわずかな不安も見え隠れしていた。
「でもさ、万が一ってこともあるんだぞ?」翔太は真奈美を引き留めるように言った。
「だからこそ、私たちが行くんじゃない。都市伝説を確かめるのが私たちの仕事でしょ?」真奈美は笑顔を見せたが、その笑顔は少し緊張しているようにも見えた。
翔太は深く息を吸い込み、意を決して懐中電灯を手に持った。「分かった。でも、無理はしないこと。何かあったらすぐに出よう。」
二人はビルの中へと足を踏み入れた。そこには長い年月が放置されたままの空間が広がっており、異様な雰囲気が漂っていた。老朽化した壁、ひび割れた床、割れた窓から入り込む冷たい風。全てが不安を掻き立てる要素となっていた。

第二章: ビルの過去

ビル内を進むうちに、二人は廊下に古いポスターや落書きが散乱しているのを見つけた。壁にかかっていた絵画は色あせ、かつてここで働いていた人々の痕跡が微かに残っていた。
「このビル、何かが…変だな。」翔太は周りを見渡しながら言った。「前にここで働いてた時も、何かがおかしいと思ってた。いつもどこかで見られているような感覚があったんだ。」
「叔父さんも同じことを言ってた。」真奈美は静かに答えた。「叔父さんがこのビルを建てた後、体調がどんどん悪くなって、最後には消えてしまった。母が言うには、叔父さんは何かを見たらしいの。」
「何か?」翔太は興味深げに尋ねた。
「うん。でも、具体的には教えてくれなかった。ただ、ずっと怖がっていたのを覚えてる。」真奈美は壁にかかる落書きを見つめ、記憶を辿るように話した。「叔父さんが言ってたのは…『あの場所は人のものじゃない』って。」
翔太は無言でうなずいた。真奈美の叔父が消えたという話は彼も知っていたが、詳細は初めて聞いた。
「もしかして、その時からこのビルは…?」翔太は話の続きを促すように聞いた。
「…分からない。でも、何かがきっかけになったのかもしれない。」真奈美はそう言って、少しだけ口を閉ざした。「翔太、私たちがこのビルの秘密を暴けば、叔父さんのことも何かわかるかもしれない。」
翔太は深く頷いた。「でも、危険は承知の上でだ。何か変だと思ったら、すぐに引き返そう。」
二人はお互いに目を合わせ、決意を固めた。そして、ビルの奥へと進んでいった。

第三章: 足跡の主

暗い廊下を進む二人は、次第に異様な足跡に気づき始めた。床には無数の足跡が残されていたが、それらは次第に歪み、形が崩れていくように見えた。
「これ…普通じゃないよな?」翔太は足跡を見つめ、警戒心を強めた。
「まるで足跡が生きてるみたい…」真奈美は震える声で答えた。「翔太、ここから出た方がいいんじゃない?」
「いや、もう少しだけ…何かを見つけるまでは。」翔太はそう言いながら、懐中電灯を強く握りしめた。「でも、気をつけよう。何かがおかしい…確実に。」
その瞬間、遠くで何かが動いたような音が聞こえた。二人は同時に立ち止まり、音の方向を見つめた。しかし、何も見えなかった。ただ、異常な静けさが二人を包んでいた。
「ここで何が起こったのか、調べないと…でも、本当に大丈夫かな…」真奈美は自分に言い聞かせるように呟いた。
「もし、叔父さんの消えた理由がわかるなら、やる価値はあると思う。」翔太は少し強引にそう言ったが、内心は不安でいっぱいだった。「でも、本当に無理しないでくれ。」
真奈美は翔太の言葉に頷き、再び歩き出した。足跡はますます増えていき、二人を取り囲むように広がっていった。視界の端には奇妙な人影がちらつき始め、かすかな囁き声が廊下の壁を通り抜けるように響いていた。
「…もう後戻りできないのかもね。」真奈美が呟いた。
翔太はそれに答えることができず、ただ彼女の肩に手を置き、そっと励ますことしかできなかった。

第四章: 絶望の深淵

二人はついにビルの最上階にたどり着いた。そこには朽ちたオフィス家具が散乱しており、窓からは東京の街並みがぼんやりと見えていた。しかし、その景色はどこか異常で、現実感が失われているように感じられた。
「ここに、何かがある…何かを感じる。」真奈美は窓の外を見つめながら言った。「でも、それが何かはわからない。」
「真奈美、ここは危険だ。」翔太は彼女の手を取り、出口を探そうとした。「すぐにここを出よう。こんな場所に長くいたら、俺たちも…」
その瞬間、背後で足音が響いた。二人は同時に振り返ったが、そこには誰もいなかった。ただ、彼らの周りには無数の足跡が広がり、まるで生き物のように動き出した。
「出られない…?」真奈美は声を震わせた。
足跡は二人を包囲し、逃げ場を失わせた。二人は背中合わせに立ち、必死に何かに抗おうとしたが、その努力は虚しく、足跡が彼らの意識を飲み込んでいった。

最終章: 消えゆく存在

真奈美が最後に感じたのは、翔太の手が冷たくなり、そしてその手が徐々に消えていく感覚だった。彼女は恐る恐る振り返ったが、翔太の姿はすでに消えていた。代わりに彼の足元には、新たに現れた足跡が一つ、静かに佇んでいた。
「翔太…?」真奈美は必死に翔太の名前を呼んだ。しかし、返事はなく、その声は廃墟の暗闇に吸い込まれるようにして消えた。
恐怖が彼女の心を締めつけた。翔太が消えてしまったという事実が、現実味を帯びて彼女を襲ってくる。真奈美は足元に残された足跡を見つめながら、まるでその足跡が何かを訴えているかのように感じた。
「出なきゃ…ここから出なきゃ…」彼女は自分に言い聞かせ、震える足で一歩を踏み出した。しかし、その瞬間、足元で新たな足跡が現れ、まるで彼女の進行方向を塞ぐかのように広がっていった。
「何なのよ、これ…!」真奈美は足跡を避けるようにして、反対方向へ逃げ出そうとした。しかし、どこに向かっても足跡が現れ、彼女の進路を塞いでいく。まるでビルそのものが彼女を閉じ込めようとしているかのようだった。
真奈美は必死にビルの出口を探し、かつて登ってきた階段を思い出そうとしたが、頭が混乱し、廊下はすでに迷路のように変わり果てていた。壁の向こうからはかすかな囁き声が響き、視界の端には形の歪んだ人影がちらつく。それはどれも、現実と非現実の境界が曖昧な存在であり、真奈美はそれに取り囲まれている感覚に襲われた。
恐怖に支配された真奈美は、ついに最上階の一室へと逃げ込んだ。そこは、かつてのオフィスが朽ち果てたままの姿で残されていた。窓の外には東京の街並みがぼんやりと見えるが、その景色もどこか不気味で、まるで別の次元を覗いているかのような錯覚を覚えた。
「ここから出る方法はないの…?」真奈美は自分に問いかけたが、その答えはどこにもなかった。彼女は窓際に寄り、外の景色を見つめたが、現実感が薄れ、まるで別の世界に引き込まれていくような感覚に襲われた。
その瞬間、背後で足音が響いた。真奈美は咄嗟に振り返ったが、そこには誰もいなかった。ただ、彼女の周りには無数の足跡が広がり、まるで生き物のように動き始めた。
「ここから出られない…」真奈美はその現実に打ちひしがれた。足跡は彼女を包囲し、逃げ場を完全に失わせた。真奈美は恐怖に駆られて、部屋の隅へと追い詰められた。
彼女は必死に懐中電灯を振り回し、光で足跡を照らしたが、その光が足跡をかき消すことはなく、むしろ足跡が一層鮮明に浮かび上がるだけだった。足跡は徐々に彼女に近づき、ついには彼女の足元まで迫ってきた。
真奈美は背中を壁に押し付け、最後の力を振り絞って叫んだ。「翔太、どこにいるの?助けて…お願い、誰か…!」
しかし、その声もまた、足跡に飲み込まれるかのようにして消えた。彼女の視界は徐々に暗くなり、自分の存在が薄れていく感覚に襲われた。手が、足が、そして体全体が、まるで砂のように崩れていく。
真奈美が最後に目にしたのは、ビルの外でぼんやりと見える街の風景と、彼女の周りを取り囲む無数の足跡だった。それらの足跡は彼女の存在を呑み込み、彼女をこの世界から消し去っていった。
そして、次の瞬間、真奈美もまた消え去った。
その夜、二人の若者が行方不明になったというニュースが静かに広まった。都市伝説は現実となり、ビルの中に彼らの足跡が新たに加わった。ビルはまたひとつ、消えゆく足跡の伝説を重ね、誰も近づけぬ場所として、静かにその存在を主張し続けた。


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